メキシコの都市ノガレス(ソノラ州)は、違法薬物の密輸経路(メキシコ→アメリカ合衆国)において要所の1つでした。ノガレはメキシコ=アメリカ合衆国の国境に接しており、国境を越えたところにはアメリカ合衆国のノガレス(アリゾナ州)が控えています。アメリカ合衆国のノガレスには州間高速道路(アメリカ合衆国の高速道路:Interstate Highway)の19号線が通っています(*1)。
ちなみにメキシコ=アメリカ合衆国の国境線の長さは3,215kmです(*2)。
アメリカ合衆国側において、メキシコとの国境に接し、加えて州間高速道路の通る都市は限られています。2025年時点ではカリフォルニア州サンディエゴ(5号線)、先述のアリゾナ州ノガレス(19号線)、テキサス州エル・パソ(10号線)、テキサス州ラレド(35号線)、テキサス州マッカレン(2号線)、テキサス州ブラウンズビル(69号線イースト)の6都市が該当します(*1)。ただしマッカレンの2号線、ブラウンズビルの69号線イーストは2025年時点で、他の州間高速道路とはつながっていません (*1)。
ノガレスに話を戻します。高さ20フィート(約6m)のフェンスが、双方のノガレスを分断していました(*3)。
ノガレスは急な坂の上に立っていました(*3)。夏(特に7月上旬)に雨が降ると、その水が「メキシコ側のノガレス」から「アメリカ合衆国側のノガレス」に流れ込みました(*3)。結果アメリカ合衆国のノガレスの道、排水溝、家、その他が冠水しました(*3)。冠水対策としてノガレスでは地下に排水路が設けられ、雨水はその地下排水路を通りサンタ・クルーズ川に排水されました(*3)。
この地下排水路はメキシコ、アメリカ合衆国の双方に通じていました(*3)。つまり一方の国の地下排水路に入れば、反対側の国の地下排水路に辿り着くことができました(*3)。またこの地下排水路には、双方のノガレスで約70の排水口がありました(*3)。この地下排水路はメキシコ側では「アロヨス」(arroyos)と呼ばれました(*3)。
密輸グループはこの地下排水路を「密輸経路」として利用していきました(*3)。
アメリカ合衆国側は、この地下排水路に巨大な鉄製扉を設置し、密輸人達の侵入を防ごうとしました(*3)。一方、密輸人達は溶接機で扉をあけて、対抗しました(*3)。
ある日、修理部隊が地下排水路でトンネルを発見しました(*3)。それは、元々の設計図にはないトンネルでした(*3)。調査の結果、そのトンネルはメキシコ側からアメリカ合衆国側の古い教会までつながっていました(*3)。そのアメリカ合衆国の古い教会の隣にはバーガーキングがありました(*3)。さらに他の場所でもトンネルが見つかりました(*3)。
密輸人達がトンネルを開通させていたと考えられます。
メキシコ側のノガレスには「ソナ・デ・トレランシア」(zona de tolerancia:許容地帯)と呼ばれる赤線地帯(売春地帯)があります(*4)。バー、売春宿、モーテルで売春が提供されています(*4)。
インサイト・クライム(InSight Crime)2023年1月20日のインタビュー取材において、ノガレスの取材源は「シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)がノガレスの人身売買ビジネスから金銭を徴収しているかもしれないが、管理まではしていない」と語っていました(*4)。またその取材源は「コヨーテ(coyotes)が移民を人身売買業者に売っているかもしれない」とも語っていました(*4)。コヨーテとは「人身密輸業者」のことです(*5)。
また現地の情報筋によれば、コロンビアとベネズエラの女性は、中央アメリカ出身の女性やメキシコ人女性よりも高い価格で売られていました(*4)。
<引用・参考文献>
*1 連邦幹線道路局(Federal Highway Administration)サイト「National Highway System」https://hepgis-usdot.hub.arcgis.com/pages/national-highway-system
*2『エリア・スタディーズ91 現代メキシコを知るための70章』「メキシコと米国の国境地帯-21世紀における国境の意味」(G・カレーニョ/長岡誠、2019年、明石書店),p108
*3 『Cocaine: An Unauthorized Biography』(Dominic Streatfeild,2003,Picador),p369-370
*4 Steven Dudley etc.(2023). The Geography of Human Trafficking on the US-Mexico Border. InSight Crime,p14
*5 Jeremy Slack and Howard Campbell.(2016).On Narco-coyotaje: Illicit Regimes and Their Impacts on the US– Mexico Border. Antipode ,p2
doi: 10.1111/anti.12242
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