裏社会における「商流」と「物流」

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 ビジネスの世界では「商流」という言葉が時々出てきます。下村博史によれば、商流とは「商品の売買によって、その商品の所有権が移転してゆく商取引上の経路のこと」です(*1)。一方、物流は、物理的な商品の流れです。商流と物流の経路が異なる場面が度々あります(*1)。

 裏社会においても商流と物流の経路が異なる場面があります。

 メキシコのミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルド(Miguel Ángel Félix Gallardo)は1977年後半、コロンビアのメデジン・カルテルの一派と提携、コカイン密輸業務の受託に成功しました(*2)。提携以降、フェリックス・ガジャルドの組織はメキシコ経由の密輸経路で毎月1.5~2トンの高品質コカインをアメリカ合衆国に運び込みました(*2)。

 当初メデジン・カルテルは、フェリックス・ガジャルドの組織に対し、密輸代行の代金をメキシコ通貨・ペソで決済していました(*3)。メキシコ側がアメリカ合衆国内で

 しかし後にフェリックス・ガジャルドの要望で、メデジン・カルテルはコカインでの支払いに切り替えました(*3)。運搬コカインの35%(もしくは50%)が「メキシコ側の密輸代行手数料」となりました(*3)。

 話が複雑にならないよう、メデジン・カルテルが密輸代行の代金をペソで支払っていた時代に話を限定します。この場合、コカインの商流に、メキシコ側のフェリックス・ガジャルドの組織は入っていません。

 おそらく、コカインの商流と物流の経路は以下のようだったと推測されます。

<コカイン>

【商流の経路】

「メデジン・カルテル」→「アメリカ合衆国の卸売組織もしくは小売組織」

【物流の経路】

「コロンビア(メデジン・カルテル)」→「メキシコ(フェリックス・ガジャルドの組織)」→「アメリカ合衆国(現地の卸売組織もしくは小売組織)」

 1980年以降、ワンパーセンターズ(1%ers)系バイカークラブ「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)メルボルン支部のピーター・ジョン・ヒル(Peter John Hill)は、支部の仲間とともに、アンフェタミン(覚醒剤の一種)の密造及び密売を手掛けていきました(*4)。ピーター・ジョン・ヒルはアンフェタミン製造方法を、アメリカ合衆国オークランド支部の者から教えてもらっていました(*4)。その代わり、ピーター・ジョン・ヒルは、アメリカ合衆国オークランド支部側にアンフェタミンの原料になるP2P(フェニル-2-プロパノン)を無償で送っていました(*4)。

 当時アメリカ合衆国においてP2Pは「違法薬物」として取り扱われていましたが、オーストラリアでは「合法薬物」として取り扱われていました(*4)。しかしオーストラリアではP2Pは製造できませんでした(*5)。よってメルボルン支部4人組はフランスの会社から合法的にP2Pを輸入しました(*4)。その後、メルボルン支部4人組はパイナップル缶詰に穴を空けジュースを抜いた後に、缶詰の中にP2Pを注入し、それをアメリカ合衆国に送りました(*4)。

 この場合、P2Pの商流と物流の経路は以下だったと推測されます。

<P2P>

【商流の経路】(名目上)

「フランスの会社」→「メルボルン支部4人組」

【商流の経路】(実質上)

「フランスの会社」→「オークランド支部」

【物流の経路】

「フランス」→「オーストラリア」→「アメリカ合衆国」

<引用・参考文献>

*1 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「商流」(下村博史、2009年、白桃書房),p89

*2 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』(David F. Marley,2019,Abc-Clio Inc), p137

*3 『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』(ロベルト・サヴィアーノ著、関口英子/中島知子訳、2015年、河出書房新社), p33

*4 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p104-109

*5 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2009,Allen & Unwin), p192

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