高額紙幣廃止がインドマフィアに与える影響

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 約12億人の人口大国インドでショック療法的な金融政策が実施され、インド全体に衝撃を走らせています。11月8日、モディ首相より、最高額紙幣1000ルピー(約1600円)と2番目の高額紙幣500ルピー(約800円)が4時間後に廃止されると突然国民に伝えられました(*1)。実際は12月30日までの猶予期間が設けられ、保有する1000ルピー紙幣と500ルピー紙幣を、新紙幣の2000ルピーと500ルピーに交換することが国民に課せられました(*1)。加えて1回の交換金額が4000ルピーまでに制限された為、交換作業を煩わしくしています(*1)。1、2番目の高額紙幣を廃止する為、廃止の総額は流通額の86%になります(*1)。インドは1978年にも高額紙幣を廃止しましたが、その時の廃止総額は約1.7%だったと言われています(*2)。インドにとって今回の高額紙幣廃止は、経験したことのない社会的実験といえます。

 インド政府が高額紙幣廃止に踏み切った理由には、偽装紙幣やブラックマネーの一掃があります(*1)。インドにおいて地下経済の占める割合は大きく、GDP(国内総生産)の2~4割と言われています(*3)。2014年時点、インドの名目GDPは約2兆4百ドルです(*4)。約4000~8000億ドル、日本円に直すと(1ドル=110円)、約44~88兆円がインドの地下経済の規模となります。日本の名目GDP約500兆円と比較すると、インド地下経済の存在感の大きさが実感できます。インド地下経済の主たるプレイヤーがインドのマフィアです。物乞いビジネス、人身売買ビジネス、麻薬ビジネスを各地のマフィアが営んでいます(*3)。加えて偽造紙幣流通ビジネスを営んでいるマフィアもいます(*3)。偽造紙幣流通ビジネスとして代表的な組織が「Dカンパニー」と呼ばれるムンバイ・マフィアです(*3)。偽造紙幣の製造場所の1つとして隣国パキスタンが疑われており、Dカンパニーなどの組織は偽造紙幣をインド国内に運び入れる為のネットワークを有することで、利益を得ています(*3)。インドにおいて店舗で買い物する際、1000ルピーか500ルピーを出すと、店舗側による紙幣の真贋チェック作業が行われます(*3)。偽造紙幣の広がりを物語るインドの商習慣です。

 東西問わず、現代の裏社会組織は銀行のチェックが入らない現金取引を好みます。偽造紙幣ではない本物の紙幣を大量にインドマフィアが退蔵していることは想像に難くありません。しかし高額紙幣廃止実施はインドマフィアにとっては致命的な事態です。旧紙幣保有者に課せられる「新紙幣との交換作業」は当然記録が残る為、インドマフィアにとって、「現金の大量保有」という事実が当局に知られる可能性が高まります。「新紙幣との交換作業」はインドマフィアにとって摘発リスクが高い行為なのです。

 インドの伝統的な蓄財の1つとして、金の保有があります。インドの2014年輸入品目において、輸入金額第三位の品目は「金・銀」で、「金・銀」の構成比は7.6%となります(*5)。インドにおいて金の保有熱が高いことが窺えます。「新紙幣との交換作業」を避けたいインドマフィアが採りうる策として、金の購入が思い浮かぶかもしれません。金の購入で旧紙幣を捨て去り、12月30日以降金の販売で新紙幣を手にするという方法です。しかし金を売る側が今度「旧紙幣」という厄介物を抱え込むことになる為、12月30日以降まで金を積極的に売ろうとはしないでしょう。インドマフィアにとっては、採るべき策が見つからない状況になっています。

<引用・参考文献>

*1 『週刊エコノミスト』2016年11月29日号「ワールド・ウオッチ インド」(中島敬二著), p75

*2『日刊ゲンダイ』2016年11月25日号(24日発行)「稼げる隠れ銘柄まだある!<173>住友精化」(たかひら友実), p6

*3 『選択』2014年03月号「インドを蝕む 「闇経済」」

*4 日本貿易振興機構のサイト(https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/stat_01.html

*5 日本貿易振興機構のサイト(https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/stat_05.html

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