アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)は1961年7月、ニュージーランドのオークランド(Auckland)に支部を設立しました(*1)。オークランドはニュージーランドの「北島北部」に位置する都市です。
オークランド(Auckland)支部は、ヘルズ・エンジェルスにとって初の国外支部であり、アメリカ合衆国系バイカーギャングにとっても初の国外支部とされています(*1)。実は1960年時点でオークランド(Auckland)ではヘルズ・エンジェルスを名乗る組織がすでに活動していました(*2)。アメリカ合衆国側のヘルズ・エンジェルスがオークランド(Auckland)勢を「支部」に昇格させたのが1961年7月だったと推測されます。
オークランド(Auckland)支部の設立に関わった重要人物にアメリカ人のジム・カリーコ(Jim Carrico)がいました(*2)。ジム・カリーコ自身はアメリカ合衆国ではヘルズ・エンジェルスの構成員ではなく、関係者に過ぎませんでした(*2)。しかしジム・カリーコはニュージーランドのマスコミの前では「ヘルズ・エンジェルスのサンフランシスコ支部の構成員である」と嘘をついていました(*2)。
ヘルズ・エンジェルスのオークランド(Auckland)支部の前身は、オークランドの「ミルクバー・カウボーイズ」(milk bar cowboys)と呼ばれた不良青年集団でした(*2)。1950年代のニュージーランドでは若者の溜まり場(飲食もできた場所)を「ミルクバー」(milk bar)と呼んでいました(*3)。転じて不良青年集団の総称の1つとして「ミルクバー・カウボーイズ」という言葉が用いられていました(*3)。
ヘルズ・エンジェルスはアメリカ合衆国では1948年「ピスト・オフ・バスターズ・フロム・ベルドゥー」(Pissed off Bastards from Berdoo)という組織名から改称する形で、カリフォルニア州サンバーナーディーノで誕生しました(*4)。後にヘルズ・エンジェルスの本部ともなるカリフォルニア州オークランド(Oakland)支部は1957年に設立されました(*5)。
ヘルズ・エンジェルスの歴史から踏まえると、1961年ニュージーランドのオークランド(Auckland)支部設立(つまり国外進出)は早期だったことが分かります。ニュージーランドの裏社会においても「ヘルズ・エンジェルスのオークランド支部」設立は大きな出来事でした(*2)。
オークランド(Auckland)支部はアメリカ合衆国のヘルズ・エンジェルスの影響を受け(*2)、様々な取り組みをしました。まずオークランド支部は構成員に対し、組織独自のワッペン(patch)の着用を求めました(*6)。独自ワッペンの着用は構成員に「組織の一員であるという自覚」を促しました(*6)。ワッペンの存在はオークランド(Auckland)支部組織の結束力に寄与したのです。
またオークランド支部は「組織運営システム」と「組織内ルール」を取り入れていきました(*6)。組織運営システムの強みは、組織内の重要人物が不在になった場合でも、組織を円滑に動かすことができる点です(*6)。つまり組織運営システムを導入すれば、組織はトップや幹部等の属人性に頼らずに運営していけたのです。ヘルズ・エンジェルスでは役職の空きが出た場合、組織内の選挙によって次期役職者が決定されました(*6)。組織内ルールを担保したのが、会費や罰金の徴収でした(*6)。会費や罰金の徴収により構成員は「組織内のルール」を内面化していくことができました(*6)。後に他のニュージーランドのアウトロー組織もオークランド(Auckland)支部の方法を取り入れていきました(*6)。
以上のことからヘルズ・エンジェルスのオークランド(Auckland)支部は、ニュージーランド在住アウトロー組織に対し、「改革」を促した組織といえます。
ニュージーランドのヘルズ・エンジェルスは後に1960年代前半にハミルトン(Hamilton)支部、1965年頃にファンガレイ(Whangarei)支部を設立しました(*6)。ハミルトンはワイカト地方(ニュージーランドの北島北中央部の地方)の都市です。ファンガレイはノースランド地方(ニュージーランドの北島最北端の地方)の都市です。ヘルズ・エンジェルスはニュージーランドにおいては、まず「北島北部のエリア」から勢力を拡げていったことが窺えます。
ちなみにジム・カリーコは1961年4月、オークランド(Auckland)のヘルズ・エンジェルスを去りました(*6)。オークランド(Auckland)支部が正式に承認されたと考えうる1961年7月の前に、ジム・カリーコは去ったことになります。オークランド(Auckland)初代支部長にはピート・スキナー(Pete Skinner)が就きました(*2)。
<引用・参考文献>
*1 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin),p26
*2 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press), p16-19
*3 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge),187
*4 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』,p24
*5 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton),p38
*6 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p20-21
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