オーストラリアのレベルズ

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 2012年時点のオーストラリアのバイカーギャングで「最多構成員数」を擁していたのが「レベルズ」(The Rebels)でした(*1)。レベルズの源流組織は1969年ブリスベン(クイーンズランド州)で結成されました(*2)。源流組織の組織名は「コンフェデレイツ」(Confederates)でした(*3)。この源流組織の創設者は、クリント・ジャックス(Clint Jacks)でした(*2)。

 コンフェデレイツとは、アメリカ合衆国の南北戦争(1861~1865年)における「南軍」を意味する言葉です(*3)。1970年代レベルズはアメリカ合衆国系の「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)と抗争に至りました(*1)。

 レベルズは特に1990年代後半、勢力を拡張させました(*1)。1994年以降オーストラリアのバイカーギャング業界では、クラブの統合が進み、178あったクラブの数は32程度まで減少しました(*4)。レベルズが勢力を拡張させた1990年代後半とは、まさにクラブの統合が盛んな時期だったのです。アーサー・ベノ(2012年出版の書籍情報)によればレベルズの支部数はオーストラリア全土に43あり、構成員数は約600人でした(*1)。一方アダム・シャンド(2013年出版の書籍情報)によれば2011年までにレベルズの支部数はオーストラリア全土で70に達し、構成員数は約2,000人に至りました(*5)。文脈上2011年までに、オーストラリア全土のレベルズ支部数は43から70に、構成員数は600人から2,000人に増加していったと考えられます。

 バイカーギャング業界では1支部あたりの構成員数上限は24人で(*6)、下限が5~6人といわれています(*7)。昔のレベルズ構成員600人を単純に支部数の43で割ると、1支部あたり約14人になります。業界の慣習に沿った支部の構成員数で昔のレベルズは活動していたと考えられます。

 一方、支部70で構成員2,000人の時代では、上と同じように計算すると1支部あたり約29人になります。2011年以降のレベルズでは、バイカーギャング業界の「1支部あたりの構成員上限」(24人)を超える支部が沢山あったと推測されます。

 近年レベルズはアメリカ合衆国に進出しています(*8)。アメリカ合衆国にはレベルズ以外に、「コマンチェロズ」(Comancheros)というオーストラリアのバイカーギャングも進出しています(*8)。また2018年時点でレベルズはスウェーデン、マルタ、タイにも進出していました(*2)。

 隣国のニュージーランドには、2011年前半レベルズは地元の「トライブスメン」(Tribesmen)のメンバーを多数取り込む形で、進出しました(*9)。トライブスメンはバイカーギャングであり、主にマオリ人や太平洋系の人によって構成されていました(*10)。ちなみにニュージーランドにおけるマオリ人及び太平洋系のバイカーギャングとしては「ハイウェイ61」(Highway61)という組織も有名です(*10)。1990年代にハイウェイ61は勢力を拡張、ニュージーランド最大のバイカーギャングになりました(*11)。レベルズ同様、ハイウェイ61も1990年代に組織拡張を遂げていたのです。ハイウェイ61はオーストラリアに進出、シドニーとブリスベンに支部を設けました(*11)。

 レベルズ拡張の要因としては、他組織(クラブ)に比し「構成員」(a full member)の地位を得やすかったことが挙げられます(*1)。レベルズは1990年代に採用規定を緩和しました(*12)。ヘルズ・エンジェルスやジプシー・ジョーカーズ(Gypsy Jokers)では構成員の地位を得るまでに数年要した一方、レベルズでは3~6カ月の期間で構成員の地位を獲得することができました(*1)。

 「構成員」の地位獲得におけるハードルの低さは、他のクラブを吸収する時に役立ちました。吸収された側のメンバーは即「レベルズの構成員」となれた為(*1)、レベルズ傘下に入ることの抵抗感は軽減されたと考えられます。

 ちなみにオーストラリア系バイカーギャング「コマンチェロズ」(Comancheros)においては1983年以前、試用期間は「最短3カ月」でした(*13)。

 ジプシー・ジョーカーズは1969年ヘルズ・エンジェルス「シドニー支部」の支援の下、結成されました(*14)。

 レベルズの有名なトップとしてはアレックス・ベラ(Alex Vella)がいました(*2)。アレックス・ベラはマルタ出身で14歳の時、家族とともにオーストラリアに移住しました(*12)。アレックス・ベラは1972年、当時19歳で、レベルズに入りました(*12)。またアレックス・ベラは元ボクサーでもありました(*12)。

 アレックス・ベラ出身のマルタは、地中海の島国で、1964年イギリスから独立しました(*15)。マルタの人々はマルタ語に加えて、イギリスの植民地だったこともあり英語を話すことができました(*15)。第二次世界大戦後、マルタからオーストラリアに移住する人数が増えました(*15)。マルタ系の多くは、シドニーやメルボルンに住みました(*15)。

<引用・参考文献>

*1 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin), p67-68

*2 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Rebels」(Bill Hayes,2018, Motorbooks)

*3 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge),p173

* 4『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton),p86

*5 『OUTLAWS  THE TRUTH ABOUT AUSTRALIAN BIKERS』(Adam Shand,2013,Allen & Unwin),p224

*6 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』, p81

*7 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』,p131

*8 『Dixieland Gangs & Disruptive Groups: Crime & Impact on the Southeast United States(English Edition) Kindle版』(Gabe Morales,2021,Amazon Services International)

*9 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press),p249

*10 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』,p108-109,242

*11 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』,p215

*12 ABC NEWSサイト「Alex Vella: From poverty to president of Australia’s feared Rebels Motorcycle Club」(the National Reporting Team’s Mark Willacy in Malta,2015年7月13日)

https://www.abc.net.au/news/2015-07-13/who-is-alex-vella/6607342

*13 『Brothers in Arms:Bikie Wars』(Lindsay Simpson & Sandra Harvey,2012,Allen & Unwin),p21

*14 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』,p69

*15 『エリア・スタディーズ7  オーストラリアを知るための58章 【第3版】』「さまざまな民族集団 社会主流化度の差と母国での対立の輸入」(越智道雄、2011年、明石書店),p227-228

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