アメリカ合衆国系バイカーギャング「ペイガンズ」(Pagans)は、1959年メリーランド州プリンスジョージズ郡で結成されました(*1)。メリーランド州はアメリカ合衆国東部の大西洋岸に位置する州です。創設者の1人にルー・ドブキンス(Lou Dobkins)がいました(*2)。ルー・ドブキンスは海軍の退役軍人であり(*3)、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)の生化学者でした(*2)。ルー・ドブキンスが生化学者だったことも関係したのか、ペイガンズは早くからメタンフェタミン(覚醒剤の一種)の密造に成功し(*2)、1968年までにはバイカーギャング業界において東海岸の違法薬物市場を支配するまでに至りました(*1)。
ペイガンズの初代トップ職(national president)に就いたのは、ジョン・“サタン”・マロン(John “Satan” Marron)でした(*3)。ジョン・“サタン”・マロンは「サンズ・オブ・サタン」(Sons of Satan)というバイカーギャングを出身母体としていました(*3)。
現在ペイガンズは東海岸に100前後の支部、1,500人以上の構成員を擁しているといわれています(*4)。ペイガンズは、アメリカ合衆国の「5大バイカーギャング」の1つに位置づけられています(*4)。5大バイカーギャングとは、ペイガンズの他にヘルズ・エンジェルス(Hell’s Angels)、アウトローズ(Outlaws)、バンディドス(Bandidos)、モンゴルズ(Mongols)を指します(*4)。文献によってはモンゴルズではなく、サンズ・オブ・サイレンス(Sons of Silence)が5大バイカーギャングに入ります(*5)。サンズ・オブ・サイレンスを含めた6つの大手バイカーギャングのうち、ペイガンズだけが海外進出をしていません(*5)。しかし別の資料(2009年)によればペイガンズはオーストラリアに3支部を擁していました(*6)。
アメリカ合衆国内ではペイガンズはバージニア州(大西洋岸南部)より南部に進出を図りましたが、進出には失敗をしました(*7)。
ペイガンズは5大バイカーギャングの中でモンゴルズとは友好的な関係を有していました(*8)。またペイガンズのサポートクラブとしては「トライブ」(Tribe)、「バンダナズ」(Bandanas)が知られていました(*8)。
ペイガンズは五大バイカーギャングの中で最も「秘密主義」をとる組織といわれています(*4)。バイカーギャングでは構成員着用のベスト背部に、パッチ(組織専用のワッペン)が縫いつけられます(*9)。パッチは通常「上段」「組織ロゴ」「下段」の3つで構成されています(*9)。
また通常、下段のパッチ(bottom rocker)には「組織もしくは支部(活動拠点)の地名」が入っています(*9)。しかしペイガンズの場合、下段には「支部の地名」が入っていません(*4)。ペイガンズ側が支部の地名情報をパッチに入れていないのは、構成員の活動拠点を警察組織に知らせたくないからです(*4)。
ペイガンズ支部(いわゆるペイガンズ2次団体に該当)の大半は、中小規模都市もしくは地方に設けられています(*10)。1支部の構成員数は5~50人以上です(*10)。一般的にバイカーギャング支部構成員数の上限は、24人といわれています(*11)。ペイガンズでは支部構成員数の上限が高く設けられているようです。
2009年の資料によれば、地方のペイガンズ支部は、ほとんどクラブハウス(支部の施設)をもちませんでした(*6)。大手バイカーギャングの中でペイガンズが最も「遊牧的」な組織でした(*6)。
1次団体・ペイガンズ組織運営の特徴として「マザーグループ」(Mother Group)の存在が挙げられます(*12)。マザーグループのことを、マザークラブ(Mother Club)と呼ぶ場合もあります(*10)。マザーグループは、1次団体・ペイガンズの「最高意思決定機関」の機能を担っています(*12)。マザーグループでは新規構成員の採否、規則の制定等が行われていました(*10)。マザーグループは13人の委員で構成されています(*10)。マザーグループの委員はいくつかの支部を管轄する役割(いわゆる「ブロック長」)も担っています(*10)。
ペイガンズのトップ(national president)や副トップ(vice president)、「衛視長」(sergeant-at-arms)もマザーグループを構成(*10)していますが、「13人の委員」に含まれているは不明です。つまりマザーグループは、「トップら3人」+「13人の委員」で構成されている可能性もあれば、「トップら3人を含む13人の委員」で構成されている可能性もあります。
ペイガンズにおいてマザーグループの指示・命令は絶対のようで、各支部は従う必要があります(*10) (*12)。ペイガンズは「マザーグループ(1次団体)集権的な組織」といえます。一方、ヘルズ・エンジェルスは各支部に一定の「自治権」を付与しています(*12)。ヘルズ・エンジェルスは「支部(2次団体)分権的な組織」といえます。
ペイガンズ各支部は毎月マザーグループに上納金を払っています(*10)。またペイガンズ各支部も支部内構成員から金銭を徴収しています(*10)。マザーグループに払う上納金の一部は、構成員からの徴収によって賄われていると考えられます。
フロリダ州拠点の「ワーロックス」(Warlocks)も、ペイガンズのマザーグループのような「最高意思決定機関」を設けています(*12)。このワーロックスの最高意思決定機関は「カウンセル」(Counsel)と呼ばれています(*12)。
ちなみにペイガンズはアメリカ・マフィアと関係を持っていました(*13)。アメリカ・マフィア側が、ペイガンズの構成員を「ヒットマン」等として用いていたといわれています(*13)。ペイガンズの構成員は、アメリカ・マフィア内の粛清においても、「実行役」を担ってきました(*13)。ペイガンズは「アメリカ・マフィアの戦闘部隊」として機能していた時もあったと考えられます。
<引用・参考文献>
*1 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada), p190
*2 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』, p15
*3 『Riding with Evil: Taking Down the Notorious Pagan Motorcycle Gang』(Ken Croke&Dave Wedge,2022,William Morrow), p64-65
*4 『Riding with Evil: Taking Down the Notorious Pagan Motorcycle Gang』, p14-15
*5 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p103-104,120
*6 James F. Quinn and Craig J. Forsyth.(2009).leathers and rolexs: the symbolism and values of the motorcycle club, Deviant Behavior,30(3),pp22-23
*7 James F. Quinn and Craig J. Forsyth.(2009).leathers and rolexs: the symbolism and values of the motorcycle club, Deviant Behavior,30(3),pp17
*8 『Riding with Evil: Taking Down the Notorious Pagan Motorcycle Gang』, p137
*9 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p9-10
*10 『Riding with Evil: Taking Down the Notorious Pagan Motorcycle Gang』, p61-62
*11 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin), p80-81
*12 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p99
*13 『The Mafia Encyclopedia, Third Edition』(Carl Sifakis,2005,Facts On File),p351
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