ニューヨーク市を拠点にするアルバニア系アウトロー組織は2000年代、大麻の密輸及び違法栽培を手掛けていきました(*1)。アルバニア系組織は密輸面においてはカナダから大麻を調達、違法栽培面ではニューヨーク市内の一部エリア(スタテンアイランド区、ブルックリン区、クイーンズ区)に「大麻工場」を設置しました(*1)。1990年代ニューヨーク市のアルバニア系組織は詐欺(*2)、強盗、窃盗等を主な資金獲得源としていました (*1)。
2000年代初めジア・ベリシャ(Zia Berisha)、アルベン・ゼネラジ(Arben Zenelaj)、アストリクト・デミリ(Astrict Demiri)などの各組織が、主にニューヨーク市在住のアルバニア人達に大麻を密売していきました(*1)。ニューヨーク市在住のアルバニア人達が主な顧客層だったことから、営業エリアは限定的でした(*1)。ニューヨーク市のアルバニア系組織業界においてジア・ベリシャらの3組織は大麻ビジネスの「先発組」に位置づけられます。
2004~2005年になると他のアルバニア系組織も大麻ビジネスに続々と参入してきました(*1)。後発組の中で特に有名だったのがブルーノ・クラスニキ(Bruno Krasniqi)の組織でした(*1)。以前からニューヨーク市のアルバニア系組織はイタリア系組織と提携を結んでいましたが、関係性はイタリア系組織の「ジュニアパートナー」という扱いでした(*1)。クラスニキの組織はアルバニア系組織の中で強豪であったことに加えて、イタリア系組織とは張り合う程の力を有していました(*1)。クラスニキの組織はニューヨーク市の他にミシガン州、コネチカット州、アメリカ合衆国北東部の他地域に進出していました(*1)。
クラスニキの組織は、マリファナ(乾燥大麻)密売を主要資金獲得源としていました(*1)。クラスニキの組織はカナダからマリファナを仕入れていました(*1)。
ジャビット・タキ(Gjavit Thaqi)の組織も2000年代マリファナをカナダから仕入れていました(*1)。またタキの組織はメキシコからもマリファナを仕入れていました(*3)。マリファナの賞味期限は短く、7~10日で鮮度が落ちていくといわれています(*4)。賞味期限の短さから、マリファナを収穫したら即、市場に出していく必要があります(*4)。つまりマリファナは基本的には長期保存困難な違法薬物です。ゆえにニューヨーク市のアルバニア系組織は「距離的に近い隣国カナダ及びメキシコ」からマリファナを密輸していたと考えられます。またニューヨーク市内における大麻工場設置も、検挙リスクはあるものの、マリファナの賞味期限の短さを踏まえると、合理的だったと考えられます。
ちなみに長期保存可能な違法薬物の1つとして、覚醒剤があります(*4)。しっかりと保管すれば半年から1年は、覚醒剤の品質は維持されます(*4)。
しかしながら過去にはアメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)が1990年代後半、南アフリカからイギリスにマリファナを密輸していました(*5)。ヘルズ・エンジェルスは、イギリスに向けて輸出される錬鉄製家具の中にマリファナを隠していました(*5)。ゆえにそのマリファナは、長期保存の処理をされていた可能性があります。また日本では過去、主に海外から航空便や船便でマリファナを仕入れていました(*6)。船便の場合、日数要する為、そのマリファナも長期保存の処理をされていた可能性があります。
タキの組織は他の違法薬物も扱っていました。タキの組織はMDMAをオランダとカナダ、コカインをメキシコ、コロンビア、ベネズエラ、ペルーから仕入れていました(*3)。違法経路で流れてくる処方薬もタキの組織は取り扱っていました(*3)。ヘロインとメタンフェタミン(覚醒剤)を除きますが、主な違法薬物が揃えられていたことが分かります。タキの組織は仕入れた違法薬物の流通も手掛けており(*3)、元売り~卸売(もしくは小売まで)までの広い領域を担っていたことが分かります。
加えてタキの組織はアルバニアを含めたヨーロッパに向けて、コカインを密輸(再輸出)していました(*3)。密輸方法として、ヨーロッパ向けの輸出用高級自動車の中にコカインを隠すやり方が主にとられていました(*3)。疑われないよう、高級自動車自体の輸出は自動車ディーラー(アルバニア系組織の支配下にある人物)によって合法的に行われました(*3)。ヨーロッパ向け再輸出品が「コカイン」に限られたのは(明らかになってないだけで、もしかしたら別の違法薬物を再輸出していたかもしれません)、マリファナは賞味期限が早いので再輸出に向かない、MDMAはオランダからそもそも輸入している等の理由が背景にあったと考えられます。ともかくタキの組織は幅広く違法薬物ビジネスを展開していたことが分かります。
タキの組織は資金洗浄、銃火器ビジネスも行っていました(*1)。2009年アメリカ合衆国麻薬取締局(DEA)らは、タキの組織に対し合同取締り作戦を実施しました(*1)。作戦において銃火器とともに、943ポンド(1ポンド=約0.45kg)のメキシコ産マリファナが押収されました(*1)。つまり約424kgのメキシコ産マリファナが押収されたのでした。
2000年代ニューヨーク市のアルバニア系組織は、違法薬物を仕入れた際、他の違法薬物と交換(物々交換、バーター取引)するか、もしくは多額の現金で決済していました(*1)。
大麻ビジネス以外の分野も見てみましょう。西ヨーロッパのアルバニア系組織は性風俗業を主要稼業の1つとしていました(*7)。しかし2000年代ニューヨーク市のアルバニア系組織はアメリカ合衆国北東部において、ストリップクラブを除いて性風俗業にほとんど進出していませんでした(*1)。アメリカ合衆国北東部の性風俗業はすでに、他組織によって「既得権益化」されていたことが推測されます。
アレックス・ルダジ(Alex Rudaj)の組織は恐喝、高利貸し(loan-sharking)、違法賭博等を手掛けており、別名「企業」(“the corporation”)と呼ばれていました(*1)。1990年代前半アレックス・ルダジは、ナルディーノ・コロッティ(Nardino Colotti)と一緒に組織(別名「企業」)を立ち上げました(*1)。アレックス・ルダジとナルディーノ・コロッティは元々ジェノベーゼ・ファミリー(Genovese family)の側にいましたが、袂を分かち自身の組織を結成したのでした(*1)。
当初ルダジの組織はウェストチェスター郡(ニューヨーク州)とニューヨーク市ブロンクス区で違法賭博ビジネスをしていました(*1)。2001年ルダジの組織はニューヨーク市クイーンズ区アストリアに進出しました (*1)。クイーンズ区アストリアは長年「イタリア系組織の縄張り」でした(*1)。賭博面ではルケーゼ・ファミリー(Lucchese family)が仕切っていました(*1)。しかしルダジの組織が進出したことで、ルケーゼ・ファミリーは2001年クイーンズ区から撤退することになりました(*1)。
ルケーゼ・ファミリー撤退の数カ月後(2001年8月)、イタリア系組織のガンビーノ・ファミリー(Gambino family)がアストリアの「サッカーフィーバー」(Soccer fever)という名の店で賭場(サイコロゲーム)を開帳しました(*1)。ルケーゼ・ファミリーもかつて「サッカーフィーバー」店内で賭場を開帳していました(*1)。つまりルケーゼ・ファミリーに代わってガンビーノ・ファミリーがルダジの組織と対峙したのです。
ほどなくルダジの組織とガンビーノ・ファミリーの間で抗争が勃発しました(*1)。ルケーゼ・ファミリーをクイーンズ区から追い出し、ガンビーノ・ファミリーとは抗争をしたことから、ルダジの組織はイタリア系組織とは対抗する意思を持っていたことが窺えます。ルダジの組織は2000年代クイーンズ区で少なくとも6つの賭博場を開いていました(*1)。
後にアレックス・ルダジを含む多数のメンバーは逮捕され、2004年RICO法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)に基づき起訴されました(*1)。アルバニア系組織に対するRICO法の適用は、2004年ルダジの組織に対するものが最初でした(*1)。裁判の結果、懲役27年の判決がアレックス・ルダジとナルディーノ・コロッティに下されました(*1)。
ちなみに2021年ニューヨーク州は嗜好用大麻を合法化しました(*8)。一方、アメリカ合衆国全体では、大麻課税法(1937年制定)により、大麻は違法薬物となっています(*9)。
<引用・参考文献>
*1 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』(Jana Arsovska,2015, University of California Press), p103-107
*2 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』, p102
*3 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』, p138-139
*4 『塀の中の元極道 YouTuberが明かす ヤクザの裏知識』(懲役太郎、2020年、宝島社),p99-100
*5 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p287-288
*6 『裏社会 噂の真相』(中野ジロー、2012年、彩図社),p213
*7 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』, p94
*8 『週刊エコノミスト』2021年5月18日号「ニューヨーク 嗜好用大麻を合法化」(津山恵子),p86
*9 『<麻薬>のすべて』(船山信次、2019年、講談社現代新書),p186
コメント