今年(2023年)4月22日兵庫県神戸市長田区のラーメン店で山口組3次団体・湊興業(神戸市須磨区)トップの湊学組長が射殺されました(*1) (*2)。湊興業の上部団体は、山口組主要2次団体・弘道会(愛知県)でした(*1)。弘道会の中で神戸市を本拠地とする組織は湊興業だけでした(*1)。兵庫県の弘道会勢力としては、神戸市の湊興業の他には、2021年時点で、弘道会若中の三木一郎が尼崎市を拠点に活動していました(*3)。三木一郎は一人親方でした(*3)。
初代弘道会体制時(1984~2005年)に(*4) 、湊学は弘道会の若中(直参組長)になりました(*2)。初代弘道会会長は、現在山口組トップの司忍組長でした(*3)。湊学は「古株の直参組長」といえました。2021年時点弘道会の中で、湊学は役職のない「若中」の立場でした(*3)。
最近、射殺場所のラーメン店付近に設置された防犯カメラの動画が流出しました(*5)。動画では実行犯と思われる一人の男が映っていました(*5)。この男は、絆會の金澤成樹若頭ではないかという噂が出ています(*5)。
金澤成樹若頭は2020年9月28日、長野県宮田村の飲食店駐車場の車内で、当時絆會2次団体・竹内組(長野県松本市)トップの宮下聡組長を銃撃しました(*6)。宮下聡組長は重傷を負いました(*6)。銃撃後に金澤成樹は逃走、長野県警は同年10月5日全国に指名手配をしました(*6)。
当時竹内組は絆會を脱退し、弘道会への移籍を決めていました(*6)。実は2020年3月頃、絆會は解散を検討していました(*6)。ところが同年7月下旬頃、絆會は一転、解散せずに活動を続けていくことになりました(*6)。この間竹内組は、上部団体の解散後を踏まえ、移籍先を探していたのでした(*6)。
絆會の存続が明らかになった後、竹内組トップの宮下聡は移籍を撤回せず、そのまま移籍する道を選びました(*6)。
元々、金澤成樹は竹内組の先代組長で、後継者・宮下聡に移籍撤回の説得にあたったのです(*6)。おそらく金澤成樹は、移籍撤回に応じない宮下聡を許せず、最終的に銃撃したのだと考えられます。現在も金澤成樹は指名手配中(逃亡中)です(*5)。
事件後、予定通りに竹内組は弘道会に移籍しました(*7)。後に竹内組は「弘道会2次団体」(山口組3次団体)になり、トップの宮下聡は「弘道会の幹部」の役職にも就きました(*7)。
現在絆會トップの織田絆誠(1966年生まれ)(*8)は18歳の時に、酒梅組2次団体・張本組に入りました(*9)。しかし織田絆誠は21歳の時に張本組を抜けました(*9)。1966年生まれの織田絆誠の21歳時は、1987年頃と考えられます。織田絆誠はその後、大阪市で独立団体「天誠会」を結成しました(*9)。1988年織田絆誠は山口組2次団体・倉本組に加入(*9)、「織田興業」(倉本組下部団体)を結成しました(*10)。金澤成樹は「天誠会」初期からのメンバーでした(*9)。後に金澤成樹も「織田興業の構成員」となっていたことから(*10)、織田興業の前身は天誠会だったと考えられます。
1996年倉本組で内紛が勃発、下部団体所属の金澤成樹は、殺人未遂罪などで長期収監されることになりました(*10) (*11)。金澤成樹は徳島刑務所で服役していました(*12)。金澤成樹の生年月日は1968年6月28日です(*10)。金澤成樹は40歳の時(2008~2009年頃)に社会復帰し、再び織田絆誠(当時は山健組)の下で活動していていくこととなりました(*11)。
その後、金澤成樹は「邦尽会」(山健組2次団体)のトップに就きました(*11)。後には金澤成樹は先述の竹内組のトップにも就きました(*11)。竹内組組長時代の2016年時において金澤成樹は「山健組若頭補佐」の役職に就いており、山健組執行部の一翼を担っていました(*13)。当時の若頭補佐には、山之内健三(誠竜会)、物部浩久(妹尾組)、植野雄仁(兼一会)、水田忠好(村正会)らがいました(*13)。
物部浩久(妹尾組)は山口組2次団体・山健組の若頭、水田忠好(村正会)は山健組の若頭補佐を務めています(*14)。植野雄仁の率いる兼一会は、山口組2次団体になっています(*15)。
絆會の元々の組織名は「任俠団体山口組」でした(*10)。2015年山口組から2次団体・山健組らが脱退、神戸山口組を結成しました(*10)。2017年4月今度は神戸山口組から一部勢力が脱退し、結成したのが任俠団体山口組でした(*10) (*16)。任俠団体山口組は同年(2017年)8月「任侠山口組」に改称しました(*16)。兵庫県公安委員会は2018年3月に任侠山口組を「指定暴力団」に指定しました(*16)。2020年1月任侠山口組は「絆會」に改称しました(*16)。2023年時点でも絆會は「指定暴力団」に指定されています(*17)。
2017年時ジャーナリスト溝口敦氏とのインタビューで任侠山口組トップの織田絆誠は、「2次団体の月会費」を10万円に設定していると述べていました(*18)。また絆會は2022年春から「セカンドバッジ制」を導入しました(*19)。絆會のセカンドバッジとは「代紋のないバッジ」を指しています(*19)。セカンドバッジ制では、絆會の加入希望者はセカンドバッジを付けることになっています(*19)。
2023年時点において絆會の構成員数は約70人で、活動範囲は1都1道1府9県です(*17)。また現在絆會の執行部は、舎弟頭の植木亨(植木組)、統括委員長の前川勝優(絆誠連合会)、若頭代行の小島大享(神戸誠会)、本部長の稲山恵(織田興業)らが担っています(*20)。
山口組は、脱退勢力の1つである絆會を敵視し続けてきました。今後さらなる証拠が出てきて、絆會ナンバー2の金澤成樹が実行犯であることが固まってきた場合、山口組側は看過できないはずです。
<引用・参考文献>
*1 『週刊実話』2023年5月11・18日号, p48-50
*2 『日刊ゲンダイ』2023年4月26日号(25日発行)
*3 『週刊実話』2021年7月29日・8月5日号, p42
*4 『六代目山口組10年史』(2015年、メディアックス), p17-18
*5 『週刊実話』2023年6月22日号, p196-197
*6 『週刊実話』2020年10月22日号, p32-36
*7 『週刊実話』2021年10月28日号, p34
*8 『山口組三国志 織田絆誠という男』(溝口敦、2018年、講談社+α文庫), p79
*9 『山口組三国志 織田絆誠という男』, p85-90
*10『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』(2019年、日本ジャーナル出版),p104-105
*11『別冊 実話時代 山口組統一への道』(2018年1月号増刊)
*12 『山口組三国志 織田絆誠という男』, p109
*13 『週刊実話』2016年6月16日号,p37
*14 『週刊実話』2021年11月25日号,p37
*15 『週刊実話』2023年1月19日号,p52
*16『週刊実話』2020年4月23日号,p38-40
*17 警察庁「令和4年における 組織犯罪の情勢」,p24
*18 『山口組三国志 織田絆誠という男』, p61
*19 『日刊ゲンダイ』2023年2月7日号(6日発行)「溝口敦の斬り込み時評<457>」
*20 『週刊実話』2023年1月5・12日号,p232
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