ヘルズ・エンジェルスのカナダ勢のコカインビジネス、法案C-95

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 アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)のカナダ勢は、自国の港湾内に「巣」を作っていました (*1)。

 ハリファックス(ノバスコシア州)、モントリオール(ケベック州)、バンクーバー(ブリティッシュコロンビア州)の港湾では、コンテナがそっくりそのまま消えてしまうということがありました(*1)。

 モントリオールではジェリー・マティックス(Gerry Matticks)が港湾内の「違法貨物」の出入を仕切ってきました(*1)。ジェリー・マティックスは「ヘルズ・エンジェルスの関係者」でもありました(*1)。ジェリー・マティックスらは1999年12月から、少なくとも44トンのハシシ(ペースト状のマリファナ)、200kg以上のコカインを港湾内で取り扱ってきました(*1)。後にジェリー・マティックスは逮捕され、12年の懲役刑を受けました(*1)。

 またジェリー・マティックスの息子であるドナルド・マティックス(Donald Matticks)も2005年前半、44トン以上のハシシを密輸した罪で、8年の懲役刑を受けました(*1)。ドナルド・マティックスは元々、コンテナチェック係の仕事に就いていました(*1)。逮捕当時のドナルド・マティックスは「ウエスト・エンド・ギャング」(West End Gang)というアウトロー組織の一員でした(*1)。

 ブリティッシュコロンビア州ではバンクーバー港やデルタ港においてヘルズ・エンジェルス構成員5人(少なくとも)、関係者24人が就労していたことが2001年、明らかになりました(*1)。

 2003年からカナダ連邦騎馬警察(Royal Canadian Mounted Police)のチームは、ブリティッシュコロンビア州のヘルズ・エンジェルスに対し、捜査を開始しました(*2)。プリンス・ジョージ(ブリティッシュコロンビア州北部の街)のカナダ連邦騎馬警察職員が、ヘルズ・エンジェルスの関係者を「情報提供者」として引き入れたことが契機となりました(*2)。

 カナダ連邦騎馬警察は、「連邦レベルの警察組織」であり、またケベック州及びオンタリオア州以外の州を監督しています(*3)。いわばカナダ連邦騎馬警察は「カナダの国家警察」なのです(*3)。

 カナダ連邦騎馬警察の源流は「ノースウエスト騎馬警察」(North-West Mounted Police)です(*3)。ノースウエスト騎馬警察は1873年に設けられました(*3)。1904年ノースウエスト騎馬警察は「ロイヤル・ノースウエスト騎馬警察」に改称しました(*3)。1920年ロイヤル・ノースウエスト騎馬警察は、ドミニオン警察を吸収し、「国家警察」となりました(*3)。

 情報提供者は、ヘルズ・エンジェルスのサポートクラブである「レネゲイズ」(Renegades)ともつながりを持っていました(*2)。2003年7月から情報提供者はバイカー達から違法薬物を買い始め、すぐに1回で1kgのコカインを39,000ドルで購入できるようになりました(*2)。

 後に情報提供者は、ヘルズ・エンジェルスのバンクーバー支部長であるノーム・クロッグスタッド(Norm Krogstad)までたどり着き、ノーム・クロッグスタッドから1回で1kgのコカインを34,000ドルで購入しました(*2)。つまりヘルズ・エンジェルスのバンクーバー支部長は「1kgのコカイン」を密売していたのです。1kgという販売量から、ノーム・クロッグスタッドは卸売以上の立場であったことが考えられます。

 他国では「1kgコカインの価格」はどれぐらいだったでしょうか。2015年時のアメリカ合衆国のアトランタ市(ジョージア州)でのコカイン卸売価格は1kgあたり約4万米ドルだったといわれています(*4)。2020年頃ロンドン(イギリス)の卸売組織はコロンビアの麻薬組織から1kgあたり約1,500ポンドで調達していました(*5)。

 情報提供者の働きもあり、2005年1月24日カナダ連邦騎馬警察はブリティッシュコロンビア州のヘルズ・エンジェルス、レネゲイズ(ヘルズ・エンジェルスのサポートクラブ)の構成員らを大量逮捕しました(*2)。この時、ノーム・クロッグスタッドも逮捕されました(*2)。

 ちなみにヘルズ・エンジェルスは1977年カナダに進出しました(*6)。カナダにおけるヘルズ・エンジェルス初の支部は、ケベック州モントリオール郊外のソレルに設けられました(*6)

 ブリティッシュコロンビア州におけるヘルズ・エンジェルスの勢力としては「ナナイモ支部」も有名でした(*7)。ナナイモ(ブリティッシュコロンビア州)はバンクーバー島の東側に位置する港町です(*7)。

 ナナイモ支部は建物(3階建て)に防御工事を施し、監視カメラをつけていました(*7)。またナナイモ支部はバンクーバー市の南に18エーカーの土地を所有しており、その土地で公的イベントや私的パーティーを開催していました(*7)。1エーカーは約4046.86平方メートルです。18エーカーは約72,843.48平方メートルになります。

 クリス・スワン(Chris Swan)は長い間、ナナイモ支部とともに、違法薬物ビジネスを行っていました(*7)。クリス・スワンは南米からコカインを調達するなど、密輸業務を担っていました*7)。後にクリス・スワンはナナイモ支部とは仲違いをしました(*7)。仲違いの背景には、クリス・スワンに対する「ナナイモ支部の搾取」がありました(*7)。またナナイモ支部は「凶暴な組織」としても知られていました(*7)。

 マイケル・“ジーク”・ミクル(Michael “Zeke” Mickle)は1993年まで長年ナナイモ支部の支部長を務めてきました(*7)。しかし1993年4月マイケル・“ジーク”・ミクルは飲みに出かけた後、失踪しました(*7)。情報筋によれば、マイケル・“ジーク”・ミクルはいつくかの取引を台無しにした為、その報復を受けたようです(*7)。

 最後にカナダにおける「アウトロー組織を取り巻く法律」について述べます。1997年カナダ政府は「法案C-95」(Bill C-95)を通過させました(*8)。法案C-95は「組織犯罪対策」目的の下、作られました(*8)。法案C-95では、犯罪組織(アウトロー組織)に参加することは「連邦犯罪」となり、参加者には14年以下の懲役刑が科されることになりました(*8)。また法案C-95は警察に対し、差し押さえや監視の権限を強化しました(*8)。

 2001年カナダの警察は、ヘルズ・エンジェルスのカナダ勢を厳しく取り締まる為、法案C-95を用い始めました(*9)。翌2002年にはカナダ政府は法案C-95を改正、改正版の「法案C-24」(Bill C-24)を通過させました(*9)。

<引用・参考文献>

*1 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p308-309

*2 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p334-335

*3 『エリア・スタディーズ83  現代カナダを知るための60章 【第2版】』「カナダ連邦騎馬警察 国家の象徴「騎馬警官」」(木野淳子、2022年、明石書店),p180-184

*4 『TRAP  HISTORY:ATLANTA  CULTURE  AND THE GLOBAL IMPACT OF TRAP MUSIC』(A.R.SHAW,2020,Bluefield Media, LLC), p100

*5 『The Real Top Boys: The True Story of London’s Deadliest Street Gangs』(Wensley Clarkson, 2020, Welbeck), p295

*6 『Encyclopedia of Gangs』「HELL’S ANGELS IN CANADA」(Angelo Kontos,2008,Greenwood Press),p127

*7 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p331-332

*8 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada),p50-51

*9 『Encyclopedia of Gangs』「HELL’S ANGELS IN CANADA」,p128

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