パラグアイの「ロテラ・クラン」

  • URLをコピーしました!

 南米の内陸国パラグアイでは「ロテラ・クラン」(Rotela Clan)というアウトロー組織が活動してきました(*1)。ロテラ・ファミリー(Rotela family)がロテラ・クランを率いてきました(*1)。

 ロテラ・クランは2007年から、首都アスンシオン市近郊のトバティで活動を開始しました(*1)。首領のアルマンド・ハビエル・ロテラ(Armando Javier Rotela)らが、クラック(crack)の密売事業を行う為、2007年からトバティで若者を集めました(*1)。

 クラックは、コカイン同様、コカ葉を原料とします(*2)。クラックとコカインの製造過程は、「コカイン塩基酸」を作るところまで同じです(*2)。コカイン塩基酸以降の精製の違いが、クラックとコカインを分けています(*2)。クラックは「コカインの派生品」といえます。クラックの主な摂取方法は、吸煙です(*3)。

 当初ロテラ・クランは、アスンシオン市やコンセプシオン市(パラグアイ川沿いの都市)の貧困地域において、クラックの密売事業に特化していました(*1)。ロテラ・クランは密売の中でも「小売」(microtrafficking)を担っていました(*1)。

 1980年代のアメリカ合衆国ではアフリカ系アメリカ人の間でクラックが流行しました(*4)。当時のアメリカ合衆国ではコカインが高価格で密売されていた一方、クラックは低価格(1回あたり5ドル程度)で密売されていました(*4)。

 2007年以降のアスンシオン市やコンセプシオン市の貧困地域においても、クラックは「低価格の違法薬物」として流通していったのかもしれません。

 2017年パラグアイ麻薬監視局(Observatorio Paraguayo de Drogas)はクラックを「最も問題のある違法薬物」として認識していました(*5)。

 ロテラ・クランはパラグアイの刑務所内にも進出、コンセプシオン刑務所、タクンブー刑務所(パラグアイ最大の刑務所)などの刑務所内で違法薬物を密売していきました(*1) (*5)。またロテラ・クランは刑務所内で勧誘活動をし、構成員数を増やしていきました(*1)。

 元刑務所長のホアキン・ゴンサレス(Joaquín González)によると、刑務所内のロテラ・クラン構成員の多くは、起訴前の立場の者(勾留の立場の者)やクラック依存症者でした(*1)。

 一方、刑務所の外では、アスンシオン市やコルディエラ県におけるロテラ・クラン構成員の多くは、密売人でした(*1)。構成員の内容から、ロテラ・クラン構成員の多くは忠誠心が弱かったと考えられています(*1)。

 2014年時点のロテラ・クランは、クラックの密造も手掛けるようになっていました(*5)。当時ロテラ・クランは隣国ボリビアから1kg当たり2,000ドルでコカ・ペーストを仕入れていました(*6)。ロテラ・クランはボリビアからアスンシオンまで、パラグアイの国道9号線を使い、コカ・ペーストを運んでいました(*6)。そしてロテラ・クランは密造工場で1kgのコカ・ペーストから「7,000回分のクラック」を密造していました(*6)。

 コカ葉は収穫後、乾燥させます(*7)。その後、コカ葉は「パスタ状」に加工されます(*2)。このパスタ状のものが、コカ・ペーストです。

 2019年までにロテラ・クランは全国規模の組織になりました(*1)。2019年パラグアイの捜査当局は、ロテラ・クランがパラグアイで売られているクラックの50%を支配していると、推測していました(*5)。

 2019年ロテラ・クランはパラグアイの刑務所において、ブラジルのアウトロー組織「首都第一コマンド」(Primeiro Comando da Capital)と抗争をしました(*5)。以降もパラグアイの刑務所では、ロテラ・クランと首都第一コマンドは対立していきました(*8)。

 ブラジルはパラグアイの隣国です。両国は経済的にもつながっています。パラグアイ側の国境地域シウダー・デル・エステ市では免税措置により、電化製品や生活必需品等が「低価格」で販売されていました(*9)。ゆえにブラジル人は国境を越え、シウダー・デル・エステ市でしばしば買い物をしていました(*9)。また2021年からはパラグアイの通貨グアラニーがブラジルの通貨レアルに対し「高く」なったことから、逆にパラグアイ人がブラジル側の国境地域フォス・ド・イグアス市に行き、買い物をすることが増えました(*9)。

 ロテラ・クラン首領のアルマンド・ハビエル・ロテラは2011年逮捕されましたが、翌2012年11月ミシオネス県の刑務所から脱獄しました(*1) (*6)。

 2016年アルマンド・ハビエル・ロテラは再び逮捕され、収監されました(*1)。2020年3月の裁判では、懲役27年の刑がアルマンド・ハビエル・ロテラに下されました(*1)。

 収監後もアルマンド・ハビエル・ロテラは刑務所内からロテラ・クランを「指揮」していたと考えられています(*1)。

<引用・参考文献>

*1 InSight Crimeサイト「Rotela Clan」(InSight Crime,2020年8月23日)

https://insightcrime.org/paraguay-organized-crime-news/rotela-clan

*2 『コロンビア内戦―ゲリラと麻薬と殺戮と』(伊高浩昭、2003年、論創社), p113

*3 『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』(ロベルト・サヴィアーノ著、関口英子/中島知子訳、2015年、河出書房新社),p155

*4 『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』(上杉忍、2018年、中公新書), p191-192

*5 InSight Crimeサイト「Prisons in Paraguay Struggle to Combat Violence from Crack Epidemic」(Laura Marcela Zuñiga and Tristan Clavel,2019年11月19日)

https://insightcrime.org/news/analysis/prisons-paraguay-crack-epidemic

*6 InSight Crimeサイト「‘Microtrafficking Czar’ Raid Highlights Paraguay Domestic Drug Market」(Marguerite Cawley,2014年3月12日)

https://insightcrime.org/news/brief/microtrafficking-czar-raid-highlights-paraguay-domestic-drug-market

*7『エリア・スタディーズ54  ボリビアを知るための73章 【第2版】』「コカとアンデス高地農民の生活」(国本伊代、2013年、明石書店),p191-192

*8 InSight Crimeサイト「Paraguay’s Tacumbú Prison Takeover Marks Rotela Clan Resurgence」(Gavin Voss,2023年10月13日)

https://insightcrime.org/news/paraguays-tacumbu-prison-takeover-marks-rotela-clan-resurgence

*9『週刊エコノミスト』2021年6月1日号「ブラジル パラグアイから買い物客が“逆流”」(松本浩治),p88

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次