野球賭博という違法賭博において、「仲介者」が存在しています。文字通り、客と野球賭博主催者側(胴元)との「橋渡し」を行う者です。仲介者がいることで、胴元は摘発リスクを軽減することができます。2010年に起きた大相撲野球賭博事件で逮捕された元力士の古市満朝氏は、客である力士と胴元をつなぐ仲介者でした。仲介者は客から電話やメールで注文内容を受け、また賭け金を受け取ります。負けが込み借金を重ねる客に対する徴収作業も仲介者の役割です。(*1)
野球賭博において、最初にハンデが一方のチームに課せられます。対戦する2チームで、相対的に強いチームにハンデは与えられます。例えばある日の巨人対ヤクルト戦において、巨人が有利だと判断される場合、野球賭博の胴元は「巨人の1.5」というハンデを設定します。ハンデが設定されているので、「野球賭博上の勝敗」は実際の試合の勝敗と異なってきます。巨人がヤクルトに3対2で勝利を収めても、野球賭博上では巨人には「1.5」のハンデ(つまりマイナス1.5点)が付くので、「ヤクルト2点、巨人1.5点」となり「ヤクルトの勝利」となります。ヤクルトに10万円賭けていた客は、全額没収されずに、逆に配当金を受けることができます。しかし巨人がヤクルトに5対2で勝利を収めた場合、「1.5」のハンデを追加計算しても「巨人3.5点、ヤクルト2点」となり、実際の勝敗結果と同様「巨人の勝利」となります。ヤクルトに10万円賭けていた客は、賭け金10万円が全額没収されます。逆に、この場合、巨人に10万円賭けた客は20万円の配当金をもらうことになります。ただし、1割(2万円)の手数料を胴元から引かれるので、取り分は18万円となります。(*2)
野球賭博の精算は、週単位で、「日曜日締めの翌週月曜日」に行われます。野球賭博の精算行為は「ツケサゲ」と呼ばれています(*1)。
大相撲の力士達が参加していた野球賭博を巡る件で、古市満朝氏は2010年恐喝・恐喝未遂容疑で逮捕され、懲役刑を受けました。2015年11月に出所した古市満朝氏は、週刊新潮2015年12月31日・2016年1月7日号の記事において、当時の大相撲界の野球賭博の実態を明かしています。記事の核心部分とは異なりますが、野球賭博の仕組みについて、古市満朝氏は興味深い所を語っていました。「(略)例えば、巨人・阪神戦で、自分は10万円を巨人に賭けようとしていたとする。そこへ、客が阪神に10万円を賭けてきた。この場合、自分で巨人に賭けるのは止めて客が阪神に賭けてきた10万円を握る。めでたく巨人が勝てば、その10万円はまるまる自分のものです。ただ、客の賭け金を全て握っていたら、客側が大勝した時に払えなくなってしまうので、賭け金の一部、あるいは大部分は他の仲介者や胴元に流す」(P45)と古市満朝氏は述べています。(*1)
「握る」とは、客から預かったお金を仲介者が「賭け金」として処理しないで、自分の懐に入れてしまうことです。仲介者の「握り」により、「客の賭け金」は仲介者止まりになり、胴元まで辿り着きません。胴元にすれば、仲介者の「握り」により、1割の手数料を逃しています。古市満朝氏は「自分で10万円張って勝っても手数料を1割抜かれて9万円しかもらえへんけど、人が賭けてきた10万を握って勝てば10万まるまる儲かる。「この1割の差は大きい」と納得させられて、皆仲介者になるんです」(P45)と述べています。胴元にとっては、許せない行為です。(*1)
ただ仲介者は胴元にとっては必要不可欠で、バレない範囲の少額であれば、許しているのが実態でしょう。仲介者の方も「握り」を加減しながらやっていると思います。「握り」にはリスクがあります。記事でも述べられているように、客の賭けた対象チームが勝った場合です。点差次第では、莫大な金を賄う必要があります。(*1)
<引用・参考文献>
*1 『週刊新潮』2015年12月31日・2016年1月7日号「「豪栄道」の負け金400万円から始まった!」, p42-46
*2『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社), p192
コメント