日本の領土でありながら、日本のヤクザ組織の影響力が及んでいない場所があります。北方領土、つまり択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の4島です。北方4島は太平洋戦争終結の1945年以降、ロシア(1991年まではソ連)により実効支配されてきました(*1)。
北方4島には、現在ロシア国籍を有する人達が住んでおり、択捉島に約5,900人、国後島に約7,900人、色丹島に約3,000人の人口がいます(*1)。歯舞群島には国境警備隊のみ駐在しています(*1)。計16,800人の人口です。面積は択捉島3168平方キロ、国後島1490平方キロ、色丹島251平方キロ、歯舞群島95平方キロです(*1)。沖縄本島が1207平方キロであることから、択捉島と国後島は沖縄本島よりも大きいです(*1)。択捉島は日本最大面積の島、国後島が次いで2番目に大きい島です(*1)。北方4島の最も中心的な街として知られるのが、国後島のユジノクリリスクです(*1)。
北方4島の魅力は豊かな漁場を有しているところです。周辺海域は暖流と寒流がぶつかり、サケ、マス、タラ、カニ、エビ、ウニなど高級魚介類が豊富に存在し、世界3大漁場の1つです(*1)。日本統治時代から漁民が多く占め、ソ連時代も漁期にソ連本土から季節労働者が漁業・水産加工基地に出稼ぎにきていました(*1)。現在も漁業が北方4島の中心産業で、経済生産の9割以上を有しています(*1)。企業としては択捉島の水産加工会社で、社員3000人を抱えるギドロストロイが有名です(*1)。また1998年に日露漁業協定が結ばれて以降、日本の漁船も資源保護協力費(つまり入漁料)を支払えば、北方4島の周辺海域(ロシア側の実効支配エリア)で操業できるようになりました(*1)。しかし違反行為をしている日本漁船は、ロシア国境警備隊に拿捕されます(*1)。違反行為の内容は、資源保護協力費を払わずの操業、指定エリア以外での操業、指定魚種以外の魚種の捕獲などが考えられます。一方、ロシア側の国後島の漁業者が根室にウニやカニを水揚げするケースもあります(*1)。
択捉島と国後島にはロシア軍推定3500人が駐留しています(*1)。北方4島人口は約16,800人なので、軍人が人口の約20%を占めています。択捉島、国後島の駐留軍という性格上、軍人の多くは独身男性及び単身赴任の既婚男性であることが考えられます。基地周辺には売春施設または売春サービスがあると考えるのが自然です。売春産業にとって、男性達で占める軍隊は重要な顧客層となります。数も見込める為、売春産業側にとっても基地近くでの営業は望むところです。日本本土でも、米海軍基地がある神奈川県横須賀市では、太平洋戦争後米軍兵士を対象とする売春施設「安浦ハウス」が設置されました(*2)。横須賀に限らず、米軍が進軍した日本各地で、日本政府の特殊慰安施設協会により米軍兵士対象の売春施設が作られていった歴史があります(*2)。もっとも横須賀には米海軍が来るまでは旧日本海軍がおり、その時代から旧日本海軍を対象とする売春施設が存在していました(*2)。現在も、沖縄の那覇市波の上のソープランドでは、何軒かの店が米軍兵士にサービスを提供しています(*2)。日本の場合、売春産業(風俗産業)に大きな影響を及ぼしていているのはヤクザ組織です。売春産業を挟む形で、軍隊基地はヤクザ組織の成長を促してきた側面があります。
*ちなみに在日米軍兵士の遊びを左右する1つに、ドル円為替があります(*2)。例えば2万円のお店を利用する場合、円安の1ドル=120円の時であれば、167ドルの支払いとなります。しかし円高の1ドル=80円の時であれば、250ドルの支払いとなります。円高になれば、在日米軍兵士の懐事情は厳しくなるのです。
択捉島と国後島には加えて、漁業の季節労働者もいる為、売春サービスの需要は高いです。売春業者の裏には、ロシアマフィアがいるはずです。近年、島に麻薬が流通して、季節労働者による犯罪が問題となっているようです(*1)。麻薬の流通を仕切っているのも、恐らくロシアマフィアでしょう。日本のヤクザ組織で、ロシアマフィアと関わりが深いのが北海道のヤクザ組織です(*3)。北海道のヤクザ組織は、ロシアマフィアからロシア産毛皮や銃器を仕入れるビジネスを行ってきました(*3)。国後島の漁業者が根室にウニやカニを水揚げするなど(*1)、漁業関係者による日ロの行き来は北海道では盛んであり、太い経路が形成されています。その経路に、違法品ものっているのです。
北海道のヤクザ組織組員の中には、漁師や猟師という仕事を持ちながらヤクザ稼業を行う者もいます(*3)。漁師兼業の組員が密漁ビジネスの「水先案内人」の役割を果たしていると考えるのが自然です。
<引用・参考文献>
*1 『週刊エコノミスト』2016年11月15日号「北方領土&ロシア Q&Aで丸分かり!」(名越健郎著), p28-31
*2 『週刊実話』2015年12月17日号「風俗新潮流 第30回 基地と風俗」(八木澤高明著), p178-181
*3 『実話時代』2015年2月号「893のブルース ヤクザと地域性(前編) 静かなる地の熱き俠たち」(中野ジロー), p111
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