山口組有力2次団体・弘道会と神戸山口組有力2次団体・山健組は、実話誌等において、よく比較される対象です。両団体の相違点の1つとして、下部団体における「老舗組織」の有無があります。「老舗組織」の定義を勝手に、太平洋戦争終了時(1945年)以前から、活動していた組織とします。弘道会の下部団体(3次団体)には、老舗組織が複数存在しています。一方、山健組の下部団体(3次団体)には、老舗組織が存在していません。山健組は今年(2017年)4月末、副組長織田絆誠を軸とする勢力が脱退、分裂する事態に陥りました(*1)。弘道会と山健組の下部団体を同時期で比較する資料が、山健組分裂前の情報に拠ったものしか現時点ではありません。山健組分裂前の情報を参考にして、両団体を検証していきます。
弘道会と山健組の全ての下部団体の歴史を把握している資料はない為、組織名にある「代目」の数字に着目しました。一般的に歴史が古い組織ほど、代目の数字は大きくなります。代目更新(トップ交代)のスピードも組織ごとに異なってきます。1次団体レベルの話になりますが、1915年結成の山口組の代目は現在「六代目」です。1948年誕生の合田一家の代目は現在「七代目」、1955年頃に結成された東組の代目は現在「二代目」です(*2)。山口組は102年(1915~2017年)の間に「5回」の代目更新、合田一家は69年の間に「6回」の代目更新、東組は62年の間に「1回」の代目更新を経験しています。割合にすると、山口組は20年に1回、合田一家は12年に1回、東組は62年に1回、の頻度で代目を更新しています。恣意的に山口組を基準とすると、合田一家は代目更新の頻度が早く、東組は代目更新の頻度が遅いことがあります。代目更新の要因は複数あります。組織内の統制力やトップの人間の健康などが挙げられます。
弘道会と山健組の下部団体の話に戻します。とりあえず「六代目」以上の代目をつけている組織を老舗組織か、老舗組織に近い歴史を有する組織と考えてみることにします。『週刊実話』2017年5月11・18日号によれば、弘道会において「六代目」以上の代目を組織名につけるのは、10団体あります(*3)。一方、山健組は1団体しかありません(*3)。弘道会の10団体は、「十一代目紙谷一家」「十代目常滑一家」「十代目稲葉地一家」「九代目玉屋一家」「九代目平野家一家」「八代目浜長」「八代目浅野会」「六代目水谷一家」「六代目笹若一家」「六代目前津一家」です。「十代目稲葉地一家」と「九代目平野家一家」は博徒組織で、長らく独立団体として活動してきました(*4)。平野家一家は1991年以降、稲葉地一家は1997年に弘道会に入りました(*5)。稲葉地一家の弘道会入りは1992年という話もあります(*6)。「稲葉地一家」は、幕末に興されています(*4)。代目の数字が近い、紙谷一家、常滑一家、玉屋一家、平野家一家の組織は、恐らく1945年以前に結成されたと推測されます。上部団体・弘道会の結成は、1984年です(*7)。弘道会の代目は現在「三代目」です。
山健組の該当する1団体は、六代目紀州連合会です(*3)。現在六代目紀州連合会は、4月末の分裂時に山健組を脱退、織田絆誠が立ち上げた仁俠団体山口組に属しています(*8)。紀州連合会という名前から推測するに、1945年以前から活動していた組織とは考えられません。現在、山健組内で最も大きい代目の数字を持つのは、「五代目健竜会」です(*9)。健竜会の結成は1970年です(*10)。よって山健組の下部団体で、1945年以前から活動する老舗組織は存在しないと推測されます。上部団体・山健組は、1961年に結成されています(*11)。山健組の代目は現在「四代目」です。
現在(2017年8月)、弘道会の下部団体(3次団体)には老舗組織が複数存在して、一方山健組の下部団体(3次団体)には老舗組織が存在しないことが分かりました。弘道会、山健組ともに他団体を吸収し、組織拡張を図ってきました。両者の差は以下のパターンによって生まれたと考えられます。①「弘道会は老舗組織を吸収したのに対して、山健組は老舗組織を吸収するのを拒んだ」、②「弘道会、山健組ともに老舗組織を吸収した。弘道会は老舗組織の組織名や組織実体を変更させない形で吸収したのに対して、山健組は老舗組織を解体する形で吸収した」という2パターンが考えられます。両団体の「老舗組織」に対する捉え方の差ともいえます。弘道会は「老舗組織」のブランドを重要視する、山健組は「老舗組織」のブランドを重要視しない傾向が読み取れます。現在の山口組は、住吉会、稲川会、松葉会という関東のヤクザ組織と友好関係にあります。その関係上、神戸山口組は幸平一家(住吉会2次団体)を除く住吉会勢力と稲川会と松葉会とは友好関係にはありません。関東ヤクザ組織とのつながりの太さは、山口組が神戸山口組に秀でている点の1つです。「老舗組織」を大事にする弘道会の体質が、老舗組織を多く抱える関東のヤクザ組織にとって、好ましく感じられている結果かもしれません。
<引用・参考文献>
*1 『別冊 実話時代 龍虎搏つ!広域組織限界解析Special Edition』(2017年6月号増刊), p21
*2 『別冊 実話時代 龍虎搏つ!広域組織限界解析Special Edition』, p70,80
*3 『週刊実話』2017年5月11・18日号
*4 『洋泉社MOOK・義理回状とヤクザの世界』(有限会社創雄社実話時代編集部編、2001年、洋泉社), p114-115
*5 『弘道会の野望 司六代目と髙山若頭の半生』(木村勝美、2015年、メディアックス), p150
*6 『実話時代』2017年9月号, p28
*7 『別冊 実話時代 山口組分裂闘争完全保存版』(2016年10月号増刊), p47
*8 『週刊実話』2017年6月8日号, p41
*9 『週刊実話』2017年8月3日号, p37
*10 『別冊 実話時代 山口組分裂闘争完全保存版』, p54
*11 『武闘派 三代目山口組若頭』(溝口敦、2015年、講談社+α文庫), p73
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