三合会(香港アウトロー組織の総称)の中で潮州系組織は違法薬物ビジネスに長けていました (*1)。潮州は香港の東に位置する地域です(*1)。香港には潮州出身者が一定数いました(*1)。潮州系組織として新義安、福義興、敬義、義群、大好彩が香港で活動していました(*1)。
高純度ヘロインは「4号」と呼ばれました(*2)。純度約40%の「3号」ヘロインにエーテル、アルコール、塩酸を加え沈殿させることで、4号ヘロインは作られていました(*2)。4号の製造過程において爆発の危険が伴った為、密造には高い技術が求められました(*2)。1960年代までの東アジアでは、技術的制約から香港のみでしか4号は密造されませんでした(*2)。
しかしベトナム戦争(1965~1975年)時、潮州系組織はベトナムのサイゴン市(ベトナム南部の都市。現在のホーチミン市)に「4号ヘロインの密造拠点」を作りました(*3)。サイゴン市における4号ヘロインの主な購買層は、アメリカ合衆国の兵士でした(*3)。
また歴史家アルフレッド・W・マッコイ氏によれば、潮州系組織は1968~1969年東南アジアの「ゴールデン・トライアングル」(タイ、ミャンマー、ラオスの国境地帯)に精製所を作り、そこに化学者を送り、4号ヘロインを密造 していきました(*4)。ゴールデン・トライアングル産の4号ヘロインも、ベトナム南部のアメリカ合衆国軍兵士に供給されました(*4)。おそらく潮州系組織はサイゴン市、ゴールデン・トライアングルの両方に4号ヘロインの密造拠点を作ったのでしょう。
潮州系組織の1つである義群の呉錫豪(通称「跛豪」)は欧米に4号ヘロインを輸出し、莫大な収益を得ていました(*1) (*5)。潮州系組織は香港にとどまらずグローバルに活動していたことが窺えます。
1990年代以降潮州系の中で有名な組織が新義安でした(*1) (*6)。新義安の源流は「潮州の洪門」とされてきました(*6)。洪門とは、相互扶助集団を指す「会党」の1つです(*7)。
<引用・参考文献>
*1 『中国「黒社会」の掟-チャイナマフィア』(溝口敦、2006年、講談社+α文庫), p249
*2 『中国「黒社会」の掟-チャイナマフィア』, 268-269
*3 『中国「黒社会」の掟-チャイナマフィア』,p251
*4 『ORGANIZED CRIME:A Global Perspective』「Organized Crime in Australia: An Urban History」(Alfred W. McCoy,1986, ROWMAN & LITTLEFIELD PUBLISHERS),p269
*5 『中国「黒社会」の掟-チャイナマフィア』,p252-254
*6 『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(安田峰俊、2021年、中公新書ラクレ), p129
*7 『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』, p17-18
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