違法薬物の1つに「クラック」(crack)があります。クラックの原料はコカ葉です(*1)。コカイン(cocaine)もコカ葉を原料とします(*1)。コカインの場合、加工及び精製によって「コカ葉」→「コカ葉のパスタ(練り粉)」→「コカイン塩基」→「コカイン塩基酸」→「コカイン」という順で物質が変化していきます(*1)。
一方クラックの場合、コカイン塩基酸にパン粉、ソーダ、水を混ぜて固形物を作り、さらにその固形物を割って、結晶にしてエーテル処理で高純度にしたものを指します(*1)。一方コカインは、コカイン塩基酸をろ過し(不純物の除去)、乾燥させた固形物を指します(*1)。コカイン塩基酸以降の精製過程の違いが「クラック」と「コカイン」を分けているのです。
クラックは「コカインの派生品」といえます。コカインは中枢神経を興奮させる薬理作用を持っていたため、クラックも同様の薬理作用を持っていたと推測されます (*2)。クラックはガラス製パイプ等による吸煙で主に摂取されました(*3)。クラックの効能が続く時間は5~15分といわれています(*4)。一方、コカインの場合、効能が続く時間は30~40分といわれています(*5)。
1980年代のアメリカ合衆国でクラックは流行しました(*6)。クラック流行の要因の1つとして、価格の低さがありました(*7)。使用1回分のクラックは、約5ドルで販売されました(*7)。低価格の為、特にアフリカ系アメリカ人コミュニティ内でクラックは流行りました(*7)。1980年代以前のコカインの客層は、上流のヨーロッパ系アメリカ人でした(*7)。クラックの別名としては「ロック」がありました(*8)。
またカリブ海沿岸諸国やヨーロッパでもクラックは流通しました(*4)。
1980年代以降からアフリカ系アメリカ人が「新たなコカインの客層」に設定され、「低価格版のコカイン」としてクラックが供給されたことが考えられます。
<引用・参考文献>
*1 『コロンビア内戦―ゲリラと麻薬と殺戮と』(伊高浩昭、2003年、論創社), p113
*2 『薬物依存症』(松本俊彦、2018年、ちくま新書), p33-34
*3 『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』(ロベルト・サヴィアーノ著、関口英子/中島知子訳、2015年、河出書房新社),p155
*4 『[文庫クセジュ] 合成ドラッグ』(ミシェル・オートフイユ/ダン・ヴェレア著、奥田潤/奥田陸子訳、2004年、白水社),p46
*5 『コロンビア内戦 ― ゲリラと麻薬と殺戮と』(伊高浩昭、2003年、論創社),p113-114
*6 『誰がラッパーを殺したのか?』(小林雅明、1999年、扶桑社), p74-75
*7 『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』(上杉忍、2018年、中公新書), p191-192
*8 『<麻薬>のすべて』(船山信次、2019年、講談社現代新書),p109
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