アメリカのバイカーギャングは海外に進出、各地で「海外支部」を設立していきました(*1)。結果、国境を越えた広域ネットワークが形成されていきました(*2)。バイカーギャングは「自前の広域ネットワーク」を活用し、覚醒剤(メタンフェタミン)密造に用いる化学物質の密輸ビジネス(輸出、輸入の両方とも)、拳銃等の火器不正取引ビジネスを展開してきました(*2)。違法薬物及び火器不正取引ビジネスは多額の収益を生む為、アメリカの裏社会においてバイカーギャングは一定の経済力を保っていることが窺えます。
バイカーギャングにおける最小組織単位が、アメリカ内外にある「支部」(英語名:chapter)です(*3)。支部に所属する構成員の間には序列関係があり、序列関係に基づき支部は運営されています(*3)。支部トップは「プレジデント」(英語名:President)、ナンバー2は「バイス・プレジデント」(英語名:Vice President)と呼ばれます(*3)。
ナンバー2以下には、衛視長、バイク集団移動時の統率役、秘書役、会計役がいます(*2)。役職のない末端構成員は「パッチホルダーズ」(英語名:Patch holders)と呼ばれます(*2)。支部役職者が収監等により「社会不在」を余儀なくされた場合または死去等した場合、役職は次の者に引き継がれます(*2)。
一般的に次期役職者の選出方法は、支部内の選挙です (*2)。選挙権はパッチホルダーズ以上の者に付与されます(*2)。日本のヤクザ組織が専制的に人事を行っていることと比較すれば、バイカーギャング支部における人事の方法は珍しく映ります。
「支部の自治権」はバイカーギャングにより異なっています(*2)。「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)は他組織に比し、支部に運営裁量権を与えています(*2)。一方「アウトローズ」(the Outlaws)や「モンゴルズ」(Mongols)等の支部は、本部幹部ら(national officers)の決定に追従する運営体制をとっています(*2)。「組織全体の意向」を無視しての支部運営はできない点は、どのバイカーギャングにも共通しています(*2)。
支部構成員は基本的に「支部の管轄エリア」内で資金獲得活動を行います(*3)。支部の資金獲得活動には「地理的な制限」がかけられているのです。例外が「ノマド支部」です(*3)。ノマド支部構成員は地理的な制限を受けずに広域的に活動できます(*3)。
ノマド支部にはベテラン構成員が多く、構成員は主に「特命業務の遂行者」として活動します(*3)。特命業務とは、「敵対組織幹部の謀殺」もしくは「組織内構成員の謀殺」であると推測されます。また本部は、支部を設立したい地域に、ノマド支部構成員を派遣しました(*4)。「支部開設要員」としても、ノマド支部構成員は用いられていたのです。
一般的にノマド支部の構成員は、本部に会費を払います(*4)。
支部の構成員数の下限は5~6人といわれています(*3)。例えば支部構成員数が4人になった場合は、支部は休止もしくは解散となる可能性があります(*3)。「構成員数」に関してもノマド支部は特別でした。ノマド支部は、6人より少ない構成員数でも、活動可能でした(*4)。
カリフォルニア州のヘルズ・エンジェルスでは「支部新設」「支部の休止及び解散」の案件はカリフォルニア州役員会で採決されました(*5)。カリフォルニア州内の各支部は1票の投票権を持っていました(*5)。投票結果で「2つ以上の反対票」があれば、議案は否決されました(*5)。つまり役員会は多数決の方式をとっていませんでした(*5)。
<引用・参考文献>
*1 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p1
*2 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p98-100
*3 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p131
*4 『Running with the Devil: The True Story of the ATF’s Infiltration of the Hells Angels』(Kerrie Droban,2009,Lyons Press),p9-10
*5 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2009,Allen & Unwin), p87
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