ニュージーランドとメタンフェタミン

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 1990年代のニュージーランドでは違法薬物メタンフェタミン(覚醒剤)の流通量が増加しました(*1)。増加の背景には、バイカーギャングが違法薬物ビジネスにおいて、大麻からメタンフェタミンに比重を移したことがありました(*1)。ニュージーランドのメタンフェタミン市場ではバイカーギャングが密輸及び国内供給、製造の領域をおさえていました(*1)。

 1994年3月当時ニュージーランド史上最多量のメタンフェタミンが押収されました(*1)。ウェリントンを拠点にしていた「サタンズ・スレイブス」(Satan’s Slaves)というバイカーギャングの構成員と関係者がメタンフェタミン及び大麻の密輸を試みたものの、警察組織に摘発されました(*1)。結果、押収メタンフェタミンが史上最多量であったことが明らかになったのでした(*1)。

 ニュージーランドではメタンフェタミンの使用者は主に「吸煙」もしくは「経鼻吸引」で摂取していました(*2)。ニュージーランドのアウトロー組織の中では1980年代から、経鼻吸引によるメタンフェタミン摂取が見られていました(*2)。

 ニュージーランドのメタンフェタミン取引では、利益の上乗せ目的で、メタンフェタミンにブドウ糖等の「混ぜ物」が入っていました(*2)。日本の覚醒剤取引においても同様の目的で「混ぜ物」は用いられてきました(*3)。ニュージーランドにおいては特に「経鼻吸引用のメタンフェタミン」に混ぜ物が入りやすかったです(*2)。

 ニュージーランドでは「吸煙用のメタンフェタミン」は別名“P”と呼ばれてきました(*2)。“P”は「pure」の略でした(*2)。“P”の使用者は主にガラスパイプで“P”を吸煙していました(*2)。また 割合は低いものの、“P”を経鼻吸引する使用者もいました (*2)。ニュージーランドのアウトロー組織は構成員に対し“P”の吸煙を禁止していました(*2)。一方でアウトロー組織は構成員に対し「“P”の経鼻吸引」に関しては許していました(*2)。

 “P”は0.1gあたり100NZドル以上で使用者に売られていました(*2)。0.1gあたり100NZドル以上での売買(小売りレベル)は、当時のニュージーランドでは「高値の取引」という位置づけでした(*2)。この記事の執筆時(2022年5月2日)1NZドル=約83円の相場であり、0.1gあたり8,300円以上になり、1gに直すと8万3,000円以上になります。一方、日本の覚醒剤の末端価格は1g3~4万円で推移してきました(*4)。日本で流通する覚醒剤もニュージーランドと同じく、主にメタンフェタミンです(*5)。

 ちなみに為替相場において2022年5月2日時点よりも「NZドル安・円高」であれば、例えば1NZドル=約50円であれば、“P”1gの末端価格は5万円以上となります。逆に2022年5月2日時点よりも「NZドル高・円安」であれば、例えば1NZドル=約100円であれば、“P”1gの末端価格は10万円以上となります。

 1980年代初期のニュージーランドのメタンフェタミン市場において、アメリカ合衆国系バイカーズギャングのヘルズ・エンジェルス(Hell’s Angels)が「主な製造元」というのはよく知られていました(*1)。隣国オーストラリアのヘルズ・エンジェルスのメルボルン支部も1980年代アンフェタミン(覚醒剤)の製造をしていました(*6)。メルボルン支部の密造チームはアメリカ合衆国のオークランド(Oakland)支部から覚醒剤の製造方法を教えてもらっていました(*6)。

<引用・参考文献>

*1 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press), p189-191

*2 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p245-246

*3 『ヤクザ500人とメシを食いました!』(鈴木智彦、2013年、宝島SUGOI文庫), p127-128

*4 『常識として知っておきたい 裏社会』(懲役太郎+草下シンヤ、2022年、彩図社),p133

*5 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書),p83

*6 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p104-110

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