日本の覚醒剤市場では、長年ヤクザ組織が流通を支配してきました(*1)。ヤクザ組織による覚醒剤流通の特徴としては、1つの商品(覚醒剤)取引における複数組織の関与があります(*1)。互いの1次団体が異なる場合もあります(*1)。例えば20XX年X月に覚醒剤10kgを密輸した場合、1次団体Aの傘下組織・AXという組織が「元売り」、1次団体Bの傘下組織・BYという組織が「卸」、1次団体Cの傘下組織・CZという組織が「小売り」の役割を担うような場合があるのです。また覚醒剤の流通ビジネスに関しては、敵対組織でも取引する場合があるようです(*2)。日本では組織間ネットワークによる覚醒剤取引が主で、単体組織による自己完結型の覚醒剤取引は稀有なのです。
覚醒剤取引において他組織を巻き込む理由としては、検挙リスクの分散、販路の拡張等が挙げられます。販路の拡張とは、元売り組織や卸組織に限る話で「取扱いの覚醒剤を縄張り外で流通させる」ことを意味します。先述の元売り・AXを例にすると、AXは他団体のBYやCZと組むことで、B団体やC団体の縄張りでも取扱いの覚醒剤を流通させることができます。逆に、元売り・AXが他団体と組まずに、同じ団体内のAYやAZにだけ卸していれば、B団体やC団体の縄張りには取扱の覚醒剤を流通させることはできません。また小売り組織にとっても、他組織と組めば、仕入れ先が増加する為、メリットがあります。
ニュージーランドの違法薬物市場でも「アウトロー組織間の連携」が流通ビジネスにおいて用いられていました(*3)。ニュージーランドのバイカーギャング業界には「バイカー連邦」(the Bikers’Federation)という同盟団体がありました(*3)。バイカー連邦以外の同盟団体としては、1990年代末に結成された4組織による同盟団体(当初団体名なし、後に「Aチーム」という団体名)がありました(*3)。同盟団体(後のAチーム)にはマザーズ(Mothers)、テンプラーズ(Templars)、デビルズ・ヘンチマン(Devil’s Henchmen)、タイランツ(Tyrants)の4つのバイカーギャングが参加していました(*3)。またヘルズ・エンジェルス(Hell’s Angels)、ヘッド・ハンターズ(Head Hunters)、フィルシー・フュー(Filthy Few)による3組織の同盟もありました(*3)。
ちなみにヘッド・ハンターズは「バイカーギャング」と「ストリートギャング」の要素を併せ持つ「ハイブリッド型組織」でした(*4)。
同盟に参加した組織は違法薬物取引において、組織間ネットワークに基づいた「流通経路」を利用できました(*3)。おそらく「同盟団体の他組織」の実効支配地域における経路も、同盟参加組織は利用できたと推測されます。同盟参加組織は、組織間ネットワークにより、自身の違法薬物を広域に流通させることができたと考えられます。
オーストラリアでは複数のバイカーギャングが、覚醒剤密造所の「共同運営」をしていた事例がありました(*5)。共同運営の覚醒剤密造所は、オーストラリアの3州内に複数ありました(*5)。2004年5月警察組織は、共同運営の覚醒剤密造所を摘発しました(*5)。レベルズ(Rebels)、ノマッズ(Nomads)、ジプシー・ジョーカーズ(Gypsy Jokers)、フィンクス(Finks)、ヘルズ・エンジェルスが「共同運営」に参加していました(*5)。
<引用・参考文献>
*1 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書), p130-131
*2 『週刊実話』2016年3月3日号, p34-35
*3 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press), p185-186
*4 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p248
*5 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p439
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