アメリカ合衆国におけるヒスパニック系バイカーギャングの1つに「モンゴルズ」（Mongols）があります(*1)。モンゴルズの前身はチカノ系刑務所ギャングで、1969年東ロサンゼルスの刑務所で結成されました(*1)。チカノとは、ヒスパニックの一種で、「アメリカ合衆国に居住するメキシコ系の人々」を指す言葉です(*2)。後にモンゴルズはバイカーギャングとなっていきました(*1)。
モンゴルズは同じカリフォルニア州で活動する「ヘルズ・エンジェルス」（Hell’s Angels）とは早くから対立していました。1970年代後期モンゴルズはヘルズ・エンジェルスと小競り合いに至り、1980年代初期にも同組織と小競り合いを起こしました(*3)。小競り合いの背景には、モンゴルズが専用ベスト後面下部に「California」(カリフォルニア)の文字入りワッペンを縫い付けたことがありました(*3)。昔からヘルズ・エンジェルスは他組織に「California」の文字入りベスト着用を禁止していました(*3)。
抗争の結果、ヘルズ・エンジェルスはモンゴルズに譲歩し、「California」の文字入りベスト着用をモンゴルズに認めました(*3)。一方でモンゴルズはカリフォルニア州北部には支部を設立しない、カリフォルニア州南部におけるヘルズ・エンジェルス支部の縄張りを侵さないことを約束しました(*1)。つまりモンゴルズはヘルズ・エンジェルス支部の「縄張り外のエリア」では、自由に活動して良いことが認められたのでした(*1)。この協定の締結により、両者は休戦に至りました(*1) (*3)。
また両者の対立した要因のもう一つとしては、1980年にモンゴルズが「ヘルズ・エンジェルス入り」を断られたことがありました(*4)。背景には、ヘルズ・エンジェルスがヒスパニック系の加入を認めていなかったことがありました(*4)。
休戦後、1990年代中期から後期にかけてモンゴルズは勢力を拡張させていきました(*3)。モンゴルズは東ロサンゼルスにおけるストリート系ギャングを吸収するなどし、構成員数及び支部数を増加させていきました(*3)。またカリフォルニア州北部に位置するサンノゼ市にモンゴルズは進出し、同市に4つの支部を設立しました(*3)。モンゴルズが休戦協定を無視した可能性が高いです。勢力拡張の要因の1つとしては、モンゴルズが他のバイカーギャングに比し、構成員昇格のハードルを下げたことがありました(*3)。バイカーギャングの末端構成員は「パッチホルダーズ」（Patchholders）(*5)と呼ばれます。パッチホルダーズより下位の者として「プロスペクツ」（prospects）などがいます(*5)。プロスペクツはいわば「準構成員」といえます。
ヘルズ・エンジェルスの場合、プロスペクツ（準構成員）からパッチホルダーズ（構成員）に昇格するには、1年以上かかりました(*3)。一方、モンゴルズは加入希望者を即「構成員」としました(*3)。モンゴルズと同様の方法で、勢力を拡張させたバイカーギャングとしては「レベルズ」（Rebels）がいます(*6)。レベルズはオーストラリア最大のバイカーギャングで、1990年代後期から勢力を拡張させていきました(*6)。レベルズは加入から3～6カ月ぐらいで加入者を「構成員」に昇格させていました(*6)。
モンゴルズ構成員の多くはバイクを持たず、また10代からストリート系ギャングに属していました(*3)。モンゴルズはストリート系ギャングの要素を色濃く持つバイカーギャングだったと考えられます。
1990年中期以降、カリフォルニア州の南部においてモンゴルズはヘルズ・エンジェルスの支部数を上回りました。ヘルズ・エンジェルスはカリフォルニア州南部で5つの支部を持つのに対し、モンゴルズはロサンゼルス市だけで39支部を擁していました(*3)。 モンゴルズは後に海外進出を果たし、2020年時にはメキシコ、カナダ、デンマーク、ドイツ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、スイス、タイ、オーストラリア、ニュージーランドに支部を設けていました(*7)。モンゴルズは2019年ベイ・オブ・プレンティ地方（北島）に支部を設立し、ニュージーランド進出を果たしました(*7)。
2010年代モンゴルズのドイツ勢の中ではブレーメン支部が代表格でした(*8)。ブレーメン支部は2010年10月設立されました(*8)。「ミリ・クラン」（Miri clan：ミリ一族）という地元アウトロー組織がブレーメン支部を担いました(*8)。『Outlaws: Inside the Hell’s Angel Biker Wars』の著者トニー・トンプソン（Tony Thompson）は、ミリ・クランを「クルド系移民」のアウトロー組織としていますが(*8)、2021年の別の情報によればミリ・クランは「レバノン系移民」のアウトロー組織と位置づけられています(*9)。
ミリ・クランはブレーメン以外の都市でも活動していました(*9)。モンゴルズのブレーメン支部において当時オートバイの免許を持っていたのは支部長のムスタファ・B(Mustafa B)だけでした(*8)。ブレーメン支部構成員の主な移動手段は自動車でした(*8)。設立当初のモンゴルズ・ブレーメン支部は「バイカーギャング」の体裁をとっていないような組織であったと考えられます。
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