アメリカ合衆国の主要バイカーギャングは別名「五大バイカーギャング」と呼ばれています(*1)。五大バイカーギャングとは、ヘルズ・エンジェルス(Hell’s Angels)、バンディドス(Bandidos)、アウトローズ(Outlaws)、ペイガンズ(Pagans)、サンズ・オブ・サイレンス(Sons of Silence)を指します (*1)。
アメリカ合衆国内において五大バイカーギャングの活動範囲はどのようになっているのでしょうか。アメリカ合衆国は大別すると「4地域」に分けられます。4地域とは「北東部」「中西部」「南部」「西部」です。さらに地域は「9地区」に分けられます。北東部は「ニューイングランド」「大西洋岸中部」、中西部は「東北中部」「西北中部」、南部は「大西洋側南部」「東南中部」「西南中部」、西部は「ロッキー山脈地帯」「太平洋側」の地区を抱えます。
図 アメリカ合衆国の地図(出典:フリー素材、無料素材のDigipot)
以下、アメリカ合衆国における各組織の活動範囲について見ていきます。進出地域、進出地区、進出州の数が多ければ多いほど、活動範囲は広いと考えられます。活動範囲が広ければ、アメリカ合衆国内に自陣のネットワークを張り巡らすことが可能になります。
またメキシコ国境、カナダ国境に接する州の進出状況も確認します。メキシコ国境に接する州として「テキサス州」「ニューメキシコ州」「アリゾナ州」「カリフォルニア州」の4州があります。カナダ国境に接する州としては「メイン州」「ニューハンプシャー州」「バーモント州」「ニューヨーク州」「ペンシルベニア州」「オハイオ州」「ミシガン州」「ミネソタ州」「ノースダコタ州」「モンタナ州」「アイダホ州」「ワシントン州」「アラスカ州」の13州があります。
トーマス・バーカーがIOMGIA(International Outlaw Motorcycle Gang Investigators Association)の2010年情報を基に作成した資料によれば、ヘルズ・エンジェルスは4地域中4地域、9地区中9地区、9地区内の 21州に進出していました(*2)。進出先21州には「メキシコ国境に接する2州」「カナダ国境に接する5州」が含まれていました(*2) ただし2010年時点ペンシルベニア州のヘルズ・エンジェルスは休眠中、ルイジアナ州のヘルズ・エンジェルスに関しては活動は確認中の状態でした(*2)。
図 ヘルズ・エンジェルスの進出州(2010年)
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バンディドスは4地域中3地域(中西部、南部、西部)、9地区中5地区(中西部の西北中部、南部の東南中部と西南中部、西部全2区)、5地区内の15州に進出していました(*2)。進出先15州には「メキシコ国境に接する2州」「カナダ国境に接する2州」が含まれていました(*2)。
図 バンディドスの進出州(2010年)
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アウトローズは4地域中4地域、9地区中8地区(中西部の西北中部を除いて進出)、8地区内の17州に進出していました(*2)。進出先17州には「カナダ国境に接する5州」が含まれていました(アウトローズはメキシコ国境に接する州には進出していませんでした)(*2)。
図 アウトローズの進出州(2010年)
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ペイガンズは4地域中3地域(北東部、中西部、南部)、9地区中5地区(北東部全2区、中西部全2区、南部の大西洋側南部)、5地区内の10州に進出していました(*2)。進出先10州には「カナダ国境に接する1州」が含まれていました(ペイガンズはメキシコ国境に接する州には進出していませんでした) (*2)。
図 ペイガンズの進出州(2010年)
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サンズ・オブ・サイレンスは4地域中4地域、9地区中7地区(北東部のニューングランド、中西部全2区、南部全3区、西部のロッキー山脈地帯)、7地区内の11州に進出していました(*2)。進出先11州には「カナダ国境に接する2州」が含まれていました(サンズ・オブ・サイレンスはメキシコ国境に接する州には進出していませんでした)(*2)。
図 サンズ・オブ・サイレンスの進出州(2010年)
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進出地域数を降順で並べると、ヘルズ・エンジェルスとアウトローズとサンズ・オブ・サイレンス(4地域)→バンディドスとペイガンズ(3地域)になります。
進出地区数を降順で並べると、ヘルズ・エンジェルス(9地区)→アウトローズ(8地区)→サンズ・オブ・サイレンス(7地区)→バンディドスとペイガンズ(5地区)になります。
進出州数を降順で並べると、ヘルズ・エンジェルス(21州)→アウトローズ(17州)→バンディドス(15州)→サンズ・オブ・サイレンス(11州)→ペイガンズ(10州)になります。
以上3つのデータに基づけば、2010年アメリカ合衆国内において五大バイカーギャングのうちヘルズ・エンジェルスがより広域的に活動していたことが分かります。またヘルズ・エンジェルスに次いで広域的に活動していたバイカーギャングはアウトローズと考えられます。
またメキシコ国境に接する州への進出数を降順で並べると、ヘルズ・エンジェルスとバンディドス(2州)→アウトローズとペイガンズとサンズ・オブ・サイレンス(0州)になります。
カナダ国境に接する州への進出数を降順で並べると、ヘルズ・エンジェルスとアウトローズ(5州)→バンディドスとサンズ・オブ・サイレンス(2州)→ペイガンズ(1州)になります。
メキシコ国境に接する州に進出していたのはヘルズ・エンジェルスとバンディドスの2団体でした。カナダ国境に接する州には5団体全て進出していました。つまりヘルズ・エンジェルスとバンディドスの2団体がメキシコ及びカナダ両方の国境に接する州に進出できていました。国境に接する州の進出状況からも、ヘルズ・エンジェルスが広域的に活動していたことが垣間見えます。
違法薬物ビジネスでは、張り巡らされたネットワークは「広域販売網」に切り替わることが可能です。アメリカ合衆国に違法薬物を供給するメキシコ麻薬カルテルらにとって、広域販売網を持つ組織、加えてメキシコ国境に接する州に拠点を持つ組織に供給したいはずです。
またアメリカ合衆国では州によって「銃器の購入価格」「銃器関連の法環境」が変わる為、違法領域では州を超えて銃器が取引されました(*3)。例えばミシシッピ州(南部の東南中部)に比し、イリノイ州(中西部の東北中部)における銃器の購入価格は高く、銃器関連の法律は厳しかったです(*3)。よって「ミシシッピで購入した銃器」をイリノイ州で販売すれば、利益を出すことができました。広域に活動拠点を有するアウトロー組織ほど、州を超えた銃器取引は有利です。
日本の覚醒剤流通ではヤクザ組織が支配してきました(*4)。一般的に単独のヤクザ組織(1次団体)が「同一の覚醒剤」に関して全流通過程(仕入れ→元売り→卸→小売り)を担うことはなく、一部の流通過程だけを担います(*4)。他の流通過程は他組織(他の1次団体)が担います(*4)。組織(1次団体)を超えたネットワーク、つまり組織間ネットワークがヤクザ組織による覚醒剤流通で機能していることが窺えます。ニュージーランドでも「アウトロー組織間のネットワーク」が違法薬物の流通ビジネスにおいて活かされていました(*5)。
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バイカーギャングを描いたドラマとして有名なのが『サンズ・オブ・アナーキー』です。
<引用・参考文献>
*1 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p103-104
*2 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』,p58-66
*3 『Dixieland Gangs & Disruptive Groups: Crime & Impact on the Southeast United States(English Edition) Kindle版』(Gabe Morales,2021,Amazon Services International)
*4 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書),p130-134
*5 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press), p185-186
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