違法領域の「B to B」型ビジネス

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 合法領域の主要な商取引形態として「企業間取引」と「企業対消費者間取引」があります。英語に直すと企業間取引は「Business-to-Business」で略して「B to B」、企業対消費者間取引は「Business-to-Consumer」で略して「B to C」です。

 ガソリン取引の場合、日本ではまず石油元売り会社が原油を輸入、製油所で精製し、ガソリンなどの石油製品を作っています(また商社からはガソリン自体を輸入しています)(*1)。石油元売り会社はガソリンを元売り特約店や燃料商社(卸売業者)に販売します(*1)。「石油元売り会社」対「元売り特約店」「燃料商社」の取引はB to Bに該当します。以降「元売り特約店」「燃料商社」→「ガソリンスタンド」→「ガソリンスタンド利用者」の経路でガソリンは販売されていきます。「ガソリンスタンド」対「ガソリンスタンド利用者」の取引がB to Cに該当します。

 違法領域の商取引に置き換えると、例えば覚醒剤取引の場合、B to Bとは「元売り組織」対「卸売り組織」の取引、一方B to Cとは「小売り組織(売人)」対「覚醒剤利用者」の取引に該当します。

 違法領域の「B to B」型ビジネスとは、上記の元売り~卸売りまでの覚醒剤取引、縄張りの賃貸業(貸しジマからの地代収入ビジネス)(*2)、組織間における銃器売買等が挙げられます。一方、「B to C」型ビジネスとは、上記の小売りレベルの覚醒剤取引、野球賭博等の違法賭博業、違法性風俗業、闇金(違法貸金業)等が挙げられます。

 日本の違法領域では、現在組織としてはヤクザ組織と半グレ集団等が主に活動しています。また覚醒剤取引においてはヤクザ組織間ネットワークが昔から「流通網」として機能してきました(*3)。ガソリン取引における「石油元売り会社」(元売り)、「元売り特約店」「燃料商社」(卸売り)、「ガソリンスタンド」(小売り)の役割を、覚醒剤取引では各ヤクザ組織が担っていました。またヤクザ組織間ネットワークは全国(47都道府県)に展開していました(*3)。ヤクザ組織全体で見ると、販売エリアは全国であることが分かります。

 一方半グレ集団は、数多く結成されるものの、短期間で消滅する場合が多いです。10年前から聞く半グレ集団で現在も活動している組織としては怒羅権があります(*4)。ヤクザ組織に比し、組織内の規律が緩いとされる半グレ集団は、自由を求める不良青年にとっては魅力的です。しかし転じて、規律の緩さは組織の不調時に、組織崩壊へと誘いやすい面があります。結果的に現在まで、怒羅権を除けば、半グレ集団の「組織耐用年数」は短いといえます。

 個々の組織寿命が短いゆえに、半グレ集団の組織間ネットワークは形成されにくいと考えられます。また半グレ集団がヤクザ組織間ネットワークに参入したという事例もあまり聞きません。

 海外のアウトロー組織が日本のアウトロー組織に違法薬物を供給する場合、つまり「B to B」型ビジネスにおいて、どの組織を取引先(供給先)に選ぶでしょうか。一定量を購入し、確実に支払いをしてくれる組織を選びたいはずです。全国レベルのネットワークを持つ名の知れた組織、つまりヤクザ組織が候補として上がります。

 対して一定地域で勢力を張る半グレ集団の場合、販売エリアは限定的であり、新興ゆえに組織としての信用力もありません。つまり半グレ集団の場合、購入量が小さく、支払い能力に疑問符がついてしまう為、海外のアウトロー組織は半グレ集団を取引先にはしたくないです。 合法、違法問わず商取引において取引先の情報確保は必須です。素性の知れない相手とは、商取引はできないのです。漫画では時折「巨大秘密結社」のような半グレ集団の活動が描かれることがあります。しかし実際そのような組織がいた場合、上記の理由から、他のアウトロー組織はその組織とは商取引はしないでしょう。

<引用・参考文献>

*1 ・『週刊エコノミスト』2021年12月7日号「ガソリン高騰対策 元売りに「補助金」初投入の効果不透明」(和田肇・編集部), p16

*2 『ヤクザ500人とメシを食いました!』(鈴木智彦、2013年、宝島SUGOI文庫), p224-227

*3 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書), p130-135

*4 『怒羅権 初代 ヤクザが恐れる最凶マフィアをつくった男』(佐々木秀夫(ジャン・ロンシン)、2022年、宝島社), p252

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