オーストラリア主要バイカーギャングの1つであるコマンチェロズ(Comancheros)元トップで海外逃亡中のマーク・バドル(Mark Buddle)が、キプロス国境でFBIにより逮捕されたことが、7月9日明らかになりました(*1)。最近のマーク・バドルはキプロスに潜伏していました(*1)。FBI(federal bureau of investigation)とは、アメリカ合衆国の連邦捜査局のことです。つまりアメリカ合衆国の警察組織が、オーストラリアのアウトロー組織元トップを逮捕したことになります。
逮捕前、マーク・バドルは潜伏先のキプロスを発ちドイツでコマンチェロズの構成員と会談していました(*1)。ドイツからトルコを経由しキプロス内の隠れ家に帰るところで、マーク・バドルは逮捕された模様です(*1)。ちなみにトルコは、オーストラリアの逃亡者がよく潜伏する場所として知られています(*1)。
キプロス内の隠れ家は「北キプロス」の方にあると思われます。マーク・バドルは北キプロスの政治家から「2022年8月6日までの居住許可」を与えられたという報道があります(*1)。キプロスは、地中海東部に浮かぶキプロス島を領土とし、EU加盟国であり、ユーロを通貨としています(*2)。キプロスにはギリシア系住民とトルコ系住民がおり、1963年には両者による内戦が起きました(*2)。北部のトルコ系住民は1975年「キプロス=トルコ人連邦国」、1983年には「北キプロス=トルコ共和国」として独立を宣言しました(*2)。以降、キプロス北部地域は「北キプロス=トルコ共和国」(北キプロス)が実質統治していきました(*2)。現在北キプロスを国家承認しているのはトルコのみです(*2)。
2009年3月に起きたシドニー空港でのヘルズ・エンジェルス(Hell’s Angels)との乱闘事件を巡りコマンチェロズの当時トップだったマフムード・“ミック”・ハウィ(Mahmoud ‘Mick’ Hawi)が検挙、収監されました(*3)。マフムード・“ミック”・ハウィの跡を継いだのが、ニュージーランドのロトルア(ベイ・オブ・プレンティ地方)出身のデュアックス・ホヘパ・ンガクル(Duax Hohepa Ngakuru)でした(*3)。しかしデュアックス・ホヘパ・ンガクルは翌2010年、オーストラリアを離れることになってしまいました(*3)。次にコマンチェロズのトップ座に就いたのが、マーク・バドルでした(*3)。デュアックス・ホヘパ・ンガクルには現在もニュージーランドにおいて、違法薬物密輸の疑いで逮捕状が出ています(*3)。デュアックス・ホヘパ・ンガクルは近年、トルコにいると考えられています(*3)。
マーク・バドルは、2010年時に起きた警備員殺害の容疑者となった為、2016年中東のドバイ(UAE)に逃亡しました(*1)。マーク・バドルは昨年(2021年)までドバイに滞在していましたが、ドバイのリゾートプールで観光客と喧嘩している動画が流れた後、ドバイを離れました(*1)。マーク・バドルの年齢は2021年時で44歳でした(*1)。マーク・バドルはドバイを去った後、各地を転々とし、キプロスに辿りつきました(*1)。
2016年マーク・バドルがオーストラリアを離れた後、ミック・マレイ(Mick Murray)がコマンチェロズのトップ(national president)に就きました(*4)。ミック・マレイ体制下においても、マーク・バドルがコマンチェロズの「最高実力者」として君臨していた模様です(*1)。マーク・バドルの前々任者であるマフムード・“ミック”・ハウィは2015年社会復帰しましたが、コマンチェロズを脱退しました(*3)。2018年マフムード・“ミック”・ハウィはシドニー南部にあるジムの外で銃撃され、死亡しました(*3)。脱退及び射殺という事態から、マフムード・“ミック”・ハウィがコマンチェロズ内で権力を失っていったことが窺われます。前々任者の権力喪失は、マーク・バドルにとってプラスに働いたはずです。
マーク・バドルの跡を受け継いだミック・マレイでしたが、今年4月殺人の疑いで逮捕され、現在収監されています (*3)。また最高幹部の「衛視長」(sergeant-at-arms)の役職にいた41歳のタレク・ザヒド(Tarek Zahed)は5月10日に銃撃され、重傷を負いました(*4)。銃撃前のタレク・ザヒドは、ミック・マレイの逮捕を受けて「コマンチェロズの次期トップ」と目されていました(*4)。
混乱状況の中、コマンチェロズは新トップを決めました。シドニー支部長のアレン・ミーハン(Allan Meehan)が新トップ(national president)に就きました(*3)。アレン・ミーハンは現在35歳です(*3)。ちなみに前トップのミック・マレイは44歳です(*3)。アレン・ミーハンは18歳の時、同じオーストラリアのバイカーギャングのレベルズ(Rebels)に入り、後にレベルズのクロヌラ(Cronulla)支部長に就きました(*3)。クロヌラはシドニー南部郊外の街(サザーランド・シャイアー地域)です。
その後アレン・ミーハンはコマンチェロズに移籍し、2021年前半にはキャンベラ支部の支部長に就きました(前キャンベラ支部長殺害を受けて)(*3)。その半年後アレン・ミーハンはシドニー支部長に就きました(*3)。
マフムード・“ミック”・ハウィ以降のコマンチェロズのトップは、「デュアックス・ホヘパ・ンガクル」→「マーク・バドル」→「ミック・マレイ」→「アレン・ミーハン」と変遷していったことが分かります。4人のうち2人(マーク・バドル、ミック・マレイ)が殺人容疑をかけられ、また4人のうち2人が(デュアックス・ホヘパ・ンガクル、マークバトル)海外逃亡したことから、警察組織が2009年以降コマンチェロズを厳しく監視していることが窺えます。
今回のマーク・バドル逮捕によって、アレン・ミーハン体制のコマンチェロズ内で新たな混乱が生まれる可能性があります。
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<引用・参考文献>
*2『データブック オブ・ザ・ワールド 2022年版 -世界各国要覧と最新統計-』(二宮書店編集部、2022年、二宮書店),p188-189
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