バンディドスとアウトローズの同盟

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 アメリカ合衆国系バイカーギャング「バンディドス」(Bandidos)と「アウトローズ」(Outlaws)は1978年フロリダ州のデイトナビーチにて同盟を結びました(*1)。具体的には両者は「不可侵条約」を締結しました(*2)。2010年時点でも両者の同盟関係は続いていました(*1)。

 同盟締結の目的としては、違法薬物ビジネスによる収益向上がありました(*1)。アウトローズはバンディドスにコカインを供給し、代わりにバンディドスはアウトローズに覚醒剤を供給しました(*1)。コカインに限れば、同盟締結によりアウトローズはバンディドスにコカインを卸すことになったのです。アウトローズはコロンビア人やキューバ人の取引業者からコカインを仕入れていました(*2)。

 当時フロリダ州のバイカーギャング業界ではアウトローズが最も有力な組織でした(*1)。元々アウトローズの本拠地はイリノイ州でした(*3)。

 1980年代初期、コロンビア麻薬組織「メデジン・カルテル」(Medellín Cartel)はコカインの大半をコンビアからフロリダ州まで直接空輸していました(*4)。

 一方アメリカ合衆国のレーガン大統領は1982年「南フロリダ特殊部隊」を設立し、フロリダ上空の警備体制を強化しました(*4)。1982年以降メデジン・カルテルはフロリダ州を避け、メキシコ経由ルートにてコカインを輸送していきました(*4)。

 実際は1970年代後半からメデジン・カルテルはメキシコ経由でコカインをアメリカ合衆国に密輸していました。

 1977年後半メキシコのミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルド(Miguel Ángel Félix Gallardo)は、コロンビアのメデジン・カルテルの一派と提携、コカイン密輸業務の受託に成功しました(*5)。フェリックス・ガジャルドにコカイン密輸業務を委託したのは、ゴンサロ・“エル・メヒカーノ”・ロドリゲス・ガチャ(Gonzalo “El Mexicano” Rodríguez Gacha)でした(*5)。

 ゴンサロ・ロドリゲス・ガチャは、メデジン・カルテル内のエスコバル派幹部で、戦闘部門のトップでもありました(*6)。フェリックス・ガジャルドの組織はメキシコ経由の密輸経路で毎月1.5~2トンの高品質コカインをアメリカ合衆国に運びました(*5)。その密輸経路は、メキシコ北西部のソノラ州もしくはバハ・カリフォルニア州から、アメリカ合衆国に入るものだったと考えられています(*5)。ソノラ州はアメリカ合衆国アリゾナ州、バハ・カリフォルニア州は主にアメリカ合衆国カリフォルニア州と国境を挟んで接しています。

 以上の情報を整理すると、1980年代初期のメデジン・カルテルは①「フロリダ州への密輸経路」、②「メキシコ経由の密輸経路」などでアメリカ合衆国にコカインを供給していたしたと考えられます。一方1982年以降のメデジン・カルテルは、①「フロリダ州への密輸経路」の利用を減らし、②「メキシコ経由の密輸経路」に比重を置いて、アメリカ合衆国にコカインを供給していったと考えられます。

 またバンディドスとアウトローズの同盟締結時(1978年)、上記のメキシコ経由の密輸経路は、「開通」直前もしくは直後だったことが分かります。

 ともかく1978年時のフロリダ州は「コカインの密輸拠点」であり、そのフロリダ州をおさえていたアウトローズはコカインの「元売り」もしくは「卸売り」の立場であったことが推測されます。

 アウトローズのデトロイト勢のハリー・“タコ”・ボウマン(Harry“Taco”Bowman)らはアメリカ・マフィア(アメリカ合衆国で活動するイタリア系アウトロー組織)と手を組んでいました(*7)。アメリカ・マフィアはアウトローズのハリー・“タコ”・ボウマンらに違法薬物を卸し、一方アウトローズのハリー・“タコ”・ボウマンらは違法薬物の流通を担いました(*7)。ハリー・“タコ”・ボウマンは後にアメリカ・マフィアと対立、また逮捕され終身刑を受けました(*7)。

 バンディドスはメキシコ国境に接するテキサス州を拠点としてきました(*8)。先述したように、1977年後半以降「開通」したメキシコ経由の密輸経路は、メキシコ北西部のソノラ州もしくはバハ・カリフォルニア州から、アメリカ合衆国アリゾナ州もしくはカリフォルニア州に向かうものだったと考えられています。

 つまり1978年時のテキサス州は「コカイン密輸拠点」ではなかったと推測されます。ゆえにバンディドスは縄張り内でコカインを販売する為には、コカインを仕入れる必要があり、仕入れ先としてアウトローズを選んだと考えられます。

 ちなみに1978年アウトローズとの同盟締結時におけるバンディドストップはロニー・ホッジ(Ronnie Hodge)でした(*2)。1972~1980年の間ロニー・ホッジはバンディドスのトップを務めました(*9)。ロニー・ホッジの時代(1972~1980年)、バンディドスは違法薬物ビジネス、売春ビジネス、酒場やストリップクラブからのミカジメ料徴収、違法闘犬ビジネス(犬はピットブル)等を資金獲得源としていました(*2)。

<引用・参考文献>

*1 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada), p17

*2 『Outlaws: Inside the Hell’s Angel Biker Wars』(Tony Thompson,2012,Hodder Paperback), p195-196

*3 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』, p185

*4 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』(ヨアン・グリロ著、山本昭代訳、2014年、現代企画室), p94-99

*5 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』(David F. Marley,2019,Abc-Clio Inc), p137

*6 『コロンビア内戦 ― ゲリラと麻薬と殺戮と』(伊高浩昭、2003年、論創社), p165

*7 『Motor City Mafia: A Century of Organized Crime in Detroit (Images of America)』(Scott M. Burnstein,2006, Arcadia Publishing),p84

*8 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』, p11-12

*9 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』, p15-16,18

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