オランダ南東部に位置するリンブルフ州には2000年代前半「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)のノマド(Nomads)支部が活動していました(*1)。ノマド支部とは、地理的制限を受けずに活動できる部隊のことです(*2)。
ヘルズ・エンジェルスはアメリカ合衆国系のバイカーギャングで、1977年アムステルダム(北ホラント州)のバイカークラブを仮支部にすることで、オランダ進出を果たしました(*3)。翌1978年アムステルダムの仮支部は「支部」に昇格しました(*3)。1980年までにヘルズ・エンジェルスは、オランダで2番目の支部をハールレム(北ホラント州)に設けました(*3)。
ヘルズ・エンジェルスにおいてオランダ3番目の支部が、リンブルフ州ノマド支部でした(*3)。ヘルズ・エンジェルスは1986年、リンブルフ州にノマド支部を設けました(*3)。
図 リンブルフ州の地図(出典:Googleマップ)
リンブルフ州ノマド支部は、当時ヘルズ・エンジェルスのヨーロッパ勢の中で凶暴な組織の1つとして知られていました(*1)。リンブルフ州ノマド支部は構成員ヴィック・トラスムンディ(Vic Trasmundi)の主導により、長年カナダ経由でコカインを仕入れていました(*1)。ヴィック・トラスムンディはカナダのオンタリオ州出身でした(*1)。リンブルフ州ノマド支部はコカインを仕入れた後、ヨーロッパで販売していったと考えられます。
ヴィック・トラスムンディが2002年ガンで死去した後、支部長ポール・デ・フリース(Paul de Vries)はコロンビアからのコカイン直接仕入れを図りました(*1)。支部長ポール・デ・フリースは(*1)、キュラソー在住の密輸業者アンジェロ・ディアス(Angelo Diaz)(*4)を介し、コロンビアの密輸組織と商談の機会を持ちました(*1)。
商談の結果、リンブルフ州ノマド支部とコロンビアの密輸組織は提携し、2003年3月約300kgのコカインをヨーロッパに向けて密輸することになりました(*1)。密輸に際して①「コロンビアの密輸組織がコカインを仕入れる」、②「リンブルフ州ノマド支部側がコカインをヨーロッパで輸送する」、③「ヨーロッパに着いたコカイン(約300kg)を両者に半分ずつ分ける」等の約束がされたと考えられます(*1)。互いの地の利を活かせられるように、両者の役割(コロンビア側は仕入れ、オランダ側は輸送)が決まった模様です。また収益方法としては、最終消費地・ヨーロッパにて両者が別々にコカインを販売する方法がとられました。しかし②「リンブルフ州ノマド支部側がコカインをヨーロッパで輸送する」の過程で、リンブルフ州ノマド支部は全てのコカインを奪ってしまいました(*1)。
またリンブルフ州ノマド支部には、2003年10月MDMA密輸(オーストラリア向け)に関与した疑いもかけられていました(*1)。リンブルフ州ノマド支部は違法薬物ビジネスにおいて、コカインを「密輸入」し、MDMAを「密輸出」することで、収益を上げていたと考えられます。
<引用・参考文献>
*1 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p226-229
*2 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p131
*3 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p236-238
*4 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p224
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