北欧におけるヘルズ・エンジェルスのサポートクラブ

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 1999年北欧デンマークの警察組織は「レッド & ホワイトクルー」(Red & White Crew)というバイカークラブを注視するようになりました(*1)。警察組織が注視した理由は、レッド & ホワイトクルーの背後にアメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)がいたからです。レッド & ホワイトクルーはヘルズ・エンジェルスの「サポートクラブ」(support club)(*2)でした(*1)。

 バイカーギャング業界における「サポートクラブ」とは上位のバイカークラブに対し、上納金の支払い、抗争時における戦闘員の派遣等の支援をする組織です(*2)。支援・被支援関係で捉えると、レッド & ホワイトクルーが「支援側」、ヘルズ・エンジェルスが「被支援側」になります。支配・被支配関係で捉えると、レッド & ホワイトクルーが「被支配側」、ヘルズ・エンジェルスが「支配側」になります。つまりバイカーギャング業界では「被支配側のクラブ」が「支援」という責務を課せられています。

 ヘルズ・エンジェルスは1980年コペンハーゲン支部を設立し、デンマーク進出を果たしました(*3)。コペンハーゲン支部は、ヘルズ・エンジェルスが北欧で最初に設置した支部でした(*3)。コペンハーゲン支部開設は「北欧進出」も意味していたのです。ヘルズ・エンジェルスがレッド & ホワイトクルーを「サポートクラブ」にした背景には、アメリカ合衆国系バイカーギャング「バンディドス」(Bandidos)の「サポートクラブ」に対する対抗心がありました(*1)。

 バンディドスのサポートクラブは「エックスチーム」(X-Team)という組織名でした(*1)。バンディドスは1993年地元バイカークラブを取り込む形で、コペンハーゲン郊外の街に北欧初の支部を開設しました(*4)。以降バンディドスは北欧での勢力拡張を図っていきました(*4)。当然北欧で先行していたヘルズ・エンジェルスはバンディドスの伸張を無視できず、両者は1994年から1997年まで大規模な抗争を繰り広げました(*5)。この抗争は「大北欧戦争」(The Great Nordic War)と呼ばれました。大北欧戦争終了後も潜在的な対立関係は継続されたと考えられます。

 レッド & ホワイトクルーはデンマークのみならず、スウェーデンでも活動していました(*1)。後にレッド & ホワイトクルーのデンマーク勢は「AK81」という組織名に改称しました(*1)。一方レッド & ホワイトクルーのスウェーデン勢は「レッド & ホワイトクルー」という組織名を使い続けていきました(*1)。

 AK81の「AK」はデンマーク語で「Altid Klar」の略です(*1)。Altid Klar は日本語に訳すと「いつでも準備OK」(英語では「Always Ready」)の意味になります(*1)。またAK81の「81」は、Hell’s Angelsの略「HA」と同義です(*1)。アルファベット順(A,B,C,D,E,F,G,H‥)に照らせば、Hは「アルファベット順の8番目」、Aは「1番目」になります。つまりAK81とは「いつでも準備OKだよ。ヘルズ・エンジェルス!」という意味になり、サポートクラブの役割を体現した組織名なのです。

 AK81の加入年齢は18歳以上でした(*6)。ヘルズ・エンジェルスのデンマーク勢は「18歳未満の候補者」用の組織として「ヴァイキングズ・ディフェンス・リーグ」(Vikings Defence League)を作りました(*6)。ヴァイキングズ・ディフェンス・リーグは日本語に直すと「ヴァイキング防衛同盟」になります。ヴァイキングズ・ディフェンス・リーグもまた、ヘルズ・エンジェルスのサポートクラブの役割を与えられました(*6)。

 一方スウェーデンのレッド & ホワイトクルーは2017年時点で、スウェーデン国内に13支部擁していました(*1)。レッド & ホワイトクルーは2001年に3支部開設し、2006年以降に残りの支部を設立しました(*1)。スウェーデンのレッド & ホワイトクルーは、ヘルズ・エンジェルスのスウェーデン勢のサポートクラブとして活動していきました(*1)。

 しかしながらスウェーデンのレッド & ホワイトクルーは、通常のバイカーギャングに比し、やや異なる性格を有していました(*1)。スウェーデンのレッド & ホワイトクルーのメンバーは、組織専用ワッペン(patch)付きのベスト(cut)(*7)を着用せず、組織専用トレーナーを着ていました(*1)。

 バイカーギャング業界においてワッペン付きのベスト(cut)は「組織の一員」を内外に示す象徴として機能しています(*7)。またスウェーデンのレッド & ホワイトクルーにおけるメンバー採用は、一般的なバイカーギャングのように厳格ではありませんでした(*1)。ちなみにスウェーデンのレッド & ホワイトクルーもAK81同様、加入年齢は18歳以上でした(*1)。

 またスウェーデンでは「レッド・デビルズ」(Red Devils MC)というバイカークラブもヘルズ・エンジェルスの「サポートクラブ」として活動していきました(*1)。

<引用・参考文献>

*1 Amir Rostami・Hernan Mondani.(2017). Organizing on two wheels: uncovering the organizational patterns of Hells Angels MC in Sweden. Trends Organ Crim . DOI 10.1007/s12117-017-9310-y.

上記(*1)の資料には、孫引きの形になりますが「Red and White Crew (2009) “Stadgar‘Bylaws.’”」「Red Devils MC (2003) “Stadgar‘Bylaws.’”」も含まれています。

*2 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p114-115

*3 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton),p239-240

*4 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』,p243

*5 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p244,251

*6 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』,p209

*7 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p9-10

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