メキシコ中南部プエブラ州では2017年以降、陸上パイプラインからの「燃料抜き取り」が横行しました(*1)。2017年春プエブラ市の貧村住人が陸上パイプラインからの燃料漏出を見つけたことから、「燃料抜き取りビジネス」は始まりました(*1)。
図 メキシコのプエブラ州の地図(出典:Googleマップ)
当初抜き取り者達は漏出燃料を消費用として使い、余った分を転売していました(*1)。パイプラインの所有者は、メキシコの国営石油企業ペメックス(Pemex)でした(*1)。当然抜き取り者達はペメックスに対し無断で抜き取っていた為、「仕入れ費用」は掛かりません。燃料抜き取りは、利益率の高い違法ビジネスでした。
次第に他地域の者達も燃料抜き取りビジネスに参入していきました(*1)。抜き取り方法として、故意にパイプラインに穴を開けて燃料を抜き取ることも行われました(*1)。
一方プエブラ州の政治家やアウトロー組織は抜き取り者に対し、違法活動を黙認する代わりとして、ミカジメ料(デレッチョ・デ・ピソ)を徴収しました(*1)。抜き取り者側からすると、ミカジメ料は「抜き取りビジネスの参加料」の意味合いがあったと考えられます。
メキシコ湾岸のセタス(Zetas)系組織、ハリスコ新世代カルテル(Jalisco Nueva Generación Cartel)は、プエブラ州の燃料抜き取りビジネスに直接参入しました(*1)。参入順はセタス系組織の方が先で、遅れて2017年10月ハリスコ新世代カルテルがプエブラ州に進出しました(*1)。
当時、メキシコの麻薬カルテルは一部のガソリンスタンドを管理下に置いていました(*2)。管理下のガソリンスタンドが「抜き取った燃料」を売っていきました(*2)。メキシコの麻薬カルテルは販路を確保していたのです。
アウトロー組織の直接参入は武力抗争を生みました(*1)。特にテペアカ(Tepeaca)、テカマチャルコ(Tecamachalco)、ケチョラク(Quecholac)、パルマル・デ・ブラボ(Palmar de Bravo)の街を含む通称「赤い三角地帯」(Triángulo Rojo)では激しい抗争が行われました(*1)。
ハリスコ新世代カルテルとセタス側の対決では、ハリスコ新世代カルテルが勝ち、赤い三角地帯の支配権を奪取しました(*1)。
<引用・参考文献>
*1 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』(David F. Marley,2019,Abc-Clio Inc), p313
*2 『メキシコ2018~19年: 新自由主義体制の変革に挑む政権の成立』(国本伊代、2020年、新評論),p148
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