アルバニア系組織の「組織形態」

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  ジョン・ジェイ刑事司法大学(ニューヨーク市立大学の上級大学)のヤナ・アルソフスカ(Jana Arsovska)助教授の調査によれば、アメリカ合衆国におけるアルバニア系アウトロー組織には、各組織を束ねて指導する機関はありませんでした(*1)。つまりアメリカ合衆国内の各アルバニア系アウトロー組織は「本部」の役割を果たす組織機構を持たなかったのです。また他の組織に強い影響力を持ち、アルバニア系組織業界を主導していくような盟主的なアルバニア系組織もアメリカ合衆国内にはいませんでした(*1)。

 日本のヤクザ組織(直参制度型のヤクザ組織)の場合、構成員が日常的に活動している組織(B会)には概ね「上位団体」(A組)があります(*2)。日常的に活動している組織(B会)は相対的には「下位団体」という側面も持っているのです。下位団体(B会)は、上位団体(A組)からの指揮命令に絶対的に従うことになっています。また日常的に活動している組織(B会)も「自身の下位団体」(C組)を持っている場合があります。

 B会は「A組の下位団体」である一方、「C組の上位団体」でもあり、つまり「入れ子構造の中」で活動しているのです。上記のように、縦に連なる組織体系は「直参制度」と呼ばれます(*2)。昔は直参制度をとらず、連合型の組織形態をとる1次団体のヤクザ組織もありました(*2)。直参制度を支える装置の1つが「親分・子分」制度でした。

 昔からヤクザ組織には「親分・子分」制度があり、組織内のトップを「親分」、部下を「子分」とする関係が結ばれてきました(*3)。親分・子分制度は「疑似家族化」装置として機能してきました(*3)。加えてトップと部下の間の「支配-被支配関係」をより強化させていく機能も果たしてきました。またヤクザ組織は「組織間の関係形成」時においても、親分・子分制度を採用しました。特に1次団体と2次団体の間において親分・子分制度は適用されました(*3)。結果、1次団体は2次団体の支配を強めることができたのでした。

 アメリカ合衆国等のバイカーギャングでは、各支部(chapter)は一定の自治権を持っています(*4)。しかしバイカーギャングは概ね、支部の「指導機関」(national chapter)を設置しています(*4)。各支部は指導機関に逆らうことはできません(*4)。またバイカーギャング業界は規則の遵守が構成員には課されており、遵守できない者には罰金等が科されます (*5)。

 イタリア系アウトロー組織「ンドランゲタ」(‘Ndrangheta)は、1次団体の組織形態として「連合型」をとってきました(*6)。しかし2次団体になる「ンドリーナ」(‘ndrina)は進出都市において、同じく進出してきた他ンドリーナと協調し、「ロカーレ」(locale)と呼ばれる連合会を結成します(*6)。ンドランゲタ内には「秩序」があり、各ンドリーナは「ンドランゲタの権威」には逆らわずに活動している印象があります。

 直参制度型ヤクザ組織の2次団体、バイカーギャングの支部、ンドリーナともに「上位団体」「上位の権威」に支配されていることが分かります。

 一方、アメリカ合衆国におけるアルバニア系組織には「上位団体」及び「上位の権威」も存在しませんでした。アメリカ合衆国内に限らず、アルバニア系組織の特徴として「組織間の相互扶助関係」「長期で組織トップを務める者の不在」がありました(*1)。

 アルバニア系組織は「資金獲得活動」ごとに、実働部隊を再編制していました(*1)。資金獲得活動に応じて部隊メンバーが変わったのです。現在の組織メンバーの技量だけでは対処できない場合は、アルバニア系組織は外部から応援を呼びました。ゆえにアルバニア系組織間での人的交流等は密に行われていました(*1)。同じ地域のアルバニア人だけでなく、他国のアルバニア人とも交流をする等、人的ネットワークは広域でした(*1)。

 自ずと組織の流動性は高まっていきました(*1)。ゆえにその場でリーダーシップを発揮する者がいても、組織が流動的である為、長期トップを務めようとする者は少なかったと考えられます。またアルバニア系組織の地域リーダー格の者は、該当地域の統括よりも、「該当地域の連絡窓口担当者」としての色合いが強かったです (*1)。

 アメリカ合衆国では北東部で活動するドミニカ系アウトロー組織もアルバニア系組織同様、「指導機関」「本部」のような上位の組織を作らず、また連合を組みませんでした (*7)。アメリカ合衆国内で上位の組織を作らないアウトロー組織は、アルバニア系組織だけではなかったのです。

 またヨーロッパで活動するアルバニア系組織も、アメリカ合衆国のアルバニア系組織と似た組織形態をとっていました(*1)。ヨーロッパでも「組織間の相互扶助関係」に基づき、資金獲得活動が遂行されていました(*1)。先述のヤナ・アルソフスカ助教授が2006年ベルギーで警察職員に行ったインタビューで、警察職員は「アルバニア系は定期的に会議を開くような組織ではなかった」と話しました(*1)。

 ヤナ・アルソフスカ助教授は、アルバニア系組織全般の組織形態は「階層的」(hierarchical)はないと、述べていました (*1)。

 一方、アルバニア系組織では時に組織間で揉めることもありました。揉めた場合は、メンバーの父達が「調停者」の役割を果たしました(*1)。メンバーの父達は、間接的に息子達の活動に関わっていました(*1)。メンバーの父達は必要に応じて、援助や助言もしていました(*1)。

<引用・参考文献>

*1 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』(Jana Arsovska,2015, University of California Press), p148-151

*2 『ヤクザに学ぶ 伸びる男 ダメなヤツ』(山平重樹、2008年、徳間文庫), p329-331

*3 『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社), p10-11

*4 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p99

*5 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin), p86,89

*6 『‘Ndrangheta: The Glocal Dimensions of the Most Powerful Italian Mafia』(Anna Sergi&Anita Lavorgna,2016,Palgrave Macmillan), p25

*7 アメリカ合衆国麻薬取締局サイト内「2020全米麻薬脅威評価(National Drug Threat Assessment)」(2021), p73

https://www.dea.gov/sites/default/files/2021-02/DIR-008-21%202020%20National%20Drug%20Threat%20Assessment_WEB.pdf

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