2017年カナダのトロント市(オンタリオ州の州都)のバイカーギャング業界ではアメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)が優勢を保っていました(*1)。ヘルズ・エンジェルスは2000年オンタリオ州内に初めて支部を設立しました(*2)。組織人数は、2007年の文献においてオンタリオ州のヘルズ・エンジェルスは約200人の構成員、約40人の準構成員ら(関係者も含む)擁していました(*3)。
支部数に関しては、ヘルズ・エンジェルスは2017年オンタリオ州内で14支部 を擁していました (*1)。2023年時点ではオンタリオ州内のヘルズ・エンジェルス支部数は16になっています (*2)。
ヘルズ・エンジェルスはオンタリオ州で違法薬物ビジネスを展開していました。2000~2001年警察組織の捜査においてトロント市のヘルズ・エンジェルスはラテンアメリカの密造及び密売組織とパイプを有していることが明らかになりました(*1)。加えて捜査からトロント市のヘルズ・エンジェルスがカナダ国内で大麻及びメタンフェタミン(覚醒剤)を密造していたことも明らかになりました(*1)。つまりトロント市のヘルズ・エンジェルスはラテンアメリカの組織とつながりを持っており、また違法薬物の製造能力を有していたのです。
2002年以降、トロント市のヘルズ・エンジェルスは他のバイカーギャングと連携していきました(*1)。
2007年時点でヘルズ・エンジェルスは北オンタリオ地方中心部(サドバリー、ノースベイ、ティミンズ)のコカイン市場を牛耳っていました(*3)。一方、南オンタリオ地方のゴールデン・ホースシュー(Golden Horseshoe)エリアでは、バイカーギャングに加えて、他の組織もコカインを密売していました(*3)。トロント市もゴールデン・ホースシューのエリアに含まれます。ゴールデン・ホースシューの小売市場においてコカインは純度85%もしくは90%で密売されていました(*3)。
ゴールデン・ホースシューにおいて高純度コカインが売られていた背景には、供給者数が多かったことがありました (*3)。一方、北オンタリオ地方中心部の小売市場では、主要供給者のヘルズ・エンジェルスは純度25%のコカインを密売していました(*3)。混ぜ物が入れば入るほど、コカインの純度は下がっていきますが、利益は上がっていきます。
仮に日本において密売業者が純度100%のコカインを1gあたり1万円で仕入れ、純度90%にして1gあたり2万円で販売した(混ぜ物は経費0円とする)場合を考えてみましょう。「純度90%のコカイン1g」とは、言い換えると「純度100%のコカイン0.9g」+「混ぜ物0.1g」です。仕入れ価格上「純度100%のコカイン0.9g」は9,000円の価値を持ちます。密売業者の1gあたりの利益は1万1,000円(2万円-9,000円)になります。また同じ仕入れ価格で、純度25%にして1gあたり2万円で販売した場合も考えてみましょう。この場合の1gあたりの利益は1万7,500円(2万円-2,500円)になります。
競争相手不在の北オンタリオ地方中心部では、ヘルズ・エンジェルスは低純度のコカインを密売し、高い利益を得ていました(*3)。
2017年のトロント市ではヘルズ・エンジェルスを中心とするバイカーギャングが違法薬物の密輸(元売り)や流通ビジネスを行っていました(*1)。同時期のトロント市ではイタリア系組織(カラブリア系、シチリア系)も違法薬物を密輸していました (*1)。ちなみに翌2018年カナダは嗜好用大麻を合法化しました(*4)。
トロント市ではアメリカ合衆国系バイカーギャングのアウトローズ(Outlaws)も活動してきました。2014~2015年トロント市内の「アウトローズ」3支部は合併し、以降トロント市内でアウトローズの支部数は1つとなりました (*1) (*5) 。ちなみに2023年時点でアウトローズはオンタリオ州内に13の支部を擁しています (*5)。
2017年時点トロント市のバイカーギャングはストリートギャングと協同していました(*1)。バイカーギャング側は違法薬物の小売等をストリートギャング側に任せていました(*1)。バイカーギャングの狙いとしては、ストリートギャングの「活用」によって、警察組織の監視が分散され、バイカーギャングに対する監視が弱まることがありました(*1)。違法薬物使用者(消費者)と接点の多い「流通の川下(小売)」は取り締まられやすいです。つまりバイカーギャングは「検挙リスクの高い業務」をストリートギャングに委託している格好です。
2017年時点トロント市のストリートギャングには「民族系」と「非民族系」がありました(*1)。民族系のストリートギャングとしてはイラン系、アフガニスタン系、ジャマイカ系等がありました(*1)。非民族系のストリートギャングとしては、ディクソン・シティ・ブラッド(Dixon City Bloods)などがありました(*1)。
<引用・参考文献>
*1 Anna Sergi.(2017). Tale of two cities: Serious & Organised Crime Criminal groups compete in eastern Canada. Jane’s Intelligence Review, July, p42-43
*2 ヘルズ・エンジェルスのサイト「カナダのオンタリオ州」
https://hells-angels.com/area/ontario/
*3『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton),p321-322
*4『世界大麻経済戦争』(矢部武、2021年、集英社新書),p4
*5 アウトローズのサイト「支部」
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