違法薬物の推定使用量の調べ方(廃水薬物検査)

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 日本で違法薬物の推定使用(消費)量を調べる際、「押収量」が1つの判断材料となっています。警察庁の「令和4年における 組織犯罪の情勢」には、「薬物種類別押収量の推移」が記載されており(*1)、その押収量から各違法薬物の大まかな流通量及び使用量を推定できます。押収量から推定する方法の欠点としては、捜査機関の能力次第で押収量が変動することが挙げられます。また密売組織側の能力によっても、押収量は変動するでしょう。一方、海外のオーストラリアやニュージーランドでは「廃水(Wastewater)薬物検査」が実施されています(*2) (*3)。

 オーストラリアでは各違法薬物の推定使用量を調査する為、全国規模で廃水(下水)検査が実施されています(*2)。使用者は排尿等で薬物を排出するので、「廃水からの検出」によって大まかな使用量が推定されるという考えの下、廃水検査は行われています(*2)。排水薬物検査のメリットは、捜査機関や密売組織の能力に左右されずに、推定使用量を把握できることです。

 家庭や建物等からの廃水は、最終的に廃水処理施設に行き着きます(*2)。よって廃水処理施設にて、一定期間内(よくあるのが「24時間以内」)での検出作業が行われます(*2)。検出作業ではまず「各薬物の平均代謝産物濃度」が測定されます(*2)。

 次に「各薬物の平均代謝産物濃度」×「廃水施設に流入した廃水総量」の計算処理で、「各薬物の代謝産物全体排出量」を算出します(*2)。さらに「各薬物の代謝産物全体排出量」÷「該当の集水域人口(単位:千人)」の計算処理で、「該当集水地域における千人当たりの各薬物代謝産物排出量」を算出します(*2)。

 「該当集水地域における千人当たりの各薬物代謝産物排出量」から処理を加えて、最終的に、該当集水地域における「千人当たりの各薬物の推定使用量」と「千人当たりの各薬物の推定使用回数」が算出されています(*2)。

 検出拠点となる廃水処理施設ですが、2022年8月の検査では、計58施設が参加しました(*4)。58施設のうち、主要都市部(capital cities)の廃水処理施設数は22、地方部(regional areas)は36でした(*4)。州別及び地域別で見ると、クイーンズランド州は11施設、ニューサウスウェールズ州は12施設、首都特別地域(ACT)は1施設、ビクトリア州は11施設、タスマニア州は5施設、南オーストラリア州は9施設、西オーストラリア州は7施設、北部準州は2施設が参加していました(*4)。

 各州(地域)における「各薬物の推定使用量」は、「主要都市部」と「地方部」に分けて、算出されています(*5)。該当州(地域)における参加施設の「千人当たりの各薬物の推定使用量」の平均(人口加重平均)が、各州(地域)における「各薬物の推定使用量」(正確に言えば「1日における千人当たりの各薬物の推定使用量」)になります(*5)。

 2022年8月実施の廃水検査では、ニューサウスウェールズ州の「1日における千人当たりのメタンフェタミンの推定使用量」は主要都市部と地方部ともに900mg(0.9g)ぐらいでした(*6)。同時期ビクトリア州の「1日における千人当たりのメタンフェタミンの推定使用量」は主要都市部と地方部ともに1,200mg(1.2g)ぐらいでした(*6)。

*推定使用量はバブルチャートで表記されている為、筆者(鯉登太郎)の目視で推定量を決定しました。

  以上から20022年8月のビクトリア州では、ニューサウスウェールズ州に比べて、メタンフェタミンの供給量が多かった、または需要が高かったこと等が推測されます。

 また同時期のコカインの場合、ニューサウスウェールズ州の「1日における千人当たりのコカインの推定使用量」は主要都市部で330mg(0.33g)ぐらい、地方部で130mg(0.13g)ぐらいでした(*6)。同時期ビクトリア州の「1日における千人当たりのコカインの推定使用量」は主要都市部で260mg(0.26g)ぐらい、地方部で66mg(0.066g)ぐらいでした(*6)。

*推定使用量はバブルチャートで表記されている為、筆者(鯉登太郎)の目視で推定量を決定しました。

 以上から20022年8月の両州とも主要都市部では、地方部に比べて、コカインの供給量が多かった、または需要が高かったこと等が推測されます。 ニュージーランドでも廃水薬物検査が2018年11月から全国規模で毎月実施されています(*3)。

<引用・参考文献>

*1 警察庁「令和4年における 組織犯罪の情勢」,p49

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/R04sotaijousei/R4jousei.pdf

*2 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「全国廃水薬物モニタリングプログラム第18報」(2023),p23

https://www.acic.gov.au/sites/default/files/2023-03/NWDMP%20Report%2018_1.PDF

*3 ニュージーランド警察サイト

「ニュージーランド 廃水薬物検査・全国の概要-2022年第3四半期調査結果」(英語表記:Wastewater Drug Testing in New Zealand: National Overview Quarter Three:  2022)

https://www.police.govt.nz/sites/default/files/publications/wastewater-results-quarter-3-2022.pdf

*4 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「全国廃水薬物モニタリングプログラム第18報」(2023),p24-25

*5 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「全国廃水薬物モニタリングプログラム第18報」(2023),p29

*6 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「全国廃水薬物モニタリングプログラム第18報」(2023),p36

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