ニュージーランドでは「トライブスメン」(Tribesmen)というバイカーギャングが活動していました(*1)。トライブスメンは南オークランドのオタラを本拠地としていました(*1)。
またトライブスメンの「サポート部隊」として、2000年代から「キラー・ビーズ」(Killer Beez)というストリートギャングがオタラで活動していました (*1)。結成当初のキラー・ビーズは、トライブスメンに従属していました(*1)。実際トライブスメンの構成員らが「キラー・ビーズの創立メンバー」となっていました(*1)。
トライブスメンに限らず、2000年代半ば大手アウトロー組織は新興ストリートギャングと関係を持っていきました(*1)。ストリートギャングの「マングレル・モブ」(Mongrel Mob)(*2)は「レッド・アーミー」(Red Army)、ストリートギャングの「ブラック・パワー」(Black Power)(*2)は「ジュブナイル・クリップ・ボーイズ」(Juvenile Crip Boys)、ハイブリッド型組織(バイカーギャング+ストリートギャング)の「ヘッド・ハンターズ」(Head Hunters) (*3)は「ドープ・マネー・セックス」(Dope Money Sex)という新興ストリートギャングとそれぞれ提携していました(*1)。しかしキラー・ビーズを除き、数年以内に新興ストリートギャングは消えていきました(*1)。
キラー・ビーズのトップに就いたのがジョシュア・マスターズ(Joshua Masters)でした(*1)。ジョシュア・マスターズは1978年生まれで、トライブスメンの構成員を経た後に、キラー・ビーズのトップになりました(*1)。
ジョシュア・マスターズは「グラビティ」(Gravity)という名のラッパーとして、音楽活動もしていました(*1)。2007年2月ジョシュア・マスターズは音楽レーベル「カラーウェイ・レコード」(Colourway Records)を設立、地方ミュージシャンのプロモーション、コンサート開催、CDや衣服販売等のビジネスを展開していました(*1)。
2008年5月ジョシュア・マスターズは、キラー・ビーズ及びトライブスメンのメンバーら43人とともに、逮捕されました(*4)。2012年8月、裁判所はジョシュア・マスターズに懲役10年5カ月の有罪判決を下しました(*5)。実際の刑期期間は5年9カ月となりました(*5)。ジョシュア・マスターズは2018年10月に出所しました(*6)。
ジョシュア・マスターズはパーレモ刑務所で服役していました(*6)。ジョシュア・マスターズは服役中に、リクルーティングを熱心に行い、キラー・ビーズの勢力を拡張させていきました(*6)。ニュージーランドでは、セキュリティリスクや法廷審問等に応じて、受刑者の刑務所移動がありました(*6)。受刑者の刑務所移動によって、パーレモ刑務所以外の刑務所でもキラー・ビーズの影響力は強まっていきました(*6)。
結果キラー・ビーズは2015年までにニュージーランドで4番目に大きい「刑務所ギャング」に成長していきました(*6)。当時の刑務所にはキラー・ビーズの構成員167人が服役していました (*6)。ちなみにマングレル・モブは684人、ブラック・パワーは522人の構成員が刑務所内で服役していました(*6)。
刑務所外でもキラー・ビーズは勢力を拡張させていました。2018年10月までにキラー・ビーズの構成員数は312人までに増えていました(*7)。当時キラー・ビーズはアウトロー組織として、ニュージーランドで四番目の勢力となっていました(*7)。キラー・ビーズより上位だったのは、ヘッド・ハンターズ、ブラック・パワー、マングレル・モブの3つでした(*7)。
つまりジョシュア・マスターズがパーレモ刑務所を出た当時(2018年)、キラー・ビーズの勢力がトライブスメンを上回っていたのでした。被支配側のキラー・ビーズが、支配側のトライブスメンを勢力で上回ったこともあり、両者の関係は悪化していきました(*6)。
<引用・参考文献>
*1 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』(Jared Savage,2020, HarperCollinsPublishers), p207-209
*2 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2013,Auckland University Press), p37
*3 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p248
*4 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』, p212
*5 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』, p214
*6 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』, p215-218
*7 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』, p221
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