ブリティッシュコロンビア州のヘルズ・エンジェルスとマリファナビジネス

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 アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)は1977年カナダに進出しました(*1)。カナダにおけるヘルズ・エンジェルス初の支部は、ケベック州モントリオール郊外のソレルに設けられました(*1)。ケベック州はカナダ東部に位置しています。

 一方、カナダ最西部のブリティッシュコロンビア州にも1984年までにヘルズ・エンジェルスは4支部を設けました(*1)。ブリティッシュコロンビア州は太平洋に面しています。ヘルズ・エンジェルスは1948年、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンバーナーディーノで結成されました(*2)。カリフォルニア州も太平洋に面しています。カリフォルニア州から太平洋に沿って北上すると、オレゴン州(アメリカ合衆国)→ワシントン州(アメリカ合衆国)→ブリティッシュコロンビア州(カナダ)の順に着きます。カリフォルニア州→オレゴン州→ワシントン州の3州は、州間高速道路5号線が縦貫しています。

 ヘルズ・エンジェルスのブリティッシュコロンビア州勢には、世界で最も裕福なバイカーという評判がありました(*3)。ヘルズ・エンジェルスのブリティッシュコロンビア州勢の主な収益源は、カナダ産マリファナ(乾燥大麻)の密輸でした(*4)。

 しかしブリティッシュコロンビア州のマリファナビジネスでは新興のベトナム系ギャングが台頭し、ヘルズ・エンジェルスの対抗勢力となりました(*3)。

 カナダにおいてヘルズ・エンジェルスは、マリファナを仕入れ、市場に運ぶという「ブローカー」(仲買人)の役割を果たしていました(*4)。ヘルズ・エンジェルスはマリファナを市場に送る際、しばしばインド系カナダ人ギャングにトラック輸送を担わせていました(*4)。またカナダにおいてヘルズ・エンジェルスは主にベトナム系ギャングからマリファナを仕入れていました(*4)。ベトナム系ギャングはマリファナ栽培に長けていました(*4)。カナダにおいては、ベトナム系ギャングがマリファナの「生産」、ヘルズ・エンジェルスが「流通」を担うという役割分担があったと考えられます。

 もしかしたらカナダの中でもブリティッシュコロンビア州は例外で、ベトナム系ギャングが「流通」に侵食していったことで、「ヘルズ・エンジェルスの対抗勢力」になっていったのかもしれません。

 カナダは2018年10月に嗜好用大麻を連邦法で合法化した為(*5)、2018年以前のカナダではマリファナは「違法薬物」でした。医療用大麻に関しては、カナダは2001年に連邦法で合法化していました(*5)。

 アメリカ合衆国では2012年コロラド州とワシントン州が初めて嗜好用大麻を合法化しました(*6)。ちなみにカリフォルニア州は1996年医療大麻を合法化、2016年に嗜好用大麻を合法化(施行は2018年)しました(*7)。2012年以前のコロラド州とワシントン州ではマリファナは「違法薬物」であり、2018年以前のカリフォル州もマリファナは「違法薬物」だったのです。

 2004年捜査機関はブリティッシュコロンビア州(カナダ)-ワシントン州(アメリカ合衆国)の国境において20,500ポンド(1ポンド=約0.45kg)のマリファナを押収しました(*8)。「20,500ポンド」をkgに直すと「約9,225kg」になります。2004年押収量の20,500ポンドは、1998年時押収量の5倍以上でした(*8)。カナダ産マリファナブランドの1つである「ビー・シー・バド」(B.C.Bud)は効能が強く、また人気がありました(*8)。別のカナダ産マリファナブランドとしては「ケベック・ゴールド」(Quebec Gold)がありました(*4)。

 長年カナダのマリファナ栽培家は丁寧に栽培し、また効能のあるマリファナを育てる為に遺伝子操作を行ってきました(*4)。遺伝子操作によりカナダ産マリファナは、1960年代のマリファナに比し、10~15倍の効能を有しました (*4)。

 2000年代「ビー・シー・バド」「ケベック・ゴールド」においては生産量の半分がアメリカ合衆国に密輸されました(*4)。カナダ産マリファナは、2000年代アメリカ合衆国の卸売市場(違法領域)において、1ポンド2,000~5,000米ドルで取引されていました(*4)。1ポンド2,000~5,000米ドルというカナダ産マリファナの価格は、メキシコ産マリファナ価格の2~3倍でした (*4)。当時カナダ産マリファナの需要が高かったことが分かります。

 ニューヨーク市のアルバニア系組織は2000年代、カナダからマリファナを調達していました(*9)。一方アルバニア系組織は同時期、ニューヨーク市内で「大麻工場」を設け、違法栽培も行っていました(*9)。ニューヨーク市のあるニューヨーク州は2021年に嗜好用大麻を合法化しました(*10)。

 違法薬物ビジネスにおける「マリファナの短所」としては、鮮度の短さがあります(*11)。マリファナは7~10日間で鮮度が低下していくといわれています(*11)。

 アメリカ合衆国のCFAHサイト「2023年 大麻(CANNABIS)グローバル・プライス・インデックス」(CFAHは「大麻の価格」を比較する目的で世界140都市を選び調査しました)によれば、近年バンクーバー(ブリティッシュコロンビア州)の大麻価格(1g)は6.3米ドルでした(*12)。またバンクーバーにおいて大麻の年間消費量は7.9トンでした(*12)。1トンは1,000kgです。

 バンクーバーはカナダ-アメリカ合衆国の国境に近いです。国境の先にはシアトル(ワシントン州)があります。先述したようにシアトルのワシントン州は2012年から嗜好用大麻を合法化しました。近年シアトルの大麻価格(1g)は18.2米ドルでした(*12)。またシアトルにおいて大麻の年間消費量は4.6トンでした(*12)。バンクーバーとシアトルの距離は近いのですが、バンクーバーでは大麻価格が6.3米ドルである一方、シアトルでは18.2米ドルであり、両都市には約3倍の価格差があることが分かります。

 CFAHはPrice Of Weed(https://www.priceofweed.com/)とUNODC(「世界薬物レポート2022」)の情報に基づき「大麻価格(1g)」を、WHOの情報に基づき「年間消費量」を算出しました(*12)。

 カナダの他の主要都市も見てみましょう。ケベック州モントリオールでは、大麻価格は5.9米ドルで、年間消費量は11トンでした(*12)。またオンタリオ州トロントでは、大麻価格は7.3ドル、年間消費量は16.7トンでした(*12)。

 「2023年 大麻(CANNABIS)グローバル・プライス・インデックス」において140都市中、最も低かった価格(大麻1g)が、先述のモントリオールの5.9米ドルでした(*12)。2番目に低かったのがベンガルール(インド)の6.0米ドル、3番目がノートルダム(カナダ)の6.2米ドルでした(*12)。ベンガルールの大麻年間消費量は不明、ノートルダムは2.6トンでした(*12)。ジョイント1本分のマリファナ使用量は約0.5gです(*13)。

 逆に140都市中で最も高かった価格が、東京(日本)の33.8米ドルでした(*12)。2番目に高かったのがダブリン(アイルランド)の22.5米ドルで、3番目がタリン(エストニア)の22.1米ドルでした(*12)。東京の大麻年間消費量は16.7トン、ダブリンは7.1トン、タリンは5.4トンでした(*12)。日本において乾燥大麻1gの末端価格は平均5,000円といわれています(*13)。米ドルと円の為替相場が1米ドル=140円とすると、東京の33.8米ドルは日本円に直すと「4,732円」となります。

 もし為替相場が円高になり1米ドル=120円になったら、4,732円(東京の大麻1g価格)は「約39.4米ドル」になります。逆に円安になり1米ドル=160円になったら、「約29.6米ドル」になります。さらに円安が進み1米ドル=200円になれば、「約23.7 米ドル」になります。

 ちなみに「2023年 大麻(CANNABIS)グローバル・プライス・インデックス」における年間消費量のトップはニューヨーク(アメリカ合衆国)の62.3トンでした(*12)。2番目がシドニー(オーストラリア)の45.8トン、3番目がロサンゼルスの35.0トンでした(*12)。

<引用・参考文献>

*1 『Encyclopedia of Gangs』「HELL’S ANGELS IN CANADA」(Angelo Kontos,2008,Greenwood Press),p127

*2 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin),p24

*3 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada), p165

*4 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p306-307

*5 『世界大麻経済戦争』(矢部武、2021年、集英社新書), p126

*6 『週刊エコノミスト』2020年12月1日号「ニューヨーク 大麻合法化へ前進?」(橋本孝),p90

*7 『世界大麻経済戦争』, p74-75

*8 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p305

*9 『Decoding Albanian Organized Crime Culture,Politics,and Globalization』(Jana Arsovska,2015, University of California Press), p103-104

*10 『週刊エコノミスト』2021年5月18日号「ニューヨーク 嗜好用大麻を合法化」(津山恵子),p86

*11 『塀の中の元極道 YouTuberが明かす ヤクザの裏知識』(懲役太郎、2020年、宝島社),p99-100

*12  CFAHサイト「2023年 大麻(CANNABIS)グローバル・プライス・インデックス」

https://cfah.org/cannabis-price-index/

*13 『スマホで薬物を買う子どもたち』(瀬戸晴海、2022年、新潮新書), p227

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