南米アルゼンチンの大都市ロサリオ(サンタフェ州)ではアウトロー組織「モノス」(Monos)が活動してきました(*1)。カンテロ・ファミリー(Cantero family)がモノスを率いてきました(*1)。
図 アルゼンチンのロサリオの地図(出典:Googleマップ)
アリエル・カンテロ(Ariel Cantero)を中心とするカンテロ・ファミリーは1990年代後半、隣国パラグアイからのマリファナ密輸において、ロサリオ周縁地域の警備業務を担っていました(*1)。アリエル・カンテロは別名「エル・ビエホ」(El Viejo)とも呼ばれていました(*1)。
違法薬物ビジネスの世界においてロサリオは、密輸経路(パラグアイ及びボリビア→アルゼンチン)の「中継地点」でした(*1)。主要な密輸経路としては34号線(ボリビアと接する国境地域→ロサリオ)がありました(*1)。
モノスはロサリオに加えて、パラグアイまたはボリビアと接する国境地域を重要視していました(*1)。モノスはそこからマリファナとコカインを仕入れていたからです(*1)。
2004年初めからモノスは、ロサリオにおいて違法薬物の小売ビジネスを手掛けていきました(*1)。モノスは「小さいレンガ造りの建物」を販売拠点としました(*1)。この販売拠点(小さいレンガ造りの建物)は「バンカー」(bunkers)と呼ばれました(*1)。
バンカーでは窓越しでコカインが受け渡されていました (*1)。主に子どもたちがバンカーから客にコカインを渡していました (*1)。その業務を担う子どもたちは「ソルダディトス」(soldaditos:小さな兵士)と呼ばれていました(*1)。モノスはロサリオ周縁地域の子どもたちを「ソルダディトス」にしていました(*1)。
モノスはサンタフェ州において資金洗浄もしていました(*2)。またモノスは汚職役人と手を組み、違法カジノを運営していました(*2)。新型コロナウイルス感染症の流行以降、違法カジノの数は増えていました(*2)。
モノスは恐喝ビジネスもしていました。モノスは闇市場の通貨ディーラー(両替商)、タクシー運転手、労働組合を恐喝していました(*2) (*3)。闇市場の通貨ディーラーは別名「ブルードル」(blue dollar)と呼ばれていました(*2)。
アルゼンチン経済は、激しい物価上昇(インフレーション)で有名です。物価上昇は、自国通貨の価値を下げます。アルゼンチンの通貨はペソです。ゆえにモノスは自国通貨ペソでは徴収しないといわれていました(*3)。
2023年10月アルゼンチンの消費者物価指数は前年同月比142.7%でした(*4)。消費者物価指数において前年同月比142.7%とは、前年同月より「2.427倍の物価上昇」を意味します。例えば2022年10月「100ペソ」で販売されていた商品が、2023年10月には「242.7ペソ」で販売されているような状況です。
アルゼンチンでは米国ドルの需要は高かったです(*3)。闇市場の通貨ディーラーの業務は、「ペソ」と「ドルもしくはユーロ」の交換でした(*3)。違法の両替所は通称「洞窟」(cuevas)と呼ばれていました(*3)。
闇市場での両替は違法でした(*3)。ゆえに闇市場の通貨ディーラーは、アウトロー組織につけ込まれても、警察組織に頼ることができなかったのです。
2020年5月時点、闇市場におけるドルとペソの為替レート(交換比率)は1ドル=138ペソで、一方で公式市場の為替レートは1ドル=70ペソでした(*3)。同じ1ドルの入手においても、公式市場では70ペソで交換する一方、闇市場では138ペソで交換しなければならなかったのです。
2023年11月30日では闇市場の為替レートは、1ドル=860ペソ前後でした(*4)。
2013年以降、アリエル・マキシモ・カンテロ(Ariel Máximo Cantero)がモノスのトップに就きました(*1)。アリエル・マキシモ・カンテロは別名「ギール」(Guille)と呼ばれていました(*1)。アリエル・マキシモ・カンテロは、先述のアリエル・カンテロ(別名:エル・ビエホ)の子どもでした(*1)。
モノスは、ロサリオのサッカー系ギャングのトップとも関係を築いていました(*1)。ちなみにアルゼンチンではサッカー系ギャングは「バーラ・ブラバ」(barras bravas)と呼ばれました(*1)。
バーラ・ブラバは表向き「過激派サポーター集団」として活動しています(*5)。アルゼンチンにおいてバーラ・ブラバは、スタジアム周辺の駐車場(公共スペース)の管理、チケット転売に関する「利権」を持っていました(*6)。
アルゼンチンのサッカークラブは非営利団体であった為、会員がトップ職の会長を選挙で選んできました(*6)。サポーター集団は「動員力」を持っています。ゆえにクラブ会長選時、サポーター集団は「集票組織」として機能したと考えられます。会長立候補者はサポーター集団をないがしろにできなかったと考えられます。
<引用・参考文献>
*1 InSight Crimeサイト「Monos」(InSight Crime,2022年4月28日)
https://insightcrime.org/argentina-organized-crime-news/los-monos/
*2 InSight Crimeサイト「Los Monos Defending Their Territory in Rosario, Argentina」(Alicia Florez,2020年11月20日)
https://insightcrime.org/news/brief/los-monos-defending-rosario-argentina/
*3 InSight Crimeサイト「Argentina Drug Gang Extorts ‘Blue Dollar’ Sellers」(Anastasia Austin,2020年7月7日)
https://insightcrime.org/news/brief/argentina-gang-extorts-black-market/
*4『日経ヴェリタス』2023年12月3日号「アルゼンチン次期大統領 小さな政府で苦境打開」(宮本英威)
*5『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』(ジェームス・モンタギュー著、田邊雅之訳、2021年、カンゼン),p74-75
*6 InSight Crimeサイト「Why Can’t Argentina Control Its ‘Barras Bravas’?」(Josefina Salomon,2018年12月7日)
https://insightcrime.org/news/analysis/why-cant-argentina-control-barras-bravas/
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