レバノンの武装組織「ヒズボラ」(Hezbollah)は、南米ベネズエラのマドゥロ政権(ニコラス・マドゥロ大統領)を支持していました(*1)。
ヒズボラは1982年に結成されました(*2)。ヒズボラは元々「九名委員会」と呼ばれていました(*3)。九名委員会は「レバノン・イスラーム・ダアワ党」「イスラーム・アマル運動」「レバノン・ムスリム・ウラマー連合」の3グループから構成されていました(*3)。
ヒズボラは結成直後から、イラン革命政府の支援を受けていました(*3)。イランでは1979年革命が起き、イランは王政体制からイスラームの神権政治体制に移行しました (*4)。ヒズボラは武装組織であり、シーア派イスラーム主義組織でもあったのです(*3)。
1992年ヒズボラはレバノンの第14期国民議会選挙に「政党」として参加、議席を得ました(*5)。ヒズボラは多面的な顔を持つ組織といえます。
元々ヒズボラはラテンアメリカにおいて特にベネズエラを重要視してきました (*6)。ベネズエラが「反米」の外交姿勢をとっており、またイランと関係を持っていました(*6)。近年イランはベネズエラに対する原油輸出量を増やしていました(*7)。2019年1月からアメリカ合衆国政府はベネズエラに対し、石油貿易に関する制裁を実施していました(*8)。ヒズボラにとってベネズエラは関係を結びやすい相手だったのです。
ヒズボラはベネズエラを「資金獲得」の場ともしていました(*6)。アメリカ合衆国財務省は2008年6月、ヒズボラの為の資金獲得活動、誘拐やテロ活動についてヒズボラ幹部と話し合ったとして、ベネズエラ人2名を「国際特別テロリスト」(Specially Designated Global Terrorists)に指定しました(*6)。
ヒズボラはブラジル、アルゼンチン、パラグアイの3国国境地帯に拠点を置いていました(*6)。3国国境地帯においてヒズボラは資金洗浄、違法薬物ビジネス、武器の密輸等の資金獲得活動をしていました(*6)。またヒズボラはラテンアメリカの麻薬組織と手を結んでいました(*9)。
またヒズボラとイランの「イスラーム革命防衛隊」(Islamic Revolutionary Guard Corps)は、ラテンアメリカにおいてユダヤ人ビジネスマンの誘拐を共同していたといわれています(*6)。ちなみにイスラーム革命防衛隊の中には、外国で活動する部隊として「ゴドゥス部隊」がありました(*4)。ゴドゥス部隊はレバノン、イラク、イエメンなどの近隣諸国では、イランに近い民兵組織をサポートしてきました(*4)。
ヒズボラはイランとシリアからロケット兵器等の武器を受け取ってきました(*10)。
<引用・参考文献>
*1 InSight Crimeサイト「Hezbollah’s Backing of Maduro May Shine Light on Links With Venezuela」(Venezuela Investigative Unit,2019年1月29日)
*2 ADL(Anti-Defamation League)のサイト「Hezbollah」(2013年),p1
*3 『イスラーム主義と中東政治 ~レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』(末近浩太、2013年、名古屋大学出版会), p47
*4 『週刊金曜日』2022年12月9日号「特集イラン アミーニーさんの死をめぐる抗議運動と「ハーメネイー師体制」の限界」(ケイワン・アブドリ),p16-23
*5 『イスラーム主義と中東政治 ~レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』, p129-132
*6 ADL(Anti-Defamation League)のサイト「Hezbollah」(2013年),p9
*7 InSight Crimeサイト「Inside the Evaporating Black Market for Gasoline in Zulia, Venezuela」(Venezuela Investigative Unit,2023年4月12日)
https://insightcrime.org/news/inside-evaporating-black-market-gasoline-zulia-venezuela/
*8 『ベネズエラ ― 溶解する民主主義、破綻する経済』(坂口安紀、2021年、中公選書),p182
*9 ADL(Anti-Defamation League)のサイト「Hezbollah」(2013年),p10
*10 『イスラーム主義と中東政治 ~レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』, p276
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