近年の在日ベトナム人コミュニティの間では「日本→ベトナム」の送金経路において地下銀行が活動していました(*1)。在日ベトナム人には、ベトナムの家族等への送金需要がありました(*1)。
在日ベトナム人の利用者Aは、地下銀行に「送金額分のお金」を日本円で払い、ベトナムにいる受取人Bの口座に送金するよう依頼しました(*1)。地下銀行は「自身の持つベトナムの口座」から「受取人Bの口座」に、送金額分をドン(ベトナムの通貨)で振込みました(*1)。
地下銀行の営業行為は銀行法違反 (*1)、外為法違反(*2)に該当しました。
この地下銀行の方法では、送金は実際なされておらず、通貨交換もされていないことが分かります。「地下銀行のネットワーク内の処理」だけで、送金がなされていたのです。
在日ベトナム人は日本において銀行口座を持ちました(*3)。帰国時、その口座はしばしば転売されました(*3)。ちなみに「口座の転売市場」では、メガバンクやゆうちょ銀行の口座に高い需要がありました(*3)。メガバンクやゆうちょ銀行の口座では、多額の送金があっても、目につきにくかったからです(*3)。
UAE(アラブ首長国連邦)では「ハワーラ」(英語表記:Hawala)と呼ばれた非公式送金手段が盛んでした(*4)。UAEの外国人労働者においても、母国への送金需要がありました(*4)。ハワーラは、銀行での送金に比し、手数料が安く、送金先にお金が届くまでの時間が短く、身分証明は必要なく、また為替レートも良いというメリットがありました(*4)。
利用者(送金希望者)はハワーラ業者(業者A)に「送金業務」を委託しました(*4)。具体的には利用者はハワーラ業者(業者A)に「送金額(5,000ドル)+手数料」を払いました(*4)。
次にハワーラ業者(業者A)は、送金先国のハワーラ業者(業者B)に5,000ドルを送金しました(*4)。最後に送金先国のハワーラ業者(業者B)は、受取人に5,000ドルを払いました(*4)。
ハワーラ業者間で資金が直接送金されることは少なく、債権・債務の相殺で処理されることが多かったです(*4)。ハワーラは「ハワーラ業者間のネットワーク」によって成立していたことが分かります。
中国でも「海外→中国」の送金経路において地下銀行が活動していました(*5)。不正就労や犯罪による収益の送金において、地下銀行が用いられました(*5)。海外に移住した中国人(華僑)にも、母国への送金需要がありました(*5)。合法領域の華僑送金は「僑匯」と呼ばれました(*5)。
逆に「中国→海外」の送金経路では「地下銭荘」という闇金融が機能していました(*6)。闇金融側は、海外のダミー企業名義で中国国内に「非居住者口座」を作り、そこから海外に資金を流していました(*6)。
「日本→中国」の不正送金方法の1つとしては、「日本支社からの利益送金」の形をとるものがありました(*7)。不正送金をする者らは、まず中国で会社を作り、その「支社」を日本に置きました(*7)。日本支社側は架空の販売で「利益」を捏造し、その「利益」を中国の本社に送金したのでした(*7)。送金の原資は、違法領域で獲得した資金でした(*7)。
<引用・参考文献>
*1 『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(安田峰俊、2023年、文藝春秋), p266-268
*2『別冊宝島Real 037号 現代ヤクザのシノギ方』(夏原武編著、2002年、宝島社),p213
*3 『FACTA』2020年10月号「コロナ禍「偽造口座」の被害総額が数百億円に!」
*4 『エリア・スタディーズ 89 アラブ首長国連邦(UAE)を知るための60章』「国際送金 懸念される犯罪・テロへの流用」(上山一、2011年、明石書店),p207-210
*5 『エリア・スタディーズ196 華僑・華人を知るための52章』「華僑送金 信局から銀行へ」(山下清海、2023年、明石書店),p163-166
*6 『週刊エコノミスト』2016年1月5日号「中国視窓 はびこる巨額の闇金融 120都市に3350拠点」(北村豊)
*7 『別冊宝島Real 037号 現代ヤクザのシノギ方』,p208
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