アフガニスタンでは2021年8月、イスラム主義勢力のターリバーンが首都カブールを制圧、再び政権の座につきました(*1)。ターリバーンは1996年から2001年まで政権の座についていました(*1)。
図 アフガニスタンの地図(出典:Googleマップ)
2022年4月3日ターリバーン政権は、「ケシ栽培禁止」及び「麻薬禁止」の政令を発布しました(*2)。「麻薬禁止」の政令では麻薬の使用、輸送、製造、取引、輸出、輸入の行為が禁止されました(*2)。
禁止政策の影響は大きく、2022年アフガニスタンのアヘン生産量は6,200トンでしたが、2023年は333トンまで激減しました(*3)。
アフガニスタンにおいてアヘン価格は供給量によって上下する傾向があります(*4)。原料のケシが豊作であれば、供給量は増加し、アヘン価格は下がります。一方ケシが不作であれば、供給量は減少し、アヘン価格は上がります。
アフガニスタンのアヘン生産量は、2009年時6,900トンでしたが、2010年時はケシの不作により3,600トンに減少しました(*5)。価格面では2009年時アフガニスタン産の生アヘン(fresh opium)の価格は1kgあたり48米ドルで、2010年時は1kgあたり128米ドルでした(*5)。供給量の減少により、価格が上昇したことが分かります。
また「ケシ栽培禁止」の政令発布(2022年4月)後においても、アヘン価格は高騰しました(*4)。
2023年8月時点でアフガニスタン産アヘンの価格は、1kgあたり408米ドルでした(*4)。この408米ドルは「20年来で最も高い価格」といわれています(*4)。
海外の業者にとって、この408米ドルは「仕入れ価格」になります。海外の業者にとってすれば、仕入れ価格の上昇は、「負担の増加」を意味します。
2023年アフガニスタン産輸出用ヘロインの純度は50~70%でした(*3)。2009年頃アフガニスタン産輸出用ヘロインの純度も70%と見積もられていましたが、小売(末端)市場において純度は5~15%になっていました(*6)。流通の過程で介在者が「ヘロインの量」を増やす為、他の化学物質を入れたからです(*6)。
時代を遡って、2016年アメリカ合衆国のヘロイン末端市場の状況を見てみましょう。
アメリカ合衆国麻薬取締局(Drug Enforcement Administration)は2016年「ヘロイン国内監視プログラム」(Heroin Domestic Monitor Program)を通じて、国内27都市における末端市場で密売されているヘロインを入手(購入)し、「価格」「純度」「混ぜ物」等を調査しました(*7)。結果、このプログラムにおいて、購入総数667点のヘロインが購入されました(*7)。分析の結果、667点のうち543点のヘロインが「メキシコ産系」であると判別されました(*7)。全体の約81.4%がメキシコ産系だったのです。メキシコ産系543点のうち、278点のヘロインは「メキシコ産+南米産の混合」でした(*7)。
購入総数667点のうち4点のヘロインが「西南アジア産」(アフガニスタン産も含まれる)であると判別されました(*7)。つまり全体の約0.6%が西南アジア産だったのです。
2016年ヘロイン国内監視プログラムの調査だけから見ると、2016年時のアメリカ合衆国において、メキシコ産系に比し、アフガニスタン産ヘロインの流通量は少なかったと考えられます。
西南アジア産4点のうち、1点はフロリダ州マイアミで購入され(*8)、3点はワシントンD.C.で購入されました(*9)。マイアミの西南アジア産ヘロイン(1点)の純度は44%で、価格は0.57ドル(純度0.001グラムあたり)でした(*8)。ワシントンD.C.の西南アジア産ヘロイン(3点)の平均純度は12.1%で、平均価格は10.9ドル(純度0.001グラムあたり)でした(*9)。
ちなみに2019年アメリカ合衆国のヘロイン小売市場で流通したメキシコ産ヘロインには、ホワイト・パウダー・ヘロイン(white powder heroin)とブラック・タール・ヘロイン(black 1tar heroin)がありました(*10)。2019年アメリカ合衆国の小売市場におけるホワイト・パウダー・ヘロインの純度は47%(平均)、ブラック・タール・ヘロインの純度は45%(平均)でした(*10)。
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<引用・参考文献>
*1『ニューズウィーク 日本版』2021年9月7日号「「恐怖政権」タリバンとは何者か」(貫洞欣寛),p18-22
*2 「Afghanistan opium survey 2023」(United Nations Office on Drugs and Crime,2023),p15
https://www.unodc.org/documents/crop-monitoring/Afghanistan/Afghanistan_opium_survey_2023.pdf
*3 「Afghanistan opium survey 2023」,p3
*4 「Afghanistan opium survey 2023」,p41
*5「The Global Afghan Opium Trade:A Threat Assessment」(United Nations Office on Drugs and Crime,2011),p14
https://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/Studies/Global_Afghan_Opium_Trade_2011-web.pdf
*6「The Global Afghan Opium Trade:A Threat Assessment」,p16
*7「2016 Heroin Domestic Monitor Program」(DEA Indicator Programs Section,2018),p2
*8「2016 Heroin Domestic Monitor Program」,p13-14
*9「2016 Heroin Domestic Monitor Program」,p19-20
*10 アメリカ合衆国麻薬取締局サイト内「2020全米麻薬脅威評価(National Drug Threat Assessment)」(2021),p14
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