アルバータ州のヘルズ・エンジェルス

  • URLをコピーしました!

 カナダのアルバータ州では2000年代(厳密にいうと2005年頃まで)、アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)が精力的に活動していました(*1)。ヘルズ・エンジェルスは1977年カナダに進出しました(*2)。初めての進出先は、カナダ東部のケベック州でした(*2)。

 アルバータ州はカナダ西部に位置しています。アルバータ州の西隣にはブリティッシュコロンビア州、東隣にはサスカチュワン州、北隣にはノースウエスト準州、南隣にはアメリカ合衆国のモンタナ州があります。

 1990年代アルバータ州では「キングス・クルー」(King’s Crew)と「グリム・リーパーズ」(Grim Reapers)というバイカークラブが、州内における違法薬物及び売春ビジネスの支配を巡り、激しい抗争をしていました(*3)。当時キングス・クルーはカルガリー市(アルバータ州)を拠点とし、グリム・リーパーズはレッドディア市(アルバータ州)を拠点としていました(*3)。

 グリム・リーパーズは1958年カルガリー市で結成されました(*4)。1970~1980年代グリム・リーパーズは隆盛を極めました(*4)。

 キングス・クルーとグリム・リーパーズの抗争は数年続き、1996年グリム・リーパーズが勝利を収めました(*3)。その後、ヘルズ・エンジェルスのブリティッシュコロンビア州勢がアルバータ州に進出してきました(*3)。1984年までにヘルズ・エンジェルスはブリティッシュコロンビア州に進出、4つの支部を同州に設けていました(*2)。1997年グリム・リーパーズはヘルズ・エンジェルスの傘下に入り、ヘルズ・エンジェルスの「レッドディア支部」となりました(*3)。

 2004年頃のアルバータ州にはヘルズ・エンジェルスの支部は3つあり、約30人の構成員が活動していました(*1)。3支部の合計構成員数が約30人だったことから、1支部あたりの「平均構成員数」は、約10人になります。バイカーギャング業界では1支部につき「構成員数の上限」は大抵24人です(*5)。

 アルバータ州のヘルズ・エンジェルスには「過激派の側面」がありました。ある時ヘルズ・エンジェルスのカルガリー支部が、役所から区画整理の許可を得ないまま、クラブハウスをバンカー(bunker)に建て替えました(*1)。当然カルガリー市はヘルズ・エンジェルスの行為を認めず、バンカー取り壊しの処置で対抗しました(*1)。

 カルガリー支部の支部長・ケネス・シュチェルバ(Kenneth Szczerba)は報復として、市議会議員やコミュニティリーダーの自宅爆破を企てました(*1)。しかしケネス・シュチェルバは爆破実行前に逮捕されました(*1)。

 2004年、アルバータ州ではアジア系ギャングが台頭、またアメリカ合衆国系バイカーギャング「バンディドス」(Bandidos)がアルバータ州に進出してきました (*1)。2004年9月バンディドスはカルガリー市に支部を設けました(*6)。アルバータ州の「レベルズ」(Rebels)元構成員達もバンディドス・カルガリー支部に入りました(*6)。2000年12月バンディドスはケベック州の「ロック・マシーン」(Rock Machine)を傘下に収めており(*7) (*8)、すでにカナダには進出していたのです。

 エドモントン市(アルバータ州)のストリップクラブの外で起きた銃殺事件により、当時ヘルズ・エンジェルスとバンディドスは「抗争寸前」までの状態に陥っていました(*1)。その銃殺事件は2004年1月末に起きました(*3)。銃殺されたのはジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベル(Joey “Crazy Horse” Campbell)とロバート・シンプソン(Robert Simpson)の2人でした(*3)。ロバート・シンプソンは、ジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベルの仲間でした(*9)。

 ジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベルは、レベルズの元構成員で、レベルズがヘルズ・エンジェルスに移籍することに反対していた最後の1人でした(*10)。昔レベルズの一派がヘルズ・エンジェルスに移籍していました(*11)。

 2003年5月ジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベルはトロント(オンタリオ州)でバンディドスの準構成員(probationary)になりました(*3)。その後ジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベルは先述したバンディドス・カルガリー支部設立の為に、30人以上を集めました(*3)。ジョーイ・“クレイジー・ホース”・キャンベルは人集めに長けており、バンディドス・カルガリー支部設立の「立役者」といえました。当然ヘルズ・エンジェルスにとって、バンディドス・カルガリー支部の設立は厄介なことだったにちがいありません。

 しかし同年(2004年)内にヘルズ・エンジェルス側が、バンディドスのアルバータ州勢二十数人を自陣に移籍させたことで、アルバータ州内における両者の対立は、解消されました(*1) (*6)。ヘルズ・エンジェルスはバンディドスのアルバータ州勢に対し、移籍の見返りとして「ヘルズ・エンジェルス構成員」のポジションを約束していました(*6)。結果バンディドス・カルガリー支部は崩壊、バンディドスはアルバータ州から撤退しました(*3)。

 またアルバータ州のヘルズ・エンジェルスは「デビルズ・ヘンチメン」(Devil’s Henchmen)、「アイアン・スティード」(Iron Steed)、「レッド・デイモンズ」(Red Demons)等のサポートクラブ(Support club)を作り、自陣の勢力拡張に努めました(*1)。2005年終わり頃までには、アルバータ州ヘルズ・エンジェルス傘下のサポートクラブの総構成員数は90人以上となっていました(*1)。

<引用・参考文献>

*1 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p318-319

*2 『Encyclopedia of Gangs』「HELL’S ANGELS IN CANADA」(Angelo Kontos,2008,Greenwood Press),p127

*3 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada),p66-68

*4 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「GRIM REAPERS」(Bill Hayes,2018, Motorbooks)

*5 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin), p80-81

*6 『The Bandido Massacre』(Peter Edwards,2012,‎ HarperCollins Publishers), p153,155

*7 『The Bandido Massacre』,p62-63

*8  ロック・マシーンのサイト「Chapters」

https://www.rockmachineworld.org/chapters.html

*9 『The Bandido Massacre』,p137

*10 『The Bandido Massacre』,p139

*11 『The Bandido Massacre』,p112

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次