伝貰(チョンセ)

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 韓国では「伝貰」(チョンセ)と呼ばれる住宅賃貸制度があります(*1)。チョンセにおいて借り主は、入居時に「チョンセ金」と呼ばれる保証金を貸主に払います(*1) (*2)。チョンセ金の相場は「住宅価格の5~8割」です(*1)。

 借り主はチョンセ金を払えば、以後「毎月の家賃」を払わなくて済みます(*1)。また借り主がチョンセ物件から出て行く際には、チョンセ金(全額)が借り主に返されます(*1)。チョンセにおいて借り主は、最初に高額な保証金が必要ですが、実質的な支出はないのです。

 一方チョンセにおいて貸主は、チョンセ金を運用することで、収益を得られます(*1)。1960~1990年代の韓国では、預金金利が十数パーセントを超えることもあり、銀行預金だけで資産は増えていきました(*2)。貸主は運用収益を「家賃代わり」としたのです(*3)。

 韓国でも家賃制度があり、「月貰」(ウォルセ)と呼ばれています(*1)。ウォルセ物件の借り主は家賃を毎月払います(*2)。

 月貰の一種として「朔月貰」(サグォルセ)があります(*4)。サグォルセでは借り主は入居時に、家賃を一括で払います(*4)。

 ウォルセは月賦払い(月割り支払い)、サグォルセは一括前払いであり、家賃の支払い方法が違うのです。

 近年韓国では住宅価格が上昇しました(*3)。一方、金利は低下していた為、貸主はチョンセ金による運用収益を見込めなくなっていました(*3)。ゆえにチョンセ物件をウォルセ(家賃制度)に切り替える貸主が増えていきました(*3)。韓国では賃貸の契約内容は2年ごとに更新されます(*3)。

 その状況下で文在寅政権は2020年7月「住宅賃貸借保護法」を施行しました(*3)。住宅賃貸借保護法は、借り主に有利な内容になっていました(*3)。住宅賃貸借保護法施行後、チョンセ物件は減少していきました(*3)。

 不動産市場にチョンセ物件の数が減ったことで、チョンセ物件に希少価値がつき、チョンセ金は上昇していきました(*3)。先述したようにチョンセ金の相場は「住宅価格の5~8割」でした。つまりチョンセ金は住宅価格に連動するのです。

 またチョンセ物件は「投資先」にもなっていました(*5)。投資家がチョンセ物件を購入し、「貸主」となり、借り主に貸し出していたのです(*5)。

 また低所得者層の住宅環境も韓国では社会問題になっています。映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年製作)で描かれていたように、韓国では半地下部屋または地下部屋で居住する人々がいます(*6)。半地下部屋または地下部屋は火災や水害に弱く、望ましい住宅環境ではありません(*6)。

 日雇い労働者や貧困層の男性が暮らす場所の1つとして「チョクパン」があります(*6)。チョクパンは「未認可の簡易宿泊所」で、建物の中で狭く区切られたスペースが「部屋」となっています(*6)。「部屋」の広さは3㎡程度です(*6)。利用者は月割りもしくは日割りで家賃を払います(*6)。

<引用・参考文献>

*1 『お金で大切なことはすべて、父がメッセージアプリで教えてくれた』(チョン・ソニョン著、北野博己訳、2023年、KADOKAWA), p45-46

*2 『エリア・スタディーズ6  現代韓国を知るための61章 【第3版】』「不動産問題の構図 増幅する格差の要因」(大津健登、2024年、明石書店),p226-230

*3 『週刊エコノミスト』2021年4月6日号「高騰続く韓国マンション価格 文在寅政権の対応後手に」(金明中), p40-41

*4 『お金で大切なことはすべて、父がメッセージアプリで教えてくれた』, p217

*5 『選択』2023年3月号「韓国経済は「クラッシュ」寸前」

*6 『エリア・スタディーズ6  現代韓国を知るための61章 【第3版】』「貧困と住宅問題 住宅権保障への漸進的歩み」(株本千鶴、2024年、明石書店),p162-164

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