アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヴァゴスMC」(Vagos Motorcycle Club)は1965年、カリフォルニア州サンバーナーディーノ郡で結成されました(*1)。
ヴァゴス(以下「ヴァゴスMC」ではなく「ヴァゴス」と表記します)は1966年に結成されたという説もあります(*2)。ヴァゴスの前身は「サイコス」(Psychos)というバイカークラブでした(*3)。
サイコスは元々、テメスカル・キャニオン(ロサンゼルス郡)で活動していました(*3)。1960年代前半サイコスは、リバーサイド市(リバーサイド郡)やサンバーナーディーノ郡に進出していきました(*3)。
サイコスの構成員は増加し、後の1965年(もしくは1966年)サイコスは「ヴァゴス」に改称しました(*3)。主にヒスパニック系がヴァゴスの構成員を担ったようです(*1)。
サンバーナーディーノ郡では既に1948年「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)が結成されていました(*4)。伝えられるところによると、ヘルズ・エンジェルスは民族性の違いから、ヒスパニック系の入会を断っていたようです(*1)。以後ヴァゴスとヘルズ・エンジェルスMCは互いを敵視していきました(*5)。
ヴァゴスにとって最初の支部は、サンバーナーディーノ支部でした(*6)。次にヴァゴスは、砂漠地帯のヴィクターヴィル(サンバーナーディーノ郡西部)、ロサンゼルス郊外のモントレーパーク(ロサンゼルス郡)に支部を設けました(*6)。この時点でヴァゴスはリバーサイド市に拠点を持っていませんでした。
先述したように、ヴァゴスの前身はサイコスであり、サイコスはリバーサイド市にも進出していました。以上からサイコスのリバーサイド市勢や他地域勢はヴァゴスに参加しなかったか(つまりサイコスのサンバーナーディーノ勢のみがヴァゴスを結成した)、サイコスがリバーサイドや他地域から撤退した後に「ヴァゴス」に改称した等が考えられます。
1967年以降は、サンガブリエル(ロサンゼルス郡)にもヴァゴスの支部が作られました(*6)。
ロサンゼルスの複数の小規模クラブが、ヴァゴス側に「入会」及び「サンガブリエル支部の設立」を提案したところ、ヴァゴス側が承諾した為、サンガブリエル支部が誕生しました(*6)。
ヴァゴスはその後、カリフォルニア州外や海外にも進出し、版図を拡大していきました(*3)。またヴァゴスは別名で「グリーン・ネイション」(Green Nation)とも呼ばれました(*3)。
ヴァゴスのトップとしてはテリー・リー・オレンドルフ(Terry Lee Orendorff)が有名でした(*7)。テリー・リー・オレンドルフの通称は「トランプ」(Tramp)でした(*7)。
トランプは1947年に生まれ、カリフォルニア州エルモンテ(ロサンゼルス郡)で育ちました(*7)。義兄の“パーツ”(Parts)(*8)がヴァゴスに入った後、トランプもヴァゴスに入りました(*7)。まずトランプはヴァゴスの「ハングアラウンド」(hangaround:組織の周辺者)から始め、1971年サンガブリエル支部の正式構成員になりました(*9)。
1976年トランプはサンガブリエル支部の支部長に就き(*10)、1986年9月まで支部長職を務めました(*11)。
1986年トランプは、組織内最高位の「国際総長」(international president)に就きました(*11)。前任の国際総長はレナード・ベレラ(Leonard Berella)でした(*11)。レナード・ベレラは国際総長を3年間務めました(*11)。
1986年国際総長の交代は、ヴァゴス内における権力闘争の結果でした。1986年トランプの一派は、レナード・ベレラから主導権を奪い、レナード・ベレラをヴァゴスから追放したのです(*11)。
ヴァゴスには会費制度がありました(*7)。ヴァゴスの構成員は週単位で会費を所属支部に払っていました(*7)。トランプが正式構成員になる前(1971年以前)、ヴァゴスの会費(週単位)は1人あたり2ドルでした(*12)。構成員は1週間に2ドルを払わなければなりませんでした。
ヴァゴスの各支部は毎週、定例会を開催していました(*13)。例えばヴァゴスのへメット支部(リバーサイド郡)は、毎週水曜日の19時30分から定例会を開催していました(*14)。ヴァゴスの各支部は会費の一部を本部に送りました(*7)。
ちなみにヴァゴスでは、全国本部において月例の役員会議が開かれ、ほとんどの支部は役員会議に代表者を送っていました (*13)。またヴァゴス全国本部では毎年選挙が実施されていました(*13)。
他団体でも会費制度はありました。アメリカ合衆国系バイカーギャング「ペイガンズ」(Pagans)では、構成員は所属支部に会費を払っていました(*15)。またペイガンズの各支部も毎月、1次団体の最高意思決定機関「マザークラブ」(Mother Club)に会費を払っていました(*15)。
イギリスのバイカーギャングでは、構成員は毎月約25ポンドの会費を払っていました(*16)。またアメリカ合衆国系バイカーギャング「バンディドス」(Bandidos)でも、各支部は全国本部(national chapter)に収益の一部を払っていました(*17)。バンディドスでは、全国本部への支払い(上納金)のことを「ドネイション」(donation)と呼んでいました(*17)。
またバイカーギャング業界では一般的にサポートクラブ(Support club)は、最寄りのマザークラブ(mother club)の支部に毎月上納金を払いました(*18)。バイカーギャング業界では大手バイカーギャングは、他のバイカーギャングを支配下に置いていました(*19)。大手バイカーギャングの支配下に置かれているバイカーギャングは、サポートクラブと呼ばれていました(*19)。一方、支配下に置く大手バイカーギャングは「マザークラブ」と呼ばれていました(*18)。
ヴァゴスのサポートクラブとしては「グリーン・マシーン」(Green Machine)がありました(*20)。両者は、ヴァゴスが「マザークラブ」、グリーン・マシーンが「サポートクラブ」という関係になります。
アメリカ合衆国内ではヴァゴスはネバダ州、アリゾナ州、ハワイ州に進出しました(*3)。ネバダ州とアリゾナ州はカリフォルニア州に隣接しています。またヴァゴスは南東部のジョージア州にも進出しました(*21)。海外ではヴァゴスはメキシコに進出しました(*3)。
1996年5月カリフォルニア州南部の4郡で警察組織は、30人以上のバイカーギャング構成員らを逮捕しました(*22)。逮捕容疑は、虚偽(オートバイ盗難の捏造)に基づく保険金請求で、保険会社から数百万ドルを騙し取ったことでした(*22)。
容疑者らは共謀者からオートバイ(主にハーレー・ダビッドソン)を手に入れ、保険金が下りた後、該当オートバイの識別番号を変えた上で転売していました(*22)。
また容疑者らは実際オートバイを盗むこともしていました(*22)。この場合でも容疑者らはオートバイの識別番号を変えてから、転売していました(*22)。
容疑者らの中にはヴァゴスの構成員の他に、「ヘシアンズ」(Hessians)及び「モンゴルズ」(Mongols)の構成員、ヘルズ・エンジェルスの関係者も含まれていました(*22)。
ヴァゴスは保険金詐欺に関与していたのです。
ちなみにヘシアンズは1968年コスタメサ(カリフォルアニア州オレンジ郡)で結成されたバイカーギャングです(*23)。ヘシアンズの創設者はトミー・マニスカルコ(Tommy Maniscalco)でした(*23)。ヘシアンズは太平洋沿岸に加えて、内陸のコロラド州やオクラホマ州にも支部を置いていました(*23)。
<引用・参考文献>
*1 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p122
*2 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Vagos」(Bill Hayes,2018, Motorbooks)
*3 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』(George Rowe,2014,Atria),p13
*4 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton),p38
*5 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』, p188
*6 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』(K. Randall Ball,2022,5-Ball Inc),p54-55
*7 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』, p64-65
*8 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』, p197
*9 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』,p57,61-62,73
*10 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』,p129
*11 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』,p190-191
*12 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』,p59
*13 『Terry the Tramp: The Life and Dangerous Times of a One Percenter』,p71
*14 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』, p107
*15 『Riding with Evil: Taking Down the Notorious Pagan Motorcycle Gang』(Ken Croke&Dave Wedge,2022,William Morrow), p62
*16 『Outlaws: Inside the Hell’s Angel Biker Wars』(Tony Thompson,2012,Hodder Paperback), p95
*17 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada), p171
*18 『Texas Gang Threat Assessment 2017』「The Role of Outlaw Motorcycle Gang Support Clubs」(Texas Department of Public Safety,2017年7月),p32
*19 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p114-115
*20 『Gods of Mischief: My Undercover Vendetta to Take Down the Vagos Outlaw Motorcycle Gang』, p183
*21『Dixieland Gangs & Disruptive Groups: Crime & Impact on the Southeast United States(English Edition) Kindle版』(Gabe Morales,2021,Amazon Services International)
*22 Los Angeles Timesサイト「32 Arrested in Motorcycle Fraud Scheme」(Tom Gorman,1996年5月21日)
*23 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Hessians」(Bill Hayes,2018, Motorbooks)
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