2000年アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」（Hell’s Angels）はカナダのマニトバ州で初の支部をウィニペグに設けました(*1)。マニトバ州の西隣はサスカチュワン州、東隣はオンタリオ州、北隣はヌナブト準州、南隣はアメリカ合衆国のミネソタ州、ノースダコタ州です。
ヘルズ・エンジェルスは1977年カナダに進出、ケベック州モントリオール郊外のソレルに支部を設けました(*2)。1984年までにヘルズ・エンジェルスは、シェルブルック支部（ケベック州）とハリファックス支部（ノバスコシア州）を設け、またブリティッシュコロンビア州にも4支部を設けました(*2)。
1997年ヘルズ・エンジェルスはアルバータ州レッドディア市のバイカーギャング「グリム・リーパーズ」（Grim Reapers）を傘下に置きました(*3)。旧グリム・リーパーズは「レッドディア支部」となったのでした(*3)。
2000年12月ヘルズ・エンジェルスは、オンタリオ州内の他団体（複数のバイカーギャング）から約200人のバイカーを自陣に移籍させ、オンタリオ州の進出を果たしました(*4)。
実はヘルズ・エンジェルスは2000年以前、マニトバ州に間接的に進出していました。
1990年代のマニトバ州では小規模バイカーギャングが多く活動していましたが、平和秩序が保たれていました(*5)。実際「レッドライナーズ」（Redliners）、「ロス・ブラボス」（Los Bravos）、「スパルタンズ」（Spartans）の3つのバイカーギャングは縄張りを共有していました(*5)。
1990 年代中盤のレッドライナーズは「ヘルズ・エンジェルスのパペットクラブ（puppet club）」として活動していました(*5)。パペットクラブは別名「サポートクラブ」（support club）とも呼ばれ、大手バイカーギャングの支配下に置かれていました(*6)。大手バイカーギャング（支配側）はパペットクラブ（被支配側）に対し、抗争時における戦闘要員の派遣、小売市場での違法薬物販売を課しました(*6)。またパペットクラブは毎月上納金を大手バイカーギャングに払っていました(*7)。
ヘルズ・エンジェルスはレッドライナーズを利用して、「マニトバ州の間接的支配」を試みていたのです(*5)。特にヘルズ・エンジェルスのモントリオール勢のウォルター・スタドニック（Walter Stadnick）とレッドライナーズの関係は深かったです(*5)。地元においてレッドライナーズは「ウォルター・スタドニックの軍隊」として知られるようになりました(*5)。
ウォルター・スタドニックは、ケベック・ノマド支部のリーダーの1人でした(*8)。ケベック・ノマド支部のもう1人のリーダーがモーリス・“マム”・バウチャー（Maurice “Mom” Boucher）でした(*8)。当時ケベック州においてヘルズ・エンジェルスは7支部を設けており、その中で最も強力だったのがケベック・ノマド支部でした(*8)。ケベック・ノマド支部はモントリオールを拠点にしていました(*8)。ウォルター・スタドニックはマニトバ州に支部を設立する為に、ウィニペグを頻繁に訪れていました(*9)。
ちなみにパペットクラブに対し、支配側の大手バイカーギャングは「マザークラブ」（mother club）と呼ばれました(*7)。パペットクラブの中には、マザークラブへの移籍を希望する構成員もいました(*7)。実際パペットクラブは、マザークラブへの「人材供給源」としても機能していました(*6)。
レッドライナーズ創設メンバーの1人にバーニー・デュボア（Bernie Dubois）という人物がいました(*5)。バーニー・デュボアは「ヘルズ・エンジェルスの構成員」でした(*5)。バーニー・デュボアがヘルズ・エンジェルス構成員のままでレッドライナーズ立ち上げに関わったのか、それともヘルズ・エンジェルスを辞めてからレッドライナーズ立ち上げに関わったのかは、それともレッドライナーズを立ち上げてから後にヘルズ・エンジェルスに移籍したのかは、不明です。
バーニー・デュボアの一族は、ウィニペグ（マニトバ州の都市）のコカイン小売市場において取引の多くを仕切っていました(*5)。
1998年ヘルズ・エンジェルスはレッドライナーズとの関係（マザークラブとパペットクラブという関係）を解消、新しくロス・ブラボスと関係を深めていきました(*5)。後にヘルズ・エンジェルスはロス・ブラボスを傘下に収めました(*5)。またヘルズ・エンジェルスはパペットクラブとして「ジグザグ・クルー」（ZigZag Crew）を発足させました(*5)。1998年以降レッドライナーズは分裂をしました(*5)。
レッドライナーズ、ロス・ブラボスと縄張りを共有していたスパルタンズでは、1998年6月トップ（創設者）のダーウィン・シルベスター（Darwin Sylvester）がヘルズ・エンジェルス側と会い、その後失踪しました(*5)。後にダーウィン・シルベスターと運転手の死体が溝で発見されました(*5)。トップ死亡後も、スパルタンズは活動を続けていきました(*5)。しかし後にスパルタンズは自身のロゴを使用できなくなったことで、構成員が他の地元組織に移っていきました(*5)。スパルタンズは消滅に至ったと考えられます。
最初に述べたように、ヘルズ・エンジェルスは2000年にマニトバ州で初の支部をウィニペグに設けました。2006年前半、捜査機関は、コカイン密売等の容疑で、ヘルズ・エンジェルスのウィニペグ支部の支部長アーニー・デュー（Ernie Dew）とヘルズ・エンジェルスの有名な構成員2人を含む多数の人を逮捕しました(*1)。2007年以前のマニトバ州においてヘルズ・エンジェルスの支部はウィニペグだけでした(*1)。
＜引用・参考文献＞
*1 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』（William Marsden＆Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton）, p319-321
*2 『Encyclopedia of Gangs』「HELL’S ANGELS IN CANADA」（Angelo Kontos，2008，Greenwood Press）,p127
*3 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』（Alex Caine，2010，Vintage Canada）,p66
*4 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』,p78,56
*5 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』,p127-128
*6 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』（Thomas Barker，2014，Routledge）, p114-115
*7 『Texas Gang Threat Assessment 2017』「The Role of Outlaw Motorcycle Gang Support Clubs」（Texas Department of Public Safety,2017年7月）,p32
https://www.ogia.us/sites/ogia/uploads/TxGangThreatAssessment201707.pdf
*8 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p311-312
*9 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p315
コメント