2020-2021年のオーストラリアでは5,290.5kgの覚醒剤(アンフェタミンとメタンフェタミン)が押収されました(*1)。オーストラリアにおいてアンフェタミンは「粉末」「錠剤」の2形態で、メタンフェタミンは「錠剤」「結晶」「ベース」(base)「粉末」の4形態で流通していました(*2)。メタンフェタミンの形態で最も効能があるのは結晶と考えられていました(*2)。
ちなみに日本では2020年、437.2kg(粉末及び結晶)の覚醒剤、5錠の覚醒剤が押収されました(*3)。翌2021年は、673.1kg(粉末及び結晶)の覚醒剤、1,951錠の覚醒剤が押収されました(*4)。
オーストラリアにおいてメタンフェタミンは密造されており、その原料(前駆体:precursor)としては主にエフェドリンもしくはプソイドエフェドリン(ephedrine/pseudoephedrine)、P2P(1-phenyl-2-propanone)が用いられていました(*5)。
2020-2021年オーストラリアでは284軒の密造施設が発見されました(*6)。
エフェドリンとプソイドエフェドリンは植物マオウを原料としています(*7)。マオウは中国やシベリアにありました(*7)。日本人の長井長義が1885年、マオウからエフェドリンを単離しました(*7)。
ニュージーランドでもメタンフェタミンは密造されており、プソイドエフェドリンが原料として用いられていました(*8)。密造業者は、中国製風邪薬・インフルエンザ薬の「コンタックNT」(ContacNT)を中国からニュージーランドに密輸していました(*8)。コンタックNTにはプソイドエフェドリンが有効成分として含まれていました(*8)。ニュージーランドではコンタックNT の販売は禁止されていました(*8)。
1980年代前半、バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)のアメリカ合衆国勢は、P2Pを用いて、覚醒剤を密造していたと考えられています(*9)。当時のアメリカ合衆国においてP2Pは違法薬物に指定されていました(*9)。一方のオーストラリアではP2Pは合法だった為、アメリカ合衆国勢はオーストラリアのメルボルン支部に、P2Pを送らせていました(*9)。
アメリカ合衆国へのP2P輸送は違法になる為、「ゴールデン・サークル」という会社のパイナップル缶詰(3リットル)が悪用されました(*9)。密輸にあたって、パイナップル缶詰に穴を空けジュースを抜いた後に、缶詰にP2Pを注入していました(*9)。
2020-2021年オーストラリアの末端市場においてメタンフェタミン0.1gの価格(中央値)は、92.5豪ドルでした(*10)。ちなみに2011-2012年時点では、メタンフェタミン0.1gの価格(中央値)は、100豪ドルでした(*10)。
<引用・参考文献>
*1 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2020–21(2023)の「アンフェタミン系薬物 2020–21」,p26
https://www.acic.gov.au/sites/default/files/2023-10/illicit_drug_data_report_2020-21_forweb.pdf
*2 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2020–21(2023)の「アンフェタミン系薬物 2020–21」,p24
*3警察庁「令和2年における 組織犯罪の情勢」,p46
*4 警察庁「令和3年における 組織犯罪の情勢」,p46
*5 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2020–21(2023)の「アンフェタミン系薬物 2020–21」,p28
*6 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2020–21(2023)の「アンフェタミン系薬物 2020–21」,p35
*7 『[文庫クセジュ] 合成ドラッグ』(ミシェル・オートフイユ/ダン・ヴェレア著、奥田潤/奥田陸子訳、2004年、白水社), p58-59
*8 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』(Jared Savage,2020, HarperCollinsPublishers), p33-34
*9 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p107-109
*10 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2020–21(2023)の「アンフェタミン系薬物 2020–21」,p36
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