親子盃

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 ヤクザ組織を円滑に動かしていく上で、重要な役割を果たしているのが親分・子分の関係です。山口組という1次団体、山口組弘道会や山口組山建組という2次団体、そして2次団体の傘下に位置する3次団体や4次団体と、1つ1つのヤクザ組織の規模・形態は異なっています。しかし多くのヤクザ組織で共通する原理があります。それが親分・子分の関係です。一般社会における会社の雇用関係と比べて、主従関係が強い事は知られております。この強い主従関係が、親分の理不尽な命令に従わざるをえない子分の悲惨さを招く一方、暴力という「ヤクザ組織の威嚇効果」の主因になっています。他のヤクザ組織に対しての暴力行使を拒否する子分には、組織内から厳しい制裁が待っています。子分は暴力行使の選択をとるしかないのです。親分・子分の関係は、ヤクザ組織が持つ力の源泉の1つと言えます。

*今回記事を作成するにあたり、『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、洋泉社)の情報を参照させて頂きました。

 1つのヤクザ組織において基本的に、親分は1人で、その他は子分となります。あるヤクザ組織で組長を名乗る人物は、「親分」の位置づけになります。一方、末端の組員達は「子分」です。ヤクザ組織内ナンバー2の地位を表す「若頭」(ワカガシラ)という名称がありますが、この若頭を名乗る人物も「子分」の位置づけになります。ところが「親分」にいる人物が、ある場面では「子分」の位置づけに変わってしまう事があります。2次団体の組長をつとめるX氏は、2次団体内では「親分」の位置づけになりますが、上部団体の1次団体内においては「子分」の位置づけになります。例えば、山口組山建組の組長をつとめる人物が、山建組での「親分」であっても、1次団体・山口組内では直参という「子分」に位置づけられます。広域ヤクザ組織において、親分・子分の関係は「入れ子」の要素を持っています。

 例外的な存在が「舎弟」です。少し粋がった人達の世界で「コイツは俺の舎弟やから」と言われるように、“面倒見ている下の者”という意味合いで使われている「舎弟」という言葉ですが、ヤクザ組織内で使われている意味合いは若干異なります。「親分」の弟的存在として「舎弟」は位置づけられています。「親分」から見れば、「舎弟」は“弟”という位置づけであり下に位置する存在として、「子分」と同じ扱いをできます。一方「子分」から見れば、「親分の弟」つまり叔父になるので、上に位置する存在です。ヤクザ組織内で「舎弟」に位置する人物は、軽々しく扱われる存在ではなく、丁重に扱われる存在なのです。

 ヤクザ組織における「親分至上主義」は代替わりの場面でも発揮されます。現在の組長つまり「親分」であるA氏が引退することになり、「子分」の筆頭格である若頭のB氏が次期組長つまり次の「親分」になる場合。新組長になったB氏は、B氏を若頭として支えてきた末端の組員達と、新たに親分・子分の関係を結びます。ヤクザ業界で言われる「親子の盃を交わす」という行為です。当然、B氏が「親分」、末端の組合員達が「子分」の位置づけとなります。またB氏と同等の位置にいた組幹部(D氏)は、「B氏の子分」ではなく「B氏の舎弟」として位置づけられる事があります。この場合B氏とD氏は親分・子分の関係にはなりません。特徴的なのは、A氏の「舎弟」であったC氏との関係です。A氏が組長で「親分」だった頃は、「子分」である若頭のB氏にとって、「舎弟」のC氏は叔父になり上に位置する存在として大切にすべき対象でした。B氏が新組長つまり新「親分」になっても、C氏は「舎弟」としてい続けることはできますが、「舎弟」の内容が変わります。「A氏の舎弟」ではなくなり、「B氏の舎弟」となるのです。ヤクザ業界では「舎弟に直る」「盃を直す」と呼ばれる事態です。C氏にとって、これまで「下の存在」であったB氏を、「上の存在」として見直す事になります。

 新しい代になっても、先代の「舎弟」達が「上の存在」として残り続けると、新しい組長は独断専行することはできません。「1つの船に船長が2人以上いる」状態になり、組織に支障を来します。その事態を防ぐ為に、親分・子分の関係は、先代指導者層の力を削ぐ機能を内包しています。これによって次世代指導者層は円滑に組織を動かすことができます。ちなみに新「親分」の「舎弟」に直る以外の選択肢は、引退か名誉職の地位に退く事となっています。以上は理屈上の話で、代替わりの揉め事で組織分裂を起こしてしまったヤクザ組織の事例はあります。世代間の力を調整するのに役立つ親分・子分の関係ですが、次の「親分」争いを収めることまではできません。また名目上退いた形になった上の世代が、次世代の現役指導者層に影響力を持とうとする場合もあります。その場合は世代間の争いに発展します。親分・子分の関係で全て解決する訳ではありません。

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