ドル高が原油安の要因の1つ

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 2014年夏頃から、急速な下落に見舞われた原油価格は今も低落基調にあります。原油安の要因はいくつも挙げられます。まずアメリカのシェールオイル産業の台頭があります。原油を大量に輸入していたアメリカの国内で、シェールオイルという原油を近年採掘することが可能となりました。アメリカとしては、大幅に原油の輸入を減らすことができます。アメリカに原油を輸出していた国は、新たな売り先を探す事態に陥りました。原油需給は緩和し、価格下落の動きに働きます。爆発的な成長を遂げてきた中国経済の停滞も要因の1つです。中国経済の著しい伸びに比例して、中国における石油消費は増加していきました。しかし躍進の原動力になった製造業輸出と不動産投機に近年変調が見られます。豊富な人口を背景に、人件費の安さをアピールポイントにして、中国は世界各国のメーカーの工場を集めてきました。しかし年々人件費は右肩上がりに上昇しています。人件費の上昇を抑える役割を果たしてきた「人口増」の動きも、一人っ子政策の影響で、弱まってきています。庶民に不満が高かった不動産価格の高騰に、中国政府は対策に動き出しています。不動産価格は伸び悩んでいます。中国経済は一時的な景気の弱まりでなく、構造的な変容を迫られている時期です。OPECの行動も原油価格の下落に拍車を掛けました。OPEC(石油輸出機構)は2014年、原油価格が下落する中で、原油減産に動きませんでした。OPEC加盟国の多くは原油輸出による外貨獲得で、国家財政を賄っています。一般的に原油価格下落の際は、歯止めをかける為、減産を選択します。原油の出回り量を少なくすれば、原油需給は逼迫化し、価格は上昇していくからです。OPECの意外な行動の理由として、中核メンバーのサウジアラビアが市場シェアを重要視したことがあります。原油価格低下による収入減を犠牲にして、市場シェアを確保します。シェア確保にサウジアラビアを走らせたのは、アメリカのシェールオイル産業の存在です。アメリカのシェールオイル産業は、OPECにとって新たな競争相手の位置づけです。シェールオイルの採掘コストより、原油価格を下げることで、シェールオイル産業を弱体化させる狙いがあります。原油供給の競争相手が減れば、将来的にOPECは原油価格に及ぼす影響力を高めることができます。

*今回記事を作成するにあたり、『週刊エコノミスト』2015年4月28日号「再び原油100ドル越えはある?」(江守哲著)の情報を参考にさせて頂きました。

 加えて、ドル高基調も原油安に働いている要因として、考えられています。2012年まで1ドル=80円台だったドル円の為替は、2015年4月現在1ドル=120円近くまでになっており、大幅な円安方向に動いています。日本の輸出産業を担う企業は、円安の恩恵を受け、売上を伸ばしている。中国の春節時期に、日本の繁華街で見られた中国人観光客による大量購買が話題になりました。円安により日本の商品を以前より「安く」買えるようになったことが大きな背景としてあります。円安の裏返しとして、アメリカの通貨・ドルは高くなっています。アメリカの金融政策を仕切るFRB(米国連邦準備制度理事会)は先進各国の中で、一足先に、2014年に量的金融緩和政策を終了させています。2015年の今年、金利の利上げを図っています。アメリカの金融政策は抑制的になりつつあります。お金は低い金利から高い金利に移動します。未だ量的金融緩和を続行する日本の低金利を避け、利上げするアメリカにお金が向かう動きが形成されています。円安に働く1つの要因になっています。EU通貨のユーロもドルに対して、下落しています。経済不況に喘ぐEU諸国も金融緩和政策をとっている為です。ドルだけが、突出して高くなっている状況です。

 ドルが高くなることで、原油が下落する理屈は簡単です。原油はドルで取引されています。現代社会にとって死活的な商品である原油の取引をドルが担っている背景には、第二次世界大戦以降のアメリカの軍事的、経済的な強さがありました。原油を購入する国にとって、自国通貨高時に、多く購入したい気持ちが働きます。逆に、自国通貨安時には、控えめに購入したい気持ちが働きます。日本の場合、ドル建ての原油を購入する際、円高の1ドル=80円時には沢山購入して、円安の1ドル=120円時には少なめに購入したいと考えます。ドル高つまり他の国における自国通貨安の状況により、原油が「割高」に映っているのです。購買は控えめになります。結果、原油輸出国が、輸入国に配慮して、「今までどおりの価格」で買ってもらえるように価格を低く設定します。例えば日本が、1ドル=80円のドル円の為替時、1バレルの原油を100ドルで購入していたとします。日本は、原油輸出国に1バレルにつき8000円を支払います。しかし急激な円安進行により、ドル円の為替は1ドル=120円になりました。原油価格が変わらずの場合(つまり1バレルの原油価格は100ドルのまま)、日本は原油輸出国に、1バレルにつき1万2000円を支払わなければなりません。対応策として、原油輸出国は、日本の支払額が以前の「1バレルにつき8000円」で済むように、原油価格を下げます。原油価格は、1バレルにつき約67ドルに設定されます。1ドル=120円のドル円の為替下でも、日本の支払いは1バレル約8000円で済みます。原油需給は緩和します。ドル高に向かう動きは、原油価格を下落させる働きを持っているのです。裏返せば、ドル安に向かう動きは、原油価格を上昇させる働きを持っています。ただし、現在の原油価格決定の要因は多岐に渡っています。要因の1つが変化するだけで、原油価格が左右される構造にはなっていません。とはいえ、原油価格という大事な指標を見る上で、ドルとのつながりを意識しておくことは重要と言えます。

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