ヤクザ組織と濃い関係を持つ業界の1つとして土建業があります。加えて、夜間の飲食業や風俗業もヤクザ組織と太いパイプを形成しているのは周知の事実です。夜間の飲食業や風俗業は、不当な高額料金の請求や売春営業など、「違法領域による収益」という誘惑を抱えています。摘発の危険は伴うものの、違法領域から得られる果実は大きいです。けれども違法領域ゆえに、客とのトラブル処理や他店との利害調整を、公的機関に頼むわけにはいきません。登場するのがヤクザ組織です。日本の裏社会で最も強力な暴力装置を持つ為に、裏社会における「利害調停者」に座り続けています。夜間の飲食業や風俗業がヤクザ組織に支払うミカジメ料は、「裏社会の利害調整手数料」です。翻って、土建業は違法領域から遠く、ヤクザ組織との接点は少ない印象を持ってしまいます。
しかし土建業もヤクザ組織に金を払ってきました。工事は騒音が伴い、人・物の出入りが激しくなります。近隣住民に迷惑を必然的に掛けます。工事関係者に文句を言う厄介者も出てきます。工事を円滑化させる為、事業者は地元のヤクザ組織に「迷惑料」(「さばき料」とも言う)の支払いを行ってきました。料金は工費の1~3%です。大規模な工事になればなるほど、ヤクザ組織側の実入りは大きくなります。事業者側にとっては、ヤクザ組織が厄介者を押さえてくれるのに加えて、他のヤクザ組織の介入を阻止できます。しかし大規模な工事になれば、地元のヤクザ組織以外にも、多くのヤクザ組織が「迷惑料」欲しさに言い寄ってきます。当然事業者は二度払いを避けたいです。結果、知名度が高く強いヤクザ組織に、「迷惑料」の支払いは集まります。
*今回記事を作成するにあたり、『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社)、『ヤクザ大辞典』(山平重樹監修、週刊大衆編集部編、2002年、双葉文庫)、『山口組の100年 完全データBOOK』(2014年、メディアックス)、『山口組永続進化論』(猪野健治、2008年、だいわ文庫)、『週刊現代』2014年10月4日、10月11日、10月18日、10月25日、11月1日号「ヤクザと企業舎弟」(森功)の情報を参考にさせて頂きました。
ヤクザ組織と土建業との関係は古い歴史を持っています。大正時代、正業を行うことを命じられた博徒組織が土建業を始め出します。「~組」が付く組織名は、過去の土建業の営みに、由来している可能性が高いです。山口組は設立当初、土建業ではないですが、港湾荷役業を主な稼業としていました。現在は、警察の厳しい取締りにより不可能ですが、昭和時代までヤクザ組織の人間が土建業を経営する場合もありました。両者の関係を強く結び付けている要素が、ヤクザ組織による土建労働供給・管理力です。土建業は人海戦術の色合いが濃い業務です。一方、受注産業であり、繁閑の差が激しいです。労働力を柔軟に調達したい意向が土建会社にあります。戦後まで、短期間で働く土建労働者を募り供給する役割を果たしていたのがヤクザ組織もしくはその関係者でした。ヤクザ組織が土建労働供給を独占できたのは、後ろの管理業務に優れていたからです。労働者の保護意識が低く、機械化が未発達の時代、土建業務は過酷でした。土建会社側にとって、土建労働者が手を抜かないように、見張る必要がありました。また工事の間、土建労働者を住まわせる「人足部屋」からの脱出を阻止する必要もありました。業務の性格上、土建労働者の中には、気性の荒い者もいます。管理業務を遂行できる存在が、暴力装置を備えたヤクザ組織でした。管理業務の強みがあったので、前段階の労働供給を独占できたのです。ヤクザ組織の介在により、土建労働者の賃金は差し引かれました。加えて、ヤクザ組織は人足部屋で博打を行い、労働者の金を吸い取っていました。戦後の職業安定法により労働者供給事業は原則禁止されます。しかしその後も水面下では、ヤクザ組織主導による土建現場への労働供給が連綿と続きました。土建労働供給・管理力を培ってきた歴史がヤクザ組織にあります。
土建労働者や候補者の若者が、地元の先輩・後輩関係の延長線上で、ヤクザ組織側の者と人間関係を構築している側面もあります。堅気だがアウトロー気質を持つ若者が、ヤクザ組織に属する先輩に誘われて、土建業の仕事をする場合もあるでしょう。ヤクザ組織の者が土建業に流入する場合もあります。ヤクザ稼業から足を洗った者は、土建業につながりがあれば、そこで仕事を求めていきます。人の行き来により、両者の関係は濃くなります。ピラミッド型の仕組みで、仕事が流れていくのが土建業界です。大手ゼネコンが請けた仕事が、下請けに流れ、さらに孫請けに流れていきます。土建労働供給・管理面でヤクザ組織が関与するのは孫請けの段階です。実質の工事主体である孫請けの土建労働供給・管理をヤクザ組織が握っているのです。言い換えれば、ヤクザ組織の裁量次第で、工事進捗は左右されます。大手ゼネコンも含めて土建業界がヤクザ組織を恐れ、金を出していた根本の理由は、急所を握られていたからでした。もっとも現在は厳しい取り締まりにより、ヤクザ組織が土建業界に及ぼす影響力は低下しています。
土建業との濃い関係から派生して生まれたヤクザビジネスが、違法の産業廃棄物処理です。合法の産業廃棄物処理事業者は存在しますが、費用が高いです。土建業に産業廃棄物は付き物です。しかし土建会社にとって、利益活動につながらない産業廃棄物処理は安く済ましたいのが本音です。需要を察知したヤクザ組織は、処理費用の安さを武器に、産業廃棄物処理事業に入り込んできました。合法の産業廃棄物処理事業者が施設で処理するのに対して、ヤクザ組織側は人気のない山や谷に投棄するという「違法処理」を行いました。不法処理が安さの源です。当然、自然への悪影響は必至です。
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