テキヤ組織の行方

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 ヤクザ組織の中に、テキヤ組織を母体する組織があります。テキヤ組織は、祭りで露店商として活動する人間が集う組織です。長らく東北や北海道のヤクザ業界において、テキヤ組織は博徒組織より主流に位置していました。テキヤ組織を母体にするヤクザ組織の中には、現在も祭りの露店販売を稼業とする組織があれば、祭りの露店販売業から手を引いている組織もあります。日本最大テキヤ組織である極東会の東京勢力は、池袋や新宿の大都市を拠点にして、裏稼業を行っています。テキヤ組織とは名乗るものの、テキヤ組織とは様相が異なります。またスポーツ・音楽イベントにおいて、希少価値のあるチケットを大量に買い、イベント当日チケットを求める人に高額に販売するダフ屋はテキヤ組織を母体とするヤクザ組織が多いです。チケットという商品を屋外で売る為、本来のテキヤ稼業とは親和性が高いといえます。とはいえ、今もテキヤ組織を出自とするヤクザ組織の中には、祭りの露店販売を稼業とする組織もあります。

*今回記事を作成するにあたり『実話時代』2015年10月号「テキヤ組織・親分、露天商、現場関係者に訊いた 「明日」はどっちだ!」(大貫説夫)、『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(厚香苗、2014年、光文社新書)、『裏経済パクリの手口99』(日名子暁、1995年、かんき出版)の情報を参考にさせて頂きました。

 1992年施行の暴力団対策法に始まり、ヤクザ組織への締め付けは年々厳しさを増しています。都道府県の公安委員会から暴力団と指定されている極東会、広域ヤクザ組織の傘下に収まっているテキヤ組織にも、警察当局や行政による厳しい圧力がかかっています。現在、露店商は祭りに出店する際、事前に販売者の氏名と写真付きの書類を所轄の警察や保健所に申請しなければなりません。所轄の警察はデータベースの照合で、提出書類の販売者がヤクザ組織傘下のテキヤ組織構成員であることが分かれば、当然出店を許可しません。加えて、書類上の販売者と実際の販売者が一致しているかどうか、祭りの当日一軒ずつ警察官が確認にきます。写真と違う人物が販売していたら、即販売中止となります。但し抜け道はあります。テキヤ組織構成員の妻や子供、子供の友人、またはアルバイトに「代理人」として露店で商売させる方法です。つまり「テキヤ組織が関与する露店」です。提出書類に販売者として記載され、実際露店で働く彼女彼らは、テキヤ組織構成員の「代理人」ではありますが、一般人です。警察もそこまでは踏み込みにくいです。

 近年の祭りの現場で目立つのが、地元商工会による露店販売です。商工会に属する人が、祭りの日だけ、臨時に露店商となるのです。祭りに欠かせない露店をテキヤ組織ではなく、商工会に担わせるという警察の意向が背景にあります。テキヤ組織構成員の家族やテキヤ組織に雇われたアルバイトが露店商として働くという抜け道がある以上、テキヤ組織の「潜り込み」を許している実態があります。よって警察当局は露店の主体者をテキヤ組織から商工会に塗り替えるという抜本的な策を打ち始めたのです。テキヤ組織の入り組む余地がない環境を設定しようとしています。商工会が出す露店の特徴として、販売者が普段別の仕事を持っている為、「素人販売」の域を出ないことがあります。一方、「テキヤ組織が関与する露店」は、露店販売を長年してきたテキヤ組織を基盤とするので、露店販売に長けています。また露店販売終了後の後片付けの徹底さは、テキヤ組織の伝統です。きれいに掃除をして、回収したゴミを祭りの現場で処理するのでなく、テキヤ組織が自らゴミ収集車を手配し処理します。祭りの主催者側がゴミの問題で悩むことがありません。テキヤ組織は古紙などの廃品回収業との結びつきがあります。テキヤ組織がゴミ処理という領域に伝統的に関与してきたことが背景にあるのでしょう。商工会が出す露店の長所にも触れておくと、販売価格の安さがあります。『実話時代』2015年10月号「祭りの“明日”はどっちだ!」(大貫説夫)の記事によれば、「値段はやはりテキヤの露店よりも安く設定されていて、テキヤで四百円の焼きそばが三百円、三百円の唐揚げが二百円になっている」(39P)とのことです。

 しかし今も「テキヤ組織が関与する露店」によって賑わう祭りがあります。神社仏閣主催の祭りです。日本の祭りは、主催者を基準にすると、二分できます。花火大会などを主催する地方自治体の祭りと、伝統的な祭りを主催する神社仏閣の祭りです。両方の祭りとも、テキヤ組織は表面上露店を出せません。しかし「テキヤ組織が関与する露店」の対応に、温度差があります。地方自治体主催の祭りは、商工会に露店を出させることにより、「テキヤ組織が関与する露店」を排除していく動きがあります。一方、神社仏閣主催の祭りは商工会の露店を認めず、「テキヤ組織が関与する露店」を露店販売の中心に据えています。地元自治体に比べて、宗教団体が警察当局を含めた行政組織に関与を受けにくいという背景があります。神社の場合、全国にある多くの神社を包括する神社本庁に警察当局の指導が入っていますが、神社の祭りでは現在も「テキヤ組織が関与する露店」が占めているのが実態です。加えて、神社仏閣とヤクザ組織には歴史的な結び付きがあります。稼業違いの博徒組織は昔、寺で賭博を開催していました。賭博の胴元の手数料が「テラ銭」と呼ばれる由縁です。歴史的な結び付きもある為、神社仏閣側は水面下でテキヤ組織との関係を維持し続けています。裏返せば、神社仏閣の祭りが消える、神社仏閣側が警察当局に従順する時代にならない限り、テキヤ組織の活路が存在していることを意味しています。

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