國粹会トップが山口組組長代行に就任するという噂について考えてみる

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 本日行われた山口組定例会において、昨日より噂になっていた司忍組長引退や新人事体制の発表はなかった模様です。とはいえ発表内容を外に漏らすことを固く禁じたので、現時点で情報がマスコミや関係者に伝わっていないだけで、山口組内部では新しい動きが進み始めている事態も考えられます。当日段階では、判断のつきにくいところです。司忍組長引退の話は4月4日発行の夕刊紙日刊ゲンダイの記事から出てきています。日刊ゲンダイの記事によれば、司忍は引退、後任として恐喝罪により2014年から懲役刑に服している若頭・髙山清司を次期組長(七代目組長)に就任、もしくは若頭補佐・藤井英治をワンポイントリリーフとして組長代行に就任させるという話が一部で噂されています。恐喝罪で京都地裁、大阪高裁から6年の懲役の判決を下された髙山清司の出所は2020年になります。ヤクザ社会では過去に服役中にトップ就任をした例があり、髙山清司の服役中組長襲名は異例のことではありません。3月17日、山口組歴代組長の墓参りで報道陣に姿を見せた司忍の外見は以前と若干異なっていました。従来蓄えていた口ひげに加えて、顎ひげや頬ひげも蓄えて、70代の年齢にも関わらずワイルドな印象を見せていました。実話誌に掲載された写真に映る司忍の目つきも鋭く、力で支配するヤクザ組織のトップにふさわしい雰囲気を漂わせていました。外見情報だけから判断するに、引退を考えているようには窺えません。

*今回記事を作成するにあたり『実話時代』各号、『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫)、『山口組の100年 完全データBOOK』(2014年、メディアックス)、『FOR BEGINNERS シリーズ ヤクザ』(朝倉喬司、2000年、現代書館)、『山口組動乱!! 日本最大の暴力団ドキュメント 2008~2015』(溝口敦、2015年、講談社+α文庫)、『山口組 分裂抗争の全内幕』(盛力健児+西岡研介+鈴木智彦+伊藤博敏+夏原武、2015年、宝島社)の情報を参考にさせて頂きました。

 ワンポイントリリーフ候補に浮上している藤井英治は1次団体・山口組で最高幹部級の若頭補佐を務める一方、2次団体・國粹会の会長でもあります。國粹会は首都圏の老舗博徒系ヤクザ組織の連合組織でした。1958年日本國粹会として発足します。1991年に「國粹会」に組織名を変更。國粹会に参加する各博徒系ヤクザ組織は銀座、六本木、浅草、渋谷などの東京有数の繁華街に縄張りを歴史的に持っていました。『FOR BEGINNERS シリーズ ヤクザ』(朝倉喬司、2000年、現代書館)によれば、昭和初めのころ國粹会・生井一家は築地や日本橋辺り(当然、銀座も含まれます)、國粹会・田甫一家は浅草から千住辺りを縄張りとしていました。太平洋戦争後、住吉会や稲川会などに縄張りを貸し出し、地代を受ける立場にもなり、経済的に富む連合組織でした。2001年、國粹会の工藤和義会長は國粹会の組織改革を打ち出します。従来の「各団体横並びの組織形態」をやめて、國粹会と各団体を垂直的関係にする直参体制に移行しようとします。しかし反発する団体が出て、國粹会は内部抗争に陥ります。内部抗争は2003年に終結します。その際外部から手を貸したのが山口組でした。2005年國粹会は山口組の傘下に入ります。國粹会の工藤和義会長は山口組の最高顧問の地位を与えられます。つまり國粹会の「山口組としての活動歴」は10年しかないのです。

 國粹会の山口組入りに、危機感を抱いたのが住吉会や稲川会などの関東ヤクザ組織です。山口組が縄張り返還を要求する事態が浮上したからです。特に、親戚関係(同盟関係)のない山口組と住吉会の間で、緊張感が高まります。2007年2月、住吉会幹部が射殺されたことを発端に、抗争に至ります。和解により抗争はすぐに終結しますが、抗争終結の1週間後、工藤和義会長は拳銃自殺します。同年、國粹会の会長を継いだのが藤井英治です。藤井英治会長就任の際、國粹会は同時に内部の組織形態を直参体制に変更します。会長就任前、藤井英治は組織内ナンバー2の理事長を務めていました。自身が率いる組織は長野県諏訪市に拠点を置く信州斉藤一家でした。長野県の中央に位置し、2016年4月現在人口5万人に満たない諏訪市で活動する信州斉藤一家は地理的に離れていますが、國粹会の参加団体でした。國粹会つまり山口組2次団体トップに就いた藤井英治は、1次団体・山口組の執行部に短期間で引き立てられます。2009年「幹部」に昇格、2011年「若頭補佐」に昇格します。短期間で執行部に上がれた大きな要因には、國粹会の経済力があります。組長代行候補として浮上している背景にも、藤井英治自身が率いる國粹会の経済力があると見てよいでしょう。

 経済的に豊かな団体を率いているとはいえ、「新規参入」の色合いが抜けきれない國粹会の藤井英治を組長代行にするのは、長く山口組に在籍している人間からすれば、面白くない話ではあります。また山口組の活動歴が浅いことから、藤井英治が山口組内部の人間関係に精通しているとは言い難いです。山口組執行部内において藤井英治は関東ヤクザ組織との交渉、関東ヤクザ業界の知見には長けています。しかし山口組内部の調整事に関して長けていると言い難いです。山口組内部の調整事に関しては、やはり古参の幹部の方が長けています。統括委員長の橋本弘文(極心連合会)、本部長の大原宏延(大原組)、若頭補佐の森尾卯太男(大同会)など適任者がいます。しかし候補に上がっていません。國粹会は弘道会と親しい関係にあります。弘道会会長で山口組若頭補佐を務める竹内照明が山口組組長代行に就任すると、「弘道会支配」の印象を強くしてしまいます。不満を感じて、神戸山口組に移籍する傘下団体がまた出てくるかもしれません。「親・弘道会」の國粹会トップを組長代行にする噂話からは、髙山清司が復帰するまで、山口組内部において支配力を維持したいという弘道会の狙いが透けて見えます。

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