日本のヤクザ組織と外国人マフィアグループは単純に見れば、対立的関係にあると映りがちです。言葉や習慣の様々な違いから、対立的になりやすい背景があります。しかし現在の日本の裏社会においては、時折対立する場面はあるおのの、両者は共存関係にあります。新宿歌舞伎町に拠点を置くヤクザ組織の構成員だった作家・中野ジロー(1960年生まれ)の著作『裏社会 噂の真相』によれば、中野ジローが詰める事務所に大量の缶コーヒーケースや家電製品などの購入を促すFAXがよく送られてきました。ヤクザ事務所に、一般のメーカーや卸業者はFAXしません。FAXの送り主は外国人窃盗団でした。外国人窃盗団は港の倉庫などで現金化しやすい商品を盗み、盗品をヤクザ組織に買い取ってもらう為に、ヤクザ組織の事務所に購入を促すFAXをしていたのです。現金化しやすい商品とは、DVDソフトや食料品、ブランド品、ゲーム機や家電などです(*1)。
外国人窃盗団つまり外国人マフィア側は盗みによる「調達」の役割を、ヤクザ組織側は「盗品流通」の役割を果たしている関係が浮き彫りになります。外国人マフィアグループにとって、商品を盗むことはできても、盗品を捌くことは難しいです。盗品といえども、流通させるには、「多くの買い手」(引き受け手)を探す必要があります。各地域に盗品を引き受けてくれる仲間、また表の小売業者とのネットワークも持っていなければなりません。外国人マフィアグループは現在、そこまでの「横のネットワーク」を有していません。一方、日本のヤクザ組織は「横のネットワーク」を強固に有しています。1次団体の広域団体化、他団体との「親戚関係」化により、ヤクザ組織は全国各地に「商売仲間」(ヤクザ組織の構成員やその関係者)つまり販売網を持っています。ヤクザ組織が関わるビジネスにおいては、携わる者は確実な遂行が求められます。遂行できない者は、ヤクザ業界から厳しい仕打ちが与えられます。よって日本の裏社会においては、ヤクザ組織が有する販売網が、一番信頼されています。外国人マフィアはそれを頼りに盗品をヤクザ組織に流します。
ヤクザ組織は外国人窃盗団から盗品を定価の10%ほどで買い取り、30%ほどにして表の業者に販売します(*2)。つまり外国人窃盗団は10%の利益、ヤクザ組織は20%の利益となります。例えば定価1万円の家電製品の場合、外国人窃盗団は1000円、ヤクザ組織は2000円の利益を手にします。盗品ビジネスにおいて、最もリスクを背負うのが、実際に盗む部隊です。しかし利益を多く手にするのは販売網を持つヤクザ組織です。覚せい剤の販売においても、仕組みは似ています。愛知県内では、イラン人マフィアグループが覚せい剤の小売りを手掛けています。しかしイラン人マフィアグループはあくまでも「小売り」の領域にとどまり、「卸」の役割はヤクザ組織が担っています(*3)。イラン人マフィアグループは覚せい剤の流通の一端を担っているに過ぎず、ヤクザ組織の「横のネットワーク」こそが覚せい剤の流通に大きな役割を果たしているのです。
<引用・参考文献>
*1『裏社会 噂の真相』(中野ジロー、2012年、彩図社、188~189P)
*2同上、191P
*3『週刊実話』2016年1月21日号「名古屋「挟み撃ち」殺人事件 外国人犯罪グループ抗争」(46~47P)
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