日本の違法薬物市場におけるコカインのポジション

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 先週発売された週刊誌『FRIDAY』が俳優・成宮寛貴のコカイン使用疑惑を報道しました。アメリカの映画では、コカインを鼻から吸引するシーンがよく見られます。退廃的な印象を与えるのに「コカイン使用」は映画において「格好の絵」となっています。しかしアメリカと異なり、日本ではコカインの存在は薄いです。

 理由としては、日本で最も主要な違法薬物である覚せい剤と競合していることがあります。違法薬物の効能には2つの種類があります。アッパー系とダウナー系です。アッパー系はいわゆるハイになります。「イヤッホー」みたいな感じです。ジャーナリスト鈴木智彦氏によれば、武勇伝を残したヤクザの中には、覚せい剤使用過多になったいわゆる“ポン中”が多かったと伝えています (*1)。覚せい剤の薬効により気分が高揚し、対立組織との暴力沙汰において、戦闘性が高まるという「覚せい剤の隠れた実利」がヤクザ社会においてはあるのです。コカインもアッパー系に属します。一方、ダウナー系は気分を落ち着かせる効能があります。大麻やアヘン、ヘロインが該当します。

 しかし日本のアッパー系違法薬物市場において、覚せい剤とコカインの需要には大きな差があります。商品特性上、厳密な流通量を測ることができません。しかし警察当局による押収量から、流通量を概ね確認することができます。警察庁によれば、2015年覚せい剤の押収量は429.8kg、一方コカインは18.5kgです(*2)。検挙人数も見ると、2015年覚せい剤の検挙人数は11,022人、一方コカインは230人です(*2)。ちなみに2011年においては、覚せい剤の押収量は338.8kg、一方コカインは28.7kgです(*2)。2011年覚せい剤の検挙人数は11,852人、一方コカインは177人です(*2)。圧倒的に覚せい剤の方が日本において流通していることが分かります。

 アッパー系違法薬物における覚せい剤の利点として、効き目の長さが挙げられます(*3)。薬理的に脳に働く時間がコカインは覚せい剤より短く、摂取回数を繰り返す必要があります(*3)。一方覚せい剤は一回使用する0.02~0.03gの作用時間は約2時間、長い人で4時間と言われています(*4)。  またコカインはコカノキという植物由来の薬物です。南米が主に産地です。人工的に製造できる覚せい剤と異なり、コカインを仕入れる為には、南米にルートを持つ必要があります。距離的にも日本から遠いこともあり、コカインの大きな密輸経路(南米→日本)が構築されていないと考えられます。

<引用・参考文献>

*1 『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦、2012年、宝島SUGOI文庫), p93~95

*2 警察庁「平成27年における薬物・銃器情勢 確定値」(平成28年3月),p2-3

*3 『日刊ゲンダイ』2016年7月5日号(4日発行)「溝口敦の斬り込み時評<263>」

*4 『日刊ゲンダイ』2016年2月23日号(22日発行)「サラリーマンも溺れる覚醒剤①」, p15

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