山健組トップが実行犯に至った背景

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  8月21日に神戸市内で起きた弘道会組員に対する銃撃事件の「実行犯」の容疑で、12月3日神戸山口組の主要2次団体・山健組トップの中田浩司が兵庫県警に逮捕されました(*1)。中田浩司に掛けられた容疑は殺人未遂、銃刀法違反でした(*1)。太平洋戦争終了以降(1945年以降)、ヤクザ組織間の抗争において、「広域1次団体」や「広域1次団体の主要2次団体」のトップが「実行犯」の容疑で逮捕された例は珍しいです。抗争時、敵対組織の組員に対する攻撃は、「末端組員」が担うものだと、ヤクザ業界では考えられてきました。今回の中田浩司の逮捕は、ヤクザ業界に衝撃を与えています。

 8月21日の銃撃事件では、午後6時15分神戸市内にある弘道会の施設前で軽自動車内にいた弘道会組員に対し、スクーターを運転する者が軽自動車に近づき、自動式拳銃を6発発射しました(*2)。弘道会組員は3発被弾し、腕が切断されるほどの重症を負いました(*2)。

 銃撃事件の4カ月前、4月18日神戸市内で山健組若頭・與則和が何者かに刃物で刺され、重傷を負う事件がありました(*2)。事件後、2人の弘道会組員が神戸市内の灘警察署に出頭、逮捕されました(*2)。8月21日の銃撃事件は、「4月18日の山健組若頭負傷事件」に対する山健組の報復という見方がされました(*2)。

 2015年8月の山口組分裂以降、脱退側の神戸山口組は、山口組との間で抗争事件を起こすものの、「拳銃使用による攻撃」を控えていました。一方の山口組が2016年5月神戸山口組2次団体・池田組若頭を射殺した(*3)後も、神戸山口組は山口組に対し拳銃使用を控え続けました。神戸山口組内で「山口組に対し拳銃使用による攻撃をしない」というルールがあったのだと考えられます。拳銃使用を控えた理由の1つとして、組織犯罪処罰法による上層部逮捕を神戸山口組が恐れていたことが考えられます。

 2008年3~4月山口組2次団体・小西一家と住吉会下部団体との抗争において(*4)、小西一家組員が住吉会組員を射殺した件で(*4)、2010年1月小西一家トップ・落合勇治が共謀共同正犯の殺人容疑で埼玉県警に逮捕されました(*5)。同年3月、落合勇治は組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)と銃刀法違反の容疑で、起訴されました(*5)。2013年7月さいたま地裁は落合勇治に無期懲役の判決を下しました(*4)。最終的に落合勇治は最高裁に上告するものの、2017年12月最高裁は上告を棄却しました(*6)。落合勇治の無期懲役は確定しました。落合勇治の判決から、捜査状況次第では「実行犯の組織トップ」も厳罰に処されることが明らかになりました。

 神戸山口組にとっての例外は、2017年4月神戸山口組から脱退した任侠山口組に対する銃撃事件です(*7)。2017年9月12日、山健組組員が任侠山口組代表・織田絆誠らが乗る車両を襲撃、任侠山口組の組員を射殺しました(*7)。また例外に類する事件としては、2016年12月名古屋市内で山健組組員が弘道会幹部に対し、モデルガンで威嚇したことがありました(*8)。

 2015年8月の分裂以降、神戸山口組が山口組に対し拳銃使用による攻撃を控え続けていたことは、神戸山口組の「非好戦性」を示しました。一方「山口組に対し拳銃使用による攻撃をしない」というルールを守り続けたことは、「神戸山口組内の規律の強さ」を示すことにもなったと考えられます。4年間組織全体で守ってきたルールを覆す為には、神戸山口組内で多くの調整が必要とされるはずです。

 8月21日の銃撃事件の実行犯が、中田浩司であると確定されていませんが、もし中田浩司が実行犯だった場合、実行犯に至った背景について考えてみます。

 4月18日の山健組若頭負傷事件を受け、山健組トップの中田浩司は「相当な報復」を考えたはずです。しかし神戸山口組が中田浩司に「相当な報復」の許可を許せば、2015年8月以降組織内で順守してきたルールが崩壊します。特に2016年5月に若頭を射殺された池田組関係者は不公平に感じます。神戸山口組内の規律を守る為にも、神戸山口組は中田浩司に報復の許可を出さなかったと考えられます。もしくは報復の許可がされない展開を中田浩司が推測し、神戸山口組内で許可を求めなかった可能性もあります。結果、中田浩司は隠密で報復する結論に至り、自ら実行犯になったという展開が考えられます。

<引用・参考文献>

*1 『週刊実話』2019年12月26日号, p32-36

*2 『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』(2019年、日本ジャーナル出版), p30-34

*3 『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』, p90

*4  『サムライ 六代目山口組直参 落合勇治の半生』(山平重樹、2018年、徳間書店), p190

*5 『サムライ 六代目山口組直参 落合勇治の半生』, p21

*6 『サムライ 六代目山口組直参 落合勇治の半生』, p246

*7 『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』, p124-125

*8 『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』, p17

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