北米自由貿易協定とメキシコ麻薬カルテル

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 1990年代メキシコ麻薬密輸組織(カルテル)同士の力関係において変化がありました(*1)。昔はシナロア州やグアダラハラ(ハリスコ州)の麻薬カルテルが主導権を持っていました(*1)。しかし1990年代に入り、アメリカ国境付近の麻薬カルテルが伸張しました(*1)。伸張した麻薬カルテルはティフアナ、フアレス、ゴルフォ・デ・メヒコの3つでした (*1)。ティフアナの麻薬カルテルは「ティフアナ(バン・カリフォルニア州)」、フアレスの麻薬カルテルは「シウダー・フアレス(チワワ州)」、ゴルフォ・デ・メヒコの麻薬カルテルは「ヌエボ・ラレド(タマウリバス州)」(*2)の街を拠点としていました。ティフアナ、シウダー・フアレス、ヌエボ・ラレドの3つの街ともアメリカ国境付近に位置しています。アメリカ国境付近の麻薬カルテルが力を持ち出した背景には、北米自由貿易協定がありました。

 1994年北米自由貿易協定(NAFTA)が発効されました(*3)。北米自由貿易協定はカナダ、アメリカ、メキシコの3カ国により1993年締結されました(*3)。1994年以降、アメリカとメキシコ間の貿易額は増加しました(*4)。国境付近の街には組立工場が建設されました(*1)。ティフアナ、シウダー・フアレス等の国境付近の街は拡大する一方、郊外にはスラム街が生まれました(*1)。国境付近の麻薬カルテルに対し、郊外のスラム街が「構成員の供給源」の機能を少なからず担っていたと考えられます。メキシコ麻薬カルテルにおける縄張りを指す言葉として「プラサ」があります(*5)。プラサは具体的には「密輸目的の特定経路」を意味します(*5)。アメリカ国境に接するティフアナ、シウダー・フアレス、ヌエボ・ラレドの3つの街は「大きいプラサ」に該当すると考えられます。プラサを支配する麻薬カルテルは、他カルテルに対しプラサを使用させる代わりに、手数料を支払わせています(*5)。ティフアナ、フアレス、ゴルフォ・デ・メヒコの麻薬カルテルにとって、プラサにおける手数料収入は多いと考えられます。

<引用・参考文献>

*1 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』(ヨアン・グリロ著、山本昭代訳、2014年、現代企画室), p110-111

*2 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』, p140-141

*3 『物語 メキシコの歴史』(大垣貴志郎、2017年、中公新書), p247

*4 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』, p114

*5 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』, p81

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