ノレン兄弟と呑み分け兄弟

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 ヤクザ組織において「親分」以外の構成員は、基本的に「子分」もしくは「舎弟」に分類されました(*1)。親分は「1人」であり、子分もしくは舎弟は「複数人」だったのです。この「親分-子分」及び「兄-舎弟」の関係は盃事により形成されました(*2)。「親分-子分」及び「兄-舎弟」の関係で構築されていたヤクザ組織は、いわば「擬制的親族」だったのです。

 同じ組織の子分同士は「ノレン兄弟」と呼ばれました(*3)。また舎弟同士もノレン兄弟と呼ばれました(*3)。

 ノレン兄弟の場合、建前上、子分同士は対等な関係でした(*3)。若頭は「長男格」として位置づけられましたが、他の構成員を「弟」としてではなく、「対等の兄弟」として扱わなければなりませんでした (*3)。

 全てのヤクザ組織が「擬制的親族」の形態をとってはいませんでした。「日本国粋会」(1958年結成)は連合型の組織形態をとっており、1次団体トップと各2次団体トップの間で親子盃及び兄舎弟盃は交わされませんでした(*4)。日本国粋会は後に「國粋会」に改称しました(*4)。國粋会は2001年3月、内部抗争が勃発しました(*4)。

 背景には、当時の國粋会会長・工藤和義が、各2次団体トップと親子盃もしくは兄舎弟盃を交わそうとしたことがありました(*4)。工藤和義会長は國粋会(1次団体)の組織形態を、連合型ではなく擬制的親族型にしようとしたのです。しかし「生井一家」「落合一家」「佃繁一家」の3組織トップが工藤和義会長の求めを拒否しました(*4)。工藤和義会長は3組織のトップを「絶縁」処分とした結果、抗争が起きました(*4)。「絶縁」された3組織トップは「そもそも工藤和義会長とは親子盃を交わしおらず、縁がない。なので絶縁はあり得ない」と反論しました(*4)。

 ヤクザ組織の名称として古くから用いられてきたのが「一家」でした(*5)。ゆえに「●●一家」と名乗っていたヤクザ組織は、擬制的親族の形態をとっていた可能性が高いと思われます。

 他団体の構成員と「対等の兄弟関係」を結んだ場合、当事者同士(組織が異なる者同士)は「呑み分け兄弟」と呼ばれました(*3)。呑み分け兄弟の場合、「五分兄弟盃」が交わされました(*3)。2人による五分兄弟盃の場合、同量の酒が2つの盃に注がれた後、2人はその酒を飲み干しました(*3)。このように2人で飲み(呑み)分けることから「呑み分け兄弟」と呼ばれるに至ったのです(*3)。

 呑み分け兄弟の別名は「五分と五分の兄弟分」(五分の兄弟分)でした(*6)。先述の日本国粋会では1964年12月、会長・森田政治は「山口組」若頭の地道行雄と兄弟盃を飲み分けました(*7)。1964年12月以降、森田政治と地道行雄は呑み分け兄弟(五分の兄弟分)になったのでした。

 一方「呑み分け兄弟盃」には2種類あるとする資料もあります(*8)。その2種類は「五分兄弟盃」と「四分六兄弟盃」のことでした(*8)。

 また他団体の構成員と「格差のある兄弟関係」を結ぶ場合もありました。その場合、「兄舎弟盃」が交わされました(*3)。上位者が「兄貴分」となり、下位者は「舎弟分」になりました(*3)。先述した呑み分け兄弟盃の「四分六兄弟盃」も実質、兄舎弟盃だったと考えられます。

 兄舎弟盃において盃は1つだけでした(*6)。まず兄が飲み、舎弟が残りの酒を飲み干しました(*6) (*9)。また兄と舎弟で、飲む量が異なっていました(*3) (*9)。

 兄舎弟盃には「五厘下がり」「一分下がり」(*3)などがありました。五厘下がりの場合、兄の飲む量は55%、舎弟の飲む量は45%でした(*3)。一分下がりの場合、兄の飲む量は60%、舎弟の飲む量は40%でした(*3)。

 先述の國粋会会長・工藤和義は、1993年3月「稲川会」会長の稲川裕紘と「兄舎弟盃」を交わしました(*4)。この兄舎弟盃は「五厘下がり」で、兄貴分が稲川裕紘で、舎弟分が工藤和義でした(*4)。

<引用・参考文献>

*1 『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社), p10-11,52

*2 『現代ヤクザ大事典』, p52

*3 『現代ヤクザ大事典』, p91

*4 『洋泉社MOOK・ヤクザ・指定24組織の全貌』(有限会社創雄社・実話時代編集部編、2002年、洋泉社),p160-165

*5 『現代ヤクザ大事典』, p12-13

*6 『ヤクザ大全 その知られざる実態』(山平重樹、1999年、幻冬舎アウトロー文庫), p99-100

*7 『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫),p50

*8 『SANWA MOOK ウラ社会読本シリーズ⑦ 現代ヤクザマルチ大解剖』(有限会社創雄社・実話時代編集部編、2004年、メディアボーイ),p163

*9 『ヤクザの世界』(青山光二、2000年、ちくま文庫),p40

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